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  作者: 頓挫衛門
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人々が口にする魔術師の噂を聞いたことがあるか?

ここ、シュツァ王国では満月の夜 死体を甦らせる屍術士(ネクロマンサー)が現れるという。


「屍術の天才」

そんなだいそれた枕詞。

枕詞だか掛詞だか知らないが、

私にとってはいざ目標に向かって歩こうとしたその時に足を掛けてくるような、あげてもないのに揚げ足を取られるような理不尽なレッテルに他ならない。

プラスかけるプラスでマイナスの"かけ"言葉だ。

数学的に考えて全く筋の通ってない理論ではあるが、そもそも私の人生に筋などない。お先真っ暗である。

真っ暗言葉だ。

私はこの言葉の前に斃れてしまったのだ。

術式の向き不向きで周りからの評価が百八十度変わってしまうような不平等な世の中だ。

私のような異端児が生まれてしまうのも仕方が無いのだろう。

ここからどうした所で私の人生は捲れそうにない。


此度はその異端児が背負った罪と罰の話をしよう。

なに 面白さは保証する。滑稽でマヌケでどうしようもない一人の術士の話。

「罰…か。」

時代のせいにしなければ、この世界のせいにしなければやっていられない。

好きで背負った訳ではないのだ。

罪も、この女も。


「ええい。重すぎる。」

ええい。だって。

罪がなのか、女なのか。

私の口から出た言葉は間違いなく後者に対してである。

女性に重いと言えてしまうようなノンデリカシーだから追放されたのではないか。そのような声が聞こえてきそうだ。幻聴だろうか。

冗談はさておき、ノンデリカシーだからと追放されるようなことは当然ない。私自身成り行きでこうなってしまった身だ。

であればこれは運命的な出会いであったとも言える。

そう信じたいものだ。

そういった意味では誰しもが辿り着くような結末とは程遠く、この不平等な世界で私は特別な存在だったと言えるのかもしれない。

前述のように好きでこうなった訳では無いが

だが……………………まあ……………一度背負ってしまった以上最後まで果たさなければならないのだと思う。

そしてそれはきっと……

責務…などではなく。


話は遡る。


いつものように人里離れた森の奥で素材を集めていた。

所謂冒険家のパーティに選ばれるような戦士やら踊り子と違って、そもそも集団戦闘が苦手な私は屍術の研究をするより他になかったのだ。

………踊り子? 踊り子が何故パーティに選ばれるというのだ。コミニュケーション能力という奴であろうか。であれば私には最も欠如した能力であり、それが求められるならば私に居場所がないのも当然といえるのだろうか。踊りによって味方のステータスが上昇するロジックも気になる。屍術士として気になって仕方がないが、研究する機会は得られそうにない。どうにも私にとっては縁のない話である。それは縁。

おっと、踊り子ではなくnaporiになってしまった。

これまでの脱線具合からも想像が付くように、良くも悪くも役に立たない術式の研究に熱心で、だからこそ「屍術の天才」なんだろう。

これが私の日常である。

いつものように、いつもの場所で。

しかし、その日はいつもとは違う光景を目にする。


人が倒れている。

怪我をしていて……

どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく

どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく

どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく

どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく

どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく

どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく

どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく

どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく


決して誇張している訳では無い。表現はくどかったかもしれないが、文字通りに、辺り一面血まみれだった。

降り積もった雪に深紅が咲いていた。

深紅の中心に横たわる身体は、小柄な女性のそれであった。

芸術にあまり関心のない私でもその光景は美しいと思えるものであった。

いや、そんなことを言っている場合か。綺麗な顔してるだろ?じゃない。人は生きてこそ美しいのだ。

微かに息はある。死なせないヨ。

しかしどうしたものか……

仮に体重を50kgだと考えて血液量は4L弱…といった所だろうか?

