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短編集

終焉の使者

作者: 蒼騎士

世界の終わりとか考えたくもないですが、そういう映画を見るのは好きです。


デイ・アフタ・トゥモローが好きです


あれを見た時……腰を抜かしました、子供ながら

終焉の使者


正しく世界を滅ぼす……さぁ、仕事を始めよう





世界とはなんなのだろうか?


世界は生まれ、育ち、滅びる。


神がいる世界は神によって管理される。その世界は神によって順当に育てられ、終焉を迎える時は目的があって終わる。


だが、神のいない世界は違う。神が捨てた世界、神なしで生まれた世界。

それらは揺らぎ不安定だが、奇跡的に存在を確立させた世界もある。


存在を確立させた世界の滅亡は劇的で危険で悲劇的だ。



だからこそ、この仕事は必要なのだ。




我らは正しく世界を終わらせる。




*****


「おかぁさん〜。雨が止まらなぃよー。」


幼子が窓の外に目をやると、そこにはバケツをひっくり返したかのような雨が降っていた。


「雨止まないね。……ほら、明日は晴れると思うから早く寝なさい」


「はーい。最近ずっと雨だなぁ〜」


暖炉の前で編み物をしていた母親は、疲れた顔を上げると、優しい声音で言い聞かせた。


子供を部屋にいかせ、窓の外を見やる。

陰鬱な空気を見せないよう振る舞っていたが、子供がいなくなった今その仮面は剥がれ落ちていた。


「ご飯大丈夫かしら……、もうそろそろ備蓄品の底が見えてきたわ。」


台所の方へ歩いていく。そこには空になり畳まれた段ボールが十何枚も積まれていた。

残り3箱になった段ボールをひと撫でし、水の入ったポットを暖炉へ持っていった。


その時、バン!という音とともに扉が開いた。


「今帰ったぞ!!見ろ!!」


嬉しそうな音と共に、無精髭の生えた男が飛び出してきた。


彼は濡れたままだが体を拭くことなく、自分が背負っていた大きな鞄と、かけていた2つの鞄を開いた。


「ほら見ろ!これはしばらく分の食料になるんじゃないか!?それに!」


男は息早に話す。


「あいつにこれを持ってきたんだ。」


今までの勢いが和らぎ、優しい表情で、鞄から絵本を取り出した。

それは水に濡れてない、綺麗なモノだった。


「貴方!これって……」


「大丈夫だ。盗んだりしてないよ。こんな時だ。あいつが笑ってくれるものが見つかって良かった。」


そう言って父親は絵本の背表紙を撫でた。


「こんな高価なものよく見つかったわね」


「もうどこもかしこも人はいないからね笑こんなものまで手に入ったりするよ」


ニヤリと笑ってウィスキーを、取り出した


「ほんと、ちゃっかりしてる」


夫婦は2人楽しげに笑っていた。

だが少しして、母親の顔が曇る。


「ねぇ、避難はしないでいいの?」


「そうだな……。まぁ、避難した方がたくさん人はいるだろうから不安も和らぐかもしれない。だが、食料も足りないし問題も起きるだろう。それに、」


「それに?」


「俺は決していい場所じゃなくても、借金して手に入れたこの煉瓦の家が好きだ」


2人で決めた家だからね、といたずらっ子のような顔で笑った。


轟々と降る雨の街。その小さな住居群の一角には、温かな光が灯っていた。



「それにしてもびしょ濡れよ。しっかり乾かさないと部屋に入れませんよ」


「……。」










「……ふぁ〜、パパ帰って来た。明日いっぱいお話し……」


自分の部屋でこくりこくりと船を漕いでいた幼子は、ぼーっと窓の外を眺めていたが、眠気に抗えなくなったのか、静かに夢の世界に旅立った。



幼い少女が見ていた窓の外は、これでもかというほどの雨が降っていた。


その中に2人の人影が降り立った。





雨が降り始めて、1111日間経った日の事である。



*****








数メートル先すら見通せない雨の中、空間が揺らぎ、2人の人影が落ちて来た。


「見ましたぁ?いい家族ですねぇ〜先輩」


それは、黒いマントで身を包み、目深いハットを被っていた。

声色からおそらく男だろうか?

