パーティから追放されたけど、自称チートなドラゴンパワーネックレスを手に入れたのでもう遅い
「あー、どうしよ」
俺は途方に暮れてた。
というのもさっき。
所属してた冒険者パーティを。
追放されてしまったからだ。
冒険者は実力主義。
なにせ互いに命を掛けてる。
お義理とか忖度なんてものはない。
どこまでもシビアにお互いを評価する。
だからマズイ。
別にパーティにお貴族様がいて。
不興を買ったなんて事もない。
俺は冷静な判断で追放されたって訳だ。
問題は今後どうやっていくかだ。
要は役立たずの烙印を押されたって事。
そんな不名誉な話がすぐに広まるだろう。
新しい仲間を見つけるのも難しくなる。
噂が広まる前に仲間を探す?
仲間になった後に噂が聞こえたらアウトだろ。
騙したなって怒鳴られて殴られるのがオチだ。
じゃあソロでやっていく?
それこそ冗談だろ。
1人でできる事に限界があるから、パーティを組むんだ。
冒険者なんていうが実際は、金次第でなんでもやる人のクズだ。
どこにも行き場のない、明日の生活も知れない根無し草。
そんな信用できない奴なのに、手を組まなきゃいけない。
むしろそんな、信用ならないクズだからこそ。
ある意味じゃ誰よりも、信用を大事にするし、噂は集める。
そうじゃなきゃ、下手な奴と組んで、酷い目に遭うからな。
やっぱりここを離れるしかないか。
噂の届かない新天地で、新たな一歩を。
根無し草の強みってところだ。
それならカバーストーリーが必要か。
冒険者に事情を詮索しないなんて不文律はない。
特に余所者とか新参者に、向けられる目は厳しい。
だってそうだろ?
もしかしたらそいつは。
仲間を裏切って殺して。
地元にいられなくなって。
流れてきたのかもしれないんだから。
詮索しないなんて手はありえない。
本人の口から出た内容が、本当の事かはともかく。
少なくとも話さえ聞けばそいつが。
話を取り繕う頭のある奴なのか。
ただの考えなしのバカなのかぐらいはわかる。
俺がなんで住み慣れた土地を離れてきたのか。
それを納得させる話をでっち上げた方がいい。
「小道具でも探すか………」
例えば安物の木彫り細工でも買って。
これはかつて故郷の幼馴染が持ってた物で。
質に流れていたのを偶然見付けたんだ。
故郷に戻ってもその幼馴染はもういなくなってたから探してる。
………なんて触れ回ってもいいだろ。
冒険者なんてバカだから。
そういう人情話には弱いだろうしな。
そうやって冷やかしがてら。
魔法道具屋を覗いて見る。
相手の興味を引くのは、大事だからな。
役立たずな道具でも、話の掴みにぐらいは使えるだろう。
「うへぇ………」
そう思って店内へ入ると、雑多に物が並んでた。
一目見たところでは、何に使う物なのか推測できない。
これは目を覆うマスクか?
「あー、何々?」
隣の張り紙に、説明が書いてあるようなので読んでみる。
奇跡の透視マスク?
これをかければあら不思議?
どんな服でも透けて見える?
エーテルを応用した最新技術?
遠見の魔法のメカニズムを解析して実現した?
「なんだこりゃ?」
なんて頭が悪い。
この魔法万能世紀で。
こんなのに騙されるアホがいるのか。
むしろ話の種としては使いやすいかもしれ………
「ハァ!?15000マニーだとッ!?」
思わず叫んじまった!
クジナート工房の誇る名匠カシナートが!
鍛えた剣並の値段がついてるじゃねぇか!
こんなインチキ商品に!
そんな代金払う奴の気が知れねぇ!
改めて棚を見回すと途端に胡散臭く見えてくる!
「裏記録石ねぇ」
当店だから入手できた数量限定!
王国では決して見られない秘密!
帝国だからこそ記録できた映像!
他にないクリアな映像と大迫力!
モザイクは一切なし!クッキリ鮮明!
隠された神秘のヴェールの奥を解き明かす!
………懐かしいなぁ、オイ。
なんともいえない苦い表情になる。
記録石は映像を記録できる魔法道具である。
そして裏記録石とはえっちな光景を納めた記録石………ではない。
外国の風景をただ記録しただけの記録石である。
多分煽り文からすると帝国の観光名所的なやつ。
なんでそんなもに裏なんて禁制品みたいな名前がついてるか?
そりゃアホを勘違いさせる為だな。
裏なんて名前がついた記録石!
きっとエロエロでアヘアヘな映像が!
余すところなく納められてるに違いない!
だってこんなに高い値段がするしきっとそうだ!
そして期待したエロエロな光景とは裏腹な。
風光明媚な映像を呆然と眺めた後に気付くんだ。
よく考えたらえっちって説明はされてなかったんだと。
勝手に期待して勝手に騙されただけの独り相撲だと。
何よりどう自分の正当性を訴えるつもりだ?
えっちだと思ったのにえっちくなかったから金返せ?
