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2 Geometry Witty



朝というのは、どうにも体が動かない。


まだ、誰かに見られてる感じがする。



いっえーい! 見ってるー!?





……冗談はさておき。



「起きろ。もう朝の八時だ、ご飯は作ったから」

「……! ご飯、おはよう!」 「……おはよう」




ベッドで色々と寝言を吐いていた唯愛を、餌で起こす。


「今ってどういう状況?」

「病院に着いた時に寝ていたお前を、俺の家にぶち込んでる状況」



すぐに飛び上がる。


なんだその目は。

まるでやばい人を見る目だぞ。



「えすおーえすー!」 「お前マジでふざけてんのか」



こいつ何だか勘違いしてないか?

この話はもっと盛り上がる場面があると思ってるのだが、もう話した方が良いのだろうか。


君らに共感してもらおうという気は更々無い。


でも、どうせ人の心の中を見るなんて面白い体験をしているのであればもっと楽しんでいって欲しい。



「ちなみに、モールス信号においてSOSは・・・/---/・・・となり打ちやすいから採用されたんだ。お前もこの手法で誰かに助けを求めてみたらどうだ?」

「嫌だよ。そんな妙な豆知識マシーンみたいな事したく無いよ私」



あっそう。

まぁそれならそれでいいや。俺が近くにいれば基本的には安全だろ。





「お母さん、命に別状は無いんだけど……」


寝起きからテンションが高かったのだが、現実を思い出すにつれて普通、どんどん暗い顔になっていく。





結局、運ばれたのは唯愛の母親だった。

それを確認した彼女はそのまま倒れ込んでしまったらしい。


容態を聞くために一度起きはしたものの、俺が病院に辿り着くころにはぐっすり。


結構深めの関係者であった俺は病院の方から容態を聞いて手紙を置き、こいつを回収して我が家に帰還したという訳だ。



ちなみに前回の反省を生かして事前に父親に連絡を取ろうとしたのだが、同じく連絡を取ろうとしてくれたらしい看護師さんが父親はこの世にいない事を教えてくれた。


なので特に親の許可無く勝手に泊めている。





知らなかった。



何か変に理解したつもりでいたが、知らない事が沢山あったんだな。




あんな適当な事言っちまった自分を殺したくなったが、踏みとどまっておく。


そんな事なんて現代では日常茶飯事だ。

死というものが常にラッピングされて届く世の中、死にたいと思わなかった人なんていないだろう。



人間の感覚なんてそんなもんだろ。





「きょふほははひはあっひひひこふほほほうへほ、ほうふる?」



うーん。


『今日も私はあっちに行こうと思うけど、どうする?』 では無いだろうか。


トーストに齧り付きながら聞いてくる。どっちかにして欲しい。



「お母さんが倒れた原因って分かるか? 俺はまだ本人自体見たことが無いが、どんな感じだったか教えて貰えると助かる。無論お前が辛くない範囲で構わないが」



病気関連だったら、わざわざこんなご時世帰ってこないだろうし。

もし外科なのであれば犯行中に見つかりそうなものだが。

かと言って薬だったら中途半端に苦しめるだけなのは効率が悪い。



通報した人物に会えなかったのが一番痛い。



多分そいつが何かした気がする。