その場合1L以上出血してるようなら生命の危機である

が……

そもそも、この寒さの中倒れていたら血液に問題がなくとも体温の方も心配だ。

刹那に思考を巡らせる。

冷静ではいられなかった。


「おい!!大丈夫か!?」

肩を叩いて第一声。

つい、「大丈夫か?」などと口走ってしまったが、どう考えても大丈夫なはずはない。

どちらかといえば大事だ。

一目見ただけで瀕死の重症だと判断が出来た。

無闇に動かすべきではないがこのままにするわけにもいかない。止血してから体温を調節し、意識が戻るのを待つ。それが理想だろうか。

回復術が使えない訳では無いが人に使えるものだろうか。

使ったことが無いわけではなく

最後に使ったのがいつになるか という話である。

使う対象が居なかったのだから。

「こんなことなら何がなんでもパーティを組んでおくべきだった」




酷く狼狽していた私だったが、結論から言うのであれば、

幸いにも、私の回復術は素晴らしいものであったといえる。

斃れていたのではなく倒れていたのだ。


木陰に移動させてから火を焚いた。

「これじゃあ隠れ家の意味が無いな。」

煙が上がるため極力焚き火はしたくないのだ。

しかし事態が事態である 屍術師として、人命に勝って優先すべきことは無いとここで断言する。

火に照らされた顔は赤く濡れ、しかし、信じられないほどに青くもあった。

むう、目が覚めないな…

眠っているのだろうか。

どうにか自分を落ち着かせようと、とぼけた考えを浮かばせているが目を覚まさない理由については見当はついている。

さて、未だ目の前に倒れている目も眩むような美しい銀色の髪をした美人である。

しかし、この時私の頭の中で取り沙汰されていたのは彼女の容姿ではない。

どうにも見覚えのある女だった。


「王族殺しの大罪人」セリカ

はた迷惑な枕詞である。



どこから

どうやってここに辿り着いたのか。

不可解な点は血痕が続いてなかったことだ。

とすると……

「転送魔法か…出血量と体温を鑑みるに転送してきたのはそれほど前って訳でも無さそうだ。」もう少し遅れていたら回復術ではなく屍術を使うところだった。

私の移動速度と彼女の状態を総合すると、私と彼女の転送位置の距離がそこまで離れていないことを意味する。

それにもかかわらず術が知覚出来ないような高度な転送魔法ということか。

転送位置が私と近かったのは偶然か?

いや、違う。

そんなことはどうでもいい

問題はそこではなく

彼女がここに現れたことによって崩れつつある私の日常であった。


次に起こした自らの行動を合理的に説明することが出来ない

しかし、言葉で表すならこの行動に至った最も大きなファクターとなったのは同情だった。

今の私が何を言おうと弁解の余地などなく、言い訳にさえなっているかわからないが不本意だった。

好きで背負った訳ではない。

それでも…


この女をここで死なせる訳にはいかない。

完全に回復するまで付きっきりだろう。

まあ、どれだけ迫害されようが根底の私は"善人"だし。

尖らせちゃくれないのだ。

大罪人とはいえ美人に恩を売るのは悪くないだろう。

かといって決して良い選択とも言えないが、善い選択ではあるはずだ。

「畜生…。」

暫く葛藤した末私は"悪役役"を買って出る事にした。

乗りかかった船だった。



かくして、大罪人とそれを匿った屍術士の誕生である。

"大罪人"にも事情はあるのだろうが直接話を聞かない限りはそれもわからない。

潰えた夢と共に私は進む。

夜は好きではないのだ。

月は無慈悲な夜の女王だったか…

概要はよく知らないけれど。


歩くこと数刻、家 というか隠れ家というか

私の拠点に着く。

早速容態を確認することにした。

「思った通りだな。そうでなければ良かったのだが。」

様子からわかっていたことだがこの女は眠っていた訳ではなく怪我によって昏睡状態に陥っていたのだ。

頭部への衝撃、出血はその時に起こったものだろう。

起きて歩いてくれれば良かったのだが

そもそも戦闘に向いてない私の体には彼女は重かった。

「いっそのこと…」

喉まででかかった言葉の続きをすんでのところで止め、唾を飲む。

それは私が最も唾棄している考えだった。

私の最も得意な術が使えない。

この女はひとりでに動かないし思い通りにはいかない。

つまるところそれはセリカが生きているという事実の証明でもあるのだ。と。


「とにかくこの女の意識の回復を促すべきか…」

私は癒す方向の術に自負がある。

その自身の根拠については1000文字ほど遡って頂きたい。

見てろよ。今度は修羅に落ちてやる。

いや、そうじゃない。

某アーティストの歌詞みたいになってしまった。

危ない危ない ギリギリセーフである。

異世界に著作権なんてものは存在しないんだぜ。

昨日も王立図書館から魔導書を丸々コピーしてきた所だ。

複製した魔導書の内容は火属性と氷属性を掛け合わせて生まれる消滅魔法についてである。


「さて、この女が目覚めるまでの間 閑話休題としゃれこもうではないか。」

この誤用はわざとである。

そもそも私の話自体が閑話なのだという風刺でもあり…

本来の目的を忘れてはならないという自戒を込めて。

よくしたためて置いた酒があるんだった。

文字通り"下に貯めている"訳なんだが。

間違いなく違法だよなこれ。

ちなみに著作権が存在しないってのも当然ウソ。

「治外法権。治外法権。」

自分に言い聞かせるように繰り返す。

もっと重い罪背負ってるわけだし。

暖炉からは仄かに灰のにおいがした。

「王族殺し」を「屍術の天才」が匿う訳なのだが、王族殺しの通り名の原因となった事件には不可解な点がある。

そちらの調査も進めたいところだ。



暫くして…

女が目を覚ます。

「ここは…?」

そう口にしたセリカは私を見るや否や酷く狼狽した様子だった。

が、そう思ったのも束の間、一転してどこからか剣を取り出すと襲いかかってきた。

「貴様ァ!!」

襲い来る彼女をあっさりと制圧し、剣を取り上げる。

病み上がり所ではなく先程まで昏睡状態だったのだから、勝てるはずもない。

「ぐぅ。」

アホみたいな声を出しながらセリカは倒れる。

「むにゃ…ここは…?」

先程アホみたいと形容したが本当にアホなのかもしれない。

「貴様ァ!!」

アホである。

一回目の攻防で剣は取り上げたので安全に制圧を試みる。

が、奪ったはずの剣が手元にない。

一体どこへ…?

