第1話 7
「もしかして、これも村の皆が……?」
天使様はまた悲しそうに微笑んで頷いた。
この人の表情が変わるせいか、言葉が通じてしまったからかわからないが、この人は"化け物"とは違うのではという考えが『僕』の中に現れる。
それよりも自分達の幸せのために逃げられないように誰かを繋ぎ止めるこの村の人間こそが化物染みていた。
『僕』は優しいと思っていた村の人達に怒りや悲しみに似ているがただただ静かな感情が心を満たすのを感じたが、その名前が何なのかは良くわからなかった。
『僕』の目元や鼻の奥がつんと痛み、熱くなるのを感じる。
少しだけ話をしてしまって、自分がお世話役に選ばれた怖さもあるものの、ほんの少しでもこの人の境遇をも知ってしまい"何だか嫌だ"と名前がわからない気持ちばかりが溢れてしまった。
「う、うぅ……」
嘆けば良いのかどうして良いかわからないものの、ごめんなさいと謝らずにはいられなくて、『僕』はせめてこの人に頭を下げて、悪いことをしている村人達に変わって謝るしかなかった。
泣きじゃくりごめんなさいと繰り返す『僕』を目の前に、天使様は『僕』にゆっくり手を伸ばす。
『僕』は驚いてしまったものの、天使様だって怒っているに決まってる、なら何をされたっていいとぎゅっと目を閉じた。
天使様は『僕』に何かをしようとしたが、それよりも大きな手枷や鎖のせいで檻の向こうに届かず、がちゃ、と大きな音がするだけでこちらに手は届かなかった。
天使様が何をしようとしたかわからないが、優しく笑って、ゆっくりと首を振る。
「僕が、こんな狭いところから出して上げます。そのあと僕や村の人達に沢山怒ってください。ちゃんと逃げてください」
天使を逃せばこの村がどうなるかはわからないが、誰かが悲しい思いをして幸せになるのは嫌だ。
「天使様」ならきっと空の上にいたに違いない。ならこんな石で囲まれた牢獄よりも、明るい空の向こうにいる方が幸せだ。
天使様は肩を振るわせて笑う。
喉につけられた大きな傷痕からひゅうっと息が漏れる。
天使様が嬉しく思ってくれたか、それとも逆にそんなのは無理だと笑い飛ばしたのかのどちらかはなんとなくわかる。
ただそのあとにまた首を横に振って、『僕』を指差した意味はわからなかった
第1話 終了