しばらく、音の無い時が続いた。




「わりぃ、実際に会って確かめる。先に行ってるから荷物とかおいてからゆっくり焦らず来いよ、学校の荷物はそこにまとめてあるから持ってけ」



まぁ初めからこうするべきか。


一旦自分で動くというのは、人に頼るよりも良い事が起きそうだ。



「ごめんね。身勝手な人のためにここまで気を遣わせちゃって」

「大事な親をそういう風に言うんじゃねぇよ。何なら今、俺の中で少しだけ固まってきた仮説を証明しに行くという新たな目標も出来たしな」



頑張って笑顔を作る。

彼女はそれに気が付いているのかいないのか、苦笑いした。






正直、少しだけ無理をしている自覚はある。


昨日の事の時間がまだ湧ききっていないからこうして振舞えているが、半分くらいの責任は俺持ちだ。


あのふと呟いた一言が無ければ、また少し状況が良くなったかもしれない。

どうせ連日夜更かしする唯愛を休めと言って早く送っていたら、お母さんを助けられたのかもしれない。




彼女にも同じ事を言ったが、後悔しない事なんて無いのだ。


悔やんだまま重力に従って落ちて行ってはいけない。



しゃーないって現実逃避するか、そんな暗い感情が気にならなくなるくらいまで頑張るか。



今から後者を実演しようと思う。





「洗い物だけな! 洗い物だけは絶対頼むぞ!」 「らじゃー!」





+++++++++++++++++++++++++++++++





980の病室に向かう最中。



電車に乗りながら昨日の報酬を見直していた。




病院にそのまま向かわなかった理由である「やるべき事」とは、彼女が誰のせいでこうやって運ばれたか突き止める事だ。




普段の俺だったら鼻で笑っている所だが、今回は関係が深くて正常な判断が出来ていなかったのだろう。だからこんな意味の分からない事が出来るし、それを続けられる。


学校で毎年配布される手帳を取り出す。あの学校の良いところトップスリーには入るな。






『通報した当人は救急車があそこまで来た時点でいなかった。その代わりに人だかりが起きていて、その真ん中で看病してる雰囲気の奴がいた』


これは近くにいたマダムから聞いた話だったな。

この方はどうやら近所に気を配るタイプだったらしく、倒れていた人の顔を見てどこか見た事のある顔だと感じたそうだ。



俺たちが来た時にはいなかった謎の人物は、犯人だろうか。


犯行後に疑われないよう敢えてそこに立って治療しているふりをした、という説も考えられえなくは無いよな。




『あそこに行く際に通らないといけない道では、被害者の他に2人の子供(高校生くらいだったそう)と6人の大人を見かけており、全員が男。そして救急車が来るよりもかなり前に全員出て行った』




パトロールしていた警察官の方からいただきましたー。



……あまりふざけている場合ではなく結構重要な証拠だ。


その10人はここの近所の人と共に犯人の圏内に入る。

あれだけの人だかりがあれば、犯行後に中に混じってゆっくり消えることもできるし。



今回に限っては、無暗に逃げるのは偉くはない可能性があるな。




『今日の午後は工事か何かの影響で若干有害な物質が漂うから外出時間を短くして、というチラシが出回っていた。それを渡していた男は普通の配達員だったので関わっている事は無いと思う』