そう思ったのも束の間

即座に行方知らずとなっていた剣を発見する。

なんだ、()()()()()()()()()()()()()じゃないか。

「は?」

知覚した事実に納得出来ないでいるとセリカは勢いよく、破竹の勢いで

すっ転んだ。

破竹の勢いでフローリングを破壊しやがった。

木製なのに。

大丈夫だろうか?

「大丈夫だ。問題ない。」

大丈夫ではなさそうだ。

さて、剣が消失した理由を考える。

持ち主の元へと帰ったと見るのが1番自然だろうか。

1番不自然なのはタイムリープとか?

あるいは手にした瞬間に未来を確定させて世界を再生成するオブジェクトとか。

自分で言っていてなんだが難解だ。

ただ、全ての不可能を除外して残ったものはいかに奇妙であれどそれが真実であり正解なのであろう。試す手段がないけれど。

「散れ。千本桜。」

出るのか!?

卍解じゃなくて良かった。

それにしても平和だなぁ。

どこがだ。

剣を握った女と狭い部屋に1on1。

緊迫した状況で思ってもないような呑気なことを言うのは私の常套手段である。上等だ。やってやろうじゃないか。

太陽が最も高くなる時間。空は青々と晴れていた。


目を覚ましたセリカと一悶着あって。

「私は道端で倒れていたお前を治療してやったんだ。倒れるにしても場所を選ぶべきだ。全くもっていい迷惑だよ。」

転んだままの姿勢だったセリカは立ち上がると自らの身体を確認する。

「確かに…治っている。命からがら逃げ延びたと思ったが、森に入ってからの記憶が無い。」

あの場に倒れるに至った経緯を話してくれると言うのだろうか。

待て。今森と言ったよな?それじゃあ、転移したわけではないのか?いや。血痕の状況から見てそれはありえない。森に入った後転移したと考えるのが自然だろう。その辺も含めて、この女から聞きたいことは山ほどあるな。

山ほどは言い過ぎたかもしれない。せいぜい公園の砂場の山くらいだ。盛りすぎたね。砂だけに。

「ともあれ失礼を働いてしまった。すまない。礼を言うぞ。屍術士エデル」

「!」

おいおい

こちらが一方的にこの女のことを知ってるだけだと思っていたので驚いたが、私もそういった通り名のようなレッテルを貼られていたのだった。

当然といえば当然か。

"この女"という表現はどうにも見下しているようで私自身気に入っている訳でもないのだが、ここで名前で呼ぶのも憚られるというものだ。

「セリカでいいぞ」

思考を盗聴されている!!アルミホイルを巻かなければ!!

本当に思考が読めるって訳では、さすがにないのだろう。

冗談は兎も角として、経緯を話してくれる流れかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

話しづらい事情があるのだろうか?

あるんだろうな。

触れて欲しくない所に土足で踏み込んでいくほど私は無神経では無いのだ。

そうはいっても私も平穏な暮らしを妨げられている。どうしたものか…

思考を巡らすうちにふと気になった事を尋ねる。

「さっきもっていたものとは別に腰にもう一つ剣があるようだけれど二刀流なのかい?」

「いや、私は一刀流だ。師匠は三刀流だったがな。」

三刀流?どうやって持つのだろう。

まあ、ともあれ疑問は解決された。

セリカは最初から三本剣を保持していた。うち本体となるのは一つということなのだろう。時間を巻き戻すとなると相当高度な技術が要求されるだろうが、剣を複製するくらいならば容易いものだろう。

「これはとある有名な剣豪から譲り受けたものだ。その方は師匠の憧れの剣士でもある。」一人合点する私を前にセリカは続ける。

「成程。その剣豪というのはどんな人なんだ?」

「私が聞いた話では元々王族に仕えていたが、奔放に行動していたため追放され…」

追放か…ありきたりだな。

「辺境でスローライフをおくっていたそうだ。」

在り来りを重ねている。

「名をばジュラキュール…」

「あーダメかも。ダメだね。それはダメ。」

自分のことを話す気がないだろうこのアマ。

この女よりも更に酷くなってしまった。

本当に私が知りたいのは先程の違和感の方なのだけれど。

「えー!?それじゃあホントは私に興味がないってこと?思わせぶりなのって良くないと思うな私」

凡そ貴族階級出身とは思えない言葉遣いだ。

さっきまでの態度はなんだったのか。

それに思わせぶりって……

思わせぶりも何も、私たちの間にそういうのは発生し得ないでしょう。

「それでもそんな貴方が好き。だから助けて欲しいの」

「甘えるな。」

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