若いなぁと笑われるのが関の山だろ?
絶対えっちですと説明されてたならまだしも?
………だからあのときも泣き寝入りしたんだよなぁ。
みんなで必死に貯めた金出し合ったのにさ。
若かりし頃の苦い思い出だ。
「はぁ」
クソデカ溜息をついて目を逸らす。
すると少し奇抜なネックレスが目に入る。
今度はなんなんだ。
ドラゴンパワーネックレス?
ドラゴンの力が秘めたる才能と?
前世の記憶を呼び覚ます?
次々寄せられる喜びの声?
しがない支援職だった僕は?
ある日パーティを追放された挙句に?
結婚の約束をしていた幼馴染を?
いけ好かないクソイケメンに寝取られて?
失意のどん底を味わっていた時に?
運命に導かれてこのペンダントに出会いました?
これを身に着けてからというもの?
突然前世の記憶に目覚め?
超強力なチートスキルを使えるようになり?
突然色んな美少女が周りに侍るようになり?
やる事なす事全部が評価されるようになり?
目も眩む大金が次々と舞い込むようになり?
ついでに身長が10cmも伸びました?
もうネックレス無しの生活なんて考えられません?
(王都在住のカゲキャさん)
王子と婚約関係にあった高位貴族令嬢だった私は?
冤罪をかけられて一方的に断罪され?
かつての婚約者をポッと出の平民に寝取られて?
失意のどん底を味わっていた時に?
運命に導かれてこのペンダントに出会いました?
これを身に着けてからというもの?
突然前世の記憶に目覚め?
領地改革のアイデアが次々思い浮かぶようになり?
突然ハイスペックイケメン達に溺愛されるようになり?
やる事なす事全部が評価されるようになり?
目も眩む大金が次々と舞い込むようになり?
ついでに元婚約者は廃嫡されました?
もうネックレス無しの生活なんて考えられません?
(王都在住のユメジョシさん)
金貨が敷き詰められた風呂の中で。
露出度の高い水着を着た、美少女エルフを両側に侍らせる。
THE成功者って感じの男の絵が展示されてる。
隣にはやたらキラキラしいイケメンに。
守られるように囲われた貴族令嬢らしき女の絵。
「うん、コレだな」
宝玉を鷲掴みする龍の爪みたいなデザインの、ネックレスを手に取る。
決め手は何かって。
龍の眼みたいな石が、目を引いたからな。
派手で目を引くなら、それでもう、目的は達成されてる。
しかもお値段4000マニー。
冒険者の成功は、身に着ける物に現れる。
外見かみずぼらしい奴は、食うもので手一杯。
外見が洗練されてる奴は、懐に余裕がある。
余裕がある=成功者、という事に他ならない。
つまり冒険者としての箔付けには。
装飾品はちょうどいいって訳だ。
「………それに」
このデザイン。
童心を刺激されるというか。
心に突き刺さるものがあるしな。
話のタネになり。
成功のステイタスとなり。
デザインも気に入ったなら。
いい買い物だろう。
………なんて言ってたのも今は昔。
俺は今、途轍もなく後悔してる。
「ヘイ、ジョージ。見ろよあそこにいる奴、ドラゴンパワーネックレスなんかしてるぞ」
「なんだってサム、あのネックレスを身に着けてる奴がいるなんて、とても信じられないよ」
「HAHAHA!なんたって別名、田舎者の証だからな!」
「わずか200マニーの石を、誇らしげに首から下げるなんてね!」
「俺なら恥ずかしくって、外を歩くなんてできないぜ!」
「それは仕方ないさサム。なんたって彼は………」
「「田舎者なんだからな!HAHAHA!」」
………死にたい。
このネックレス、なんと有名なボッタクリアイテムだったらしい。
お陰で俺は、おバカな田舎者のレッテルを貼られている有様。
それから数年後。
同じくドラゴンパワーネックレスを身に着けた。
田舎者2号と田舎者3号と出会って意気投合し。
「「「俺達を笑った奴を絶対見返してやる!」」」
と、固く誓い合い。
そこそこ名の知れたパーティにのし上がったのは別のお話。
今では俺達の出会う、切っ掛けになったとはいえ。
苦い思い出である、ネックレスの話は禁句だったりする。
ある日そんな俺達に、露天売りが声を掛けてきた。
「そこの冒険者のお兄さん!王都で流行のパワーストーンネックレスはどうだい!」
俺達は泣きながら、同時に飛び上がって、こう叫んだ。
「「「ネックレスはもうこりごりだよ〜!」」」
………その様子がよっぽど面白かったのか。
俺達が大粒の涙を流しながら飛び上がった時の映像が。
顔を丸く残す様に塗り潰されるという記録石が大流行を生んで。
こりごりトリオと呼ばれるようになったのもまた別のお話。
ちゃんちゃん♪
昔の漫画雑誌の通販ページにあった、なんとかネックレスの効能って、丸っきりチーレム無双モノのテンプレだなと思って、思いつきのみでやってみました。