近くで一部始終を見ていた高校生。

唯愛を馬鹿にするような奴らの証言なんて信じたくも無いが、目的の達成のためなので仕方が無く証拠に加えておく。



ここからわかるのは、犯人の規模だ。


きっと犯人は一人じゃない。


大分前から計画されていたのであれば話は別だが、それだったらこんな知能の低い俺が推理できる程の謎を残さずにもっときっちりやる。



そもそも外出自粛とか騒がれてるこのご時世にそこまでするとは、中々用心深い奴だな。





改札口を通り過ぎて、手帳を閉じた。



れっつら盤面整理タイムと行こう。




証言をすべて正しいと仮定する場合、犯人の一部はやはり「一番初めに母親を看病していた人間」だと思う。


そいつを中心として、周りにある程度の印象操作を行ってる奴らがいそうだ。



他にも何かバレなさそうな工夫をしている筈。


だが、バレなさそうな工夫というのは結局は苦し紛れの策なもので中々にバレやすい。




そもそも、この事件の目的が微妙なんだよな。

彼女を殺すためなのか、唯愛に対する何かなのか、はたまた誰でも良かったのか。


でも全部、しっかりと息の根を止める方が利点が多い。



なぜ殺さなかったのか。それに尽きる。



聞ける限りは聞いておきたい。


ついでに唯愛の近況でも報告してあげよう。





病院の入り口の扉を開ける。






……と同時に、面会禁止のビラが目に入る。





+++++++++++++++++++++++++++++++






「ただいま」 「お帰りなさーい」



当たり前のように出迎えてくれる唯愛。

俺は結婚したのだろうかと一瞬勘違いするも、そういえばここにいたんだったなぁと思い出す。



結婚なんて一生しないというのは、思春期ゆえの感情だろうか。



「帰らなくて良いのか?」

「一応、今日行った時にお母さんから許可は貰ってるから。電話する? 会えなかったんでしょ?」

「なんか無理そうなんだろ? 具合悪い時ほどしんどい時はねぇからやめとくわ、ありがとな」 




どうやら、コロナ禍とかいう今日一日俺を苦しめたものが無くても結果は変わっていなかった。


彼女は人に会う事を拒んでいるようだ。

それも、女性は平気で男性は駄目という中々に特殊な状況らしい。



なので今日もまた捜査をして帰ってきた訳だが。



「それが事件と関係してるなんてことも無くは無いのか。何はともあれ、今日はまだ朝しか食ってないから飯だけ食ってくる」



時計は既に8時を回っている。


ゴールデンウィークの外出自粛を大幅に破ってしまった。ごめんね東京の全て。


復讐のためなので、と言ったら許してもらえないだろうか。








「はいご飯! 温める?」 「今日お前どうした? 本当に水瀬唯愛か?」



差し出された美味しそうな焼き魚。

俺は、それと唯愛らしき人物を交互に見比べた。


こんなに料理が上手い子でも無ければ、ここまで食い意地の張らない子でも無かった。




「失礼ね! 何か、こうやって迎え入れてご飯渡したり話したりするの憧れてたの!」

「あーはいはいそりゃどうも、じゃあ後は自分でやるから。魚サンキューな」



キッチンまで歩いていき、レンジにぶち込む。

そういう理由ならなんかまぁそうなんだなとしか思わない。


こいつに持つ可愛いは、動物園の動物に持つ可愛さなんだよな。



「ねぇ大丈夫? ほんとに男の子なの?」

「あ? 何だその言い方、心配してんのかバカにしてんのかよくわからねぇぞ」


余程自分に自信があるのだろう。


若しくは距離の近さを気にしてるのかもしれない。



だが俺は、「男だから」「女だから」というのが一番嫌いだ。



「別にお前の事嫌いな訳じゃねぇけど、そこに男性女性が入ってくるのはおかしいだろ? お前も俺も以心伝心の方が何かとかっこいいじゃねぇか」


頬を膨らませる。


「なんかそういう風に言われれば言われるほど、好きにさせたいというか」

「お前それやばい人の考え方だぞ。今すぐ心を洗え、生まれ変わるんだ」




加熱した魚とご飯を、テーブルに置きながら言った。


「結局さ、私はあなたの事が大好きなんだ。でも望む風には一生見て貰えないんだね」



頬杖をつく唯愛が静かに呟く。





「何でだ? 好きなら好きなりに、出来るとこまでぶつかればいいじゃねぇか」


「この状況でそれ言う?」 「思ったことを口にしただけだ」




世の中完璧な事が多いって話をした気もするが、絶対となると中々無い。



絶対と言える状況なんてぜひともお目にかかりたい。




だから諦めちゃだめだ。



……フッてるの誰だって話だけど。




「この話終わり! それよりももっと大事な話しようぜ、例えばお母さんの証言とか」



手を叩く。


こうすれば気持ち的に切り替わった気分になる。



「あぁ、そういえば貰ってきてって頼まれてたね。はいこれ」

「サンキュ。えーっとどれどれ……」



頂いた手紙を開ける。





「じゃあ読むぞ」



これを読む事で、何かしら足しになると良いな。



相変わらずそんな事しか考えられえないまま、文字列を読み上げる。





『まず、これからお手紙をお読みになる皆さんに深く謝罪を申し上げます。本当に申し訳ございません。


