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降星声聞乘

 侍の抜刀術は、ディレイをかけた斬撃波か、踏み込んでの直接攻撃。


「火竜」


 俺はサインからバフを押し出して、新たに火竜の護符チャームを点した。


「火竜」


 じり、と、ダンの足元から音がする。


「火竜」


 サムライの装備は足先まで覆うキュロット状だ。素人目では、体捌きを見切れない。


「火竜」


 DEF強化の筬虫オサムシは押し出した。動き出しを見逃せば、斬られる。


「神鳴」


 ダンが踏み込む――よりも速く、俺は飛び出している。

 択を迫られるのが嫌だったら、どうする?

 出がかりを潰せばいい。


 前にした右手を、まっすぐに繰り出す。

 最短距離を最速で、拳が奔る。


 累乗するバフを四つ乗せた、STR八十一倍の致命的な拳撃けんげき

 隕石の写像として、畏れと共に、人々はこの拳をこう呼ぶ。


降星声聞乘くだりぼししょうもんじょう


 ダンの鼻梁が、潰れる。

 頬骨が、罅割れる。

 頭蓋が――


「んんんぐううっ!」


 突き進む右拳を、俺は左拳で力いっぱい殴りつけた。体がぐるんと回転し、パンチはあらぬ方向めがけて繰り出された。


 落ち葉みたいにくるくる回って、よたつきながら静止する。

 ダンは、ひっくり返って気絶していた。顔はちょっと凄惨な感じだけど、うん、ちゃんと生きてる。

 そのうち目を覚ますだろう。


 火竜を五つ乗せた降星縁覚乘くだりぼしえんがくじょうだったら、ダンはチリ一つ残さず消滅していた。声聞乘なら、この通り、自分の意志で止めることができる。

 代償はめちゃくちゃ大きいけど。


「うごごごごご!」


 うわ言っちゃった、俺の口からもうごごごごご出ちゃった、これつい言っちゃうねえニーニャさん。


「痛い……痛すぎて吐きそう」


 左拳にぶん殴られた右腕は、前腕のまんなかあたりでぽっきり折れていた。これが必殺技を無理に止める代償だ。辛すぎる。


「そっ、添え木、布、やばい血の気引いてきた」


 俺は這いつくばって、なんかいい感じの木の棒を必死に探した。あっちもこっちもけた板とか砕けた土塀のカケラとかで、ろくなものがない。


「やばいこれは本当に、やばすぎて笑う、もはや楽しい」

「使え」


 なんかいい感じの木の棒が目の前に落ちてきた。頭になにかがふわっと乗って、手に取ると、なんかいい感じの布だった。


「どうもありがとう痛い痛い痛い痛い! あこれ無理だ、自分じゃ無理!」

「呆れたぞ、“尖風”」


 ダンのため息が降ってきた。


「いや昔はできた、ほんとだよ、余裕だったんだって」


 もう起きたの? とか、そんなことに言及している余裕が一切ない。久しぶりの骨折が辛すぎる。冬戦争のときは常時興奮状態だったしなにより若かった、多少の無茶が効いた、でも今の俺は子ども部屋おじさんだし一般的に言って子ども部屋おじさんに骨折の機会あんまないよね? そこは共通認識でいい? だからぎゃーぎゃー喚いてもしょうがないでしょ子ども部屋おじさんなんだから俺。


「腕を出せ」  

「痛いって! 無理まじふざけんなぼけがぁ! うごごごごごご!」


 絶叫する俺を完全に無視して、ダンは骨折の処置を済ませた。


「……助かりました」


 涙目で、俺は頭を下げた。


「なぜ、殺さなかった」


 ダンは端的に訊ねた。


「会ってほしい人がいるから」


 だから俺は、端的に答えた。


「それは、ブラドーの廃王女か」

「その通りです、ダン・パラークシ」


 月光の作る影の奥から、光をともすように、小さな体が現れ出でた。


「ニーニャ・ブラドーは、あなたを待っていました」

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