第1話 4
「ひっ……!」
こちらをじぃ、と眺めるその目に、『僕』がようやく口に出来たのはその短い悲鳴だった。
その悲鳴を聞いて「天使様」も驚いた素振りを見せて大きく後退る。
その拍子に足に繋がれた鎖ががちゃんと大きく鳴るものだから、『僕』はまた小さく悲鳴をあげてしまった。
「天使様」はびっくりした様子で自分の鎖と『僕』を見て、音を立てないようにそうっと鎖持ち運んで檻の隅に座り込んだ。
かの生き物はこちらが様子を伺ってることに気づくと、周りを見渡し何かを探す素振りを見せた後、諦めたのか自分の大きな翼で自身を覆い隠す。
『僕』は動くことも出来ず不安を孕んだまま、その翼の繭をずっと眺め続けた。
意味のわからないモノが突然襲ってくるかもしれない。
もしかしたら『僕』はアレの餌なのかもしれない。
不安と恐怖に押し潰されながらも涙な流れてしまう。
ピンとはりつめた緊張の糸は、だんだん麻痺していくことに『僕』は気づかない。
最初こそ繭が身動ぎする度に驚きはしたが、動きだす気配がないと知ると少しずつ自分の涙の量も減っていった。
「こんなことをずうっと続けるのかな」
最初こそそう思えば泣いて喚いていたと言うのに、段々気分も落ち着いてただぼんやりと繭を眺めるだけになる。
今思えば、それは落ち着くのではなくただの"諦め"に違いなかった。
寝台を使わず、最初に部屋の隅で踞った姿勢のまま、気がつけば『僕』は眠っていた。
それこそ緊張からか、深夜に何度も目覚めはしたものの、「天使様」は動く気はない。
明け方に目が覚めて、薄暗い牢獄に朝日が差し込むとようやくほっとして一息つく。
「天使様」は相変わらず翼の繭に引きこもっているらしい。
薄汚れた大きな翼が陽光に照らされ良く見えた。
だけどもその顔がこちらを向くことはなく、繭に閉じ籠っている。