 どなたか存じ上げませんが、うちの唯愛の面倒を見て下さっている方だと伺っております。

 非常に落ち着きの無い子ではありますが今後ともよろしくお願いいたします。


 私が今このようにして倒れてしまった原因について何か証言があれば教えて欲しいとの事でした。



 これについても大変申し訳ないのですが、全く記憶が無いという事をお伝えしなくてはなりません。

 正確には、所々フィルムを傷つけた映画を流すように映像や言動が抜け落ちてしまっているのです。


 ただ一つお役に立てるかもしれない事を申し上げるとすれば、私は男性の方に襲われた経験上男性の方

 を避けてしまう事があるのですが、それが今朝起きてからエスカレートしてしまっています。


 もしかすると今回の事と関係があるのかもしれません。



 改めまして、このようになご迷惑をかけてしまう事を心よりお詫び申し上げると共に、皆さまがどうか 

 無事に事件を解決してくださる事を願っております。





                        水瀬 天彩 』 




初めは何て丁寧な手紙なんだろうと感じたが、読み進めていくと次第に精神状態があまり良くない事を思わせるようなぐちゃぐちゃな言葉遣いも見受けられる。


ちなみにこの手紙は唯愛を通して匿名で渡してもらっている。



「この名前なんて読む?」 「あい、だったと思う」



読めん。


「しっかし、なるほどな。唯愛は過去にそういう事があったって知ってたか?」


聞くと、少しだけ眉を動かして。


「知らなかった。でも、別に何かそれで困ってるような様子も見た事無いけどなぁ」




彼女の予想は恐らく正しいだろう。



犯人は男性。


それに襲われた天彩さんは、昔の記憶と相まって抵抗することができなかった。

しかも、その時のショックと合いまったのか単に物理的な傷なのかは定かではないにしろ、記憶が抜け落ちてしまった。


十分に成り立つ仮説だと思う。




「だとしたら、辛かっただろうな」



久しぶりに心から同情した。









それは、俺が関わっているかもしれないから。





「それで? 今日もいろいろ頑張ってたみたいだけど、この手紙を読んでどうするの?」

「あんまり詳しくは決めてない」 「何それ」 「言葉通りの意味だよ」




復讐と言ったら、きっとこいつは反対するだろう。


性格上間違いなくプラスの感情は示さない。



それであれば俺が一人で完遂させてしまう方が良いという判断。



「まぁなんだ、罪滅ぼしみたいな感じだよ」




なので適当に嘘を吐く。

この子はきっと、悲しんでも自分から元気になれる人だろう。


なんならそのまま周りまで笑顔にしてしまうような。



俺みたいな汚れた人間とは大違いだ。







「ねぇ、ほんとにそれだけ? 私のいないところで何か大事な事が起こったりしない?」





運悪い事に、彼女は勘づいたようで。



「何も無い。あったとしてもお前はこういう時絶対に良い顔をしない」




見ちゃだめだ。

こいつの不安そうな顔を直視したら、話してしまう気がする。



目を逸らしながら様子を窺う。



かなり疑ってはいるが、もうあまり問い詰める感じでは無さそうだ。





「じゃあ何か手伝って欲しい事があったら伝える。お前が一番頼れそうな時は遠慮無く協力して貰う」



役割というのはわかりやすい認定だ。

自分がそこにいる理由になる。


特にこういう阿保の子は嬉しいのではなかろうか。



「りょーかい! それじゃあ何かあったら唯愛お姉さんに任せなさい!」



簡単で助かる。



「馬鹿野郎。今はお前は精神的に、俺は肉体的にきついだろうが。今日は寝るぞ、本来は太陽の休日で睡眠時間の貯蓄をしている筈なんだからな」 「はーい」



お風呂を沸かしていたらしい彼女は、るんるんと走って行った。いつここを出るのだろう。


出来れば隠し事は早く終わらせたい。

具体的には、このゴールデンウィーク中には何とかしたいところ。




現在俺がするべき事は。


1、天彩さんを襲った男(を含む集団)の居場所を確認する。 


2、奴らがどのような理由で犯行に及んだのか把握する。


3、2の結果に関わらず、その場で同じ制裁を受けてもらう。



この三つだ。




とりあえず、千里の道も一歩からというものだし1から進めてみる事にしよう。


そしてそこから相手に気づかれる前に一気に詰める。


何も殺したりするわけでは無い。

逆に、殺してしまったら苦しみが続かないから絶対にやらない。




犯行手段については少しの仮説がある。



明日はそれの確認からという事にしよう。






夜というのは、割かしどんな事でも軽く考えられる。




お読みくださりありがとうございます。作者のあにーです。


地味にタイトル付けに時間がかかるこの作品。

今回のはグーグル先生の力を借りてもカタカナになるだけなので注意して下さい……


それってすなわち頭の悪いタイトル付けなのでは!?


次回は明日の20:10投稿。 感想、評価などで5日間応援してくれると嬉しいです!


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