明るい脳天気そうな印象をほかに与える。


「そうだな。早く仕事に移るぞ。」


黒いスーツにビジネスコート、ビジネスバックを持ち、キリッとした眼鏡をつけたサラリーマン風の男は、軽薄そうな男を見ることもなく歩き出す。


「相変わらずドライですねぇ〜。ま、こんなのにいちいち感情移入してたらキリがないっすもんね!」


まるで無邪気な子供。愉し気にスキップをしながらついていっている。


「それにしても雨がすごいっすね!最早水の中みたいですわ」


両手を広げ、クルクル回りながら雨を満喫していた。


「はぁ〜、キャリュィヴャニュッア・ミルィシリンリン・クランプトォウケャ第1界域。あまり不真面目だと学び直しさせるぞ。」


「ゲッ!そいつは勘弁してくださいよぉ〜。やっと第1界域になったんですから。」


さっきまでの元気はどこにいったのか、げっそりとした顔で座り込んだ。


だが、すぐに立ち上がりにやにやと


「それに、折角パートナーなんですからもっと親しげに呼んで下さいよぉ〜」


「……。」


「あれぇー、パートナーと、仲良くなりたいなーぼくはー。んー?」


困って反応がないことが楽しいのか、円を描くように周りを回る。

下から見上げるように仰ぎ見る。




「……、きゃー君。うん、きゃーくんでいこう。よし仕事だ。」




そんなきゃー君の物言いにさせし気を悪くすることもなく、一仕事したとばかりに満足気なゆうに対して、一瞬反応が遅れる。



「⁈えっ?なに!!キャー君?ちょ?えっ!いや!ちょっと待ってくださいよ!!ゆう先輩ーー!!!」











ゆうは、いいあだ名をつけたとばかりに、雨の中を進んでいった。


「先輩、まじで変わってますよね。やっぱり上に行けば行くほど変な人が多いのか」


「ふむ、それは分からんが早速始めるか。」


「うげ、もうやるんすか?もう1,2年だらけでも怒られないと思うんですけどねぇー」


面倒だという雰囲気を隠すことなく、大きなため息をつく。





ゆうは、そんな戯言に付き合うことなく、手に持っていたビジネスバックから、丸い球体を取り出した。





人間にとっては前に進むことどころか、一歩前に歩く人を認識することすら難しい豪雨に濃霧。

だが、ゆうからすれば、この大雨など全く問題にもならない。


それはもちろんきゃー君も同じである。

そんな彼はハットから簡易ハンモックを取り出し、快適なスペースを制作していたが。


「……きゃー君。私たちの仕事は、終わりに向かう世界を、周りに影響を及ぼさない内に、可及的速やかに終わらせることだ。生物的に言う、安楽死と同じだな。」


「まぁ、そうっすねぇ〜。ふぁ〜。……」


強風に煽られるも、ハンモックはいい塩梅に揺れている。

ハンモックに座り、揺れに身を任せている。


「だが、どんな終末を迎えさせるかは私たちの手に委ねられている。」


「神みたいもんですもんねー。終わりかけとはいえ、1世界を消すんですから。」


「この場には例外的に君と2人で終わらせに来ている。まぁ、実践経験の乏しいきゃー君の保護者的役割だとは思うが、つまるところこの世界には、君と私の2通りのエンドがあるわけだ。」


「保護者って……、お守りみたいでなんか嫌だわぁー。…………。それで、結局なにが言いたいんすか?」


保護者という言葉に反応してか、全身からお守り反対オーラーを出し、不機嫌ですよアピールを見せる。


が、興味ないのか、ゆうはいっさいの反応を示さずじっと見つめた。

ある種のパワハラだが、その圧力に苦笑いすると、さらっと答えた。



「この世界めちゃ小さいんで、数万個しか星がないじゃないですか。なんでまとめて爆破するか潰しますね。手っ取り早いですし」


「まぁ、だから私と組まされたわけだが……。手っ取り早いのはそうだが、正しくはない。」


ゆうは鞄から椅子を取り出すと、そのまま座り足を組んだ。

そのゆうに対し、視線を向けることもなくきゃー君は言葉を投げる。

空から落ちてくる雨を見ながら、ハンモックに寝転がった。



「正しいって何すか?唯一無二の正しさなんてものはないですよ。第一、生物として最も正しい輪廻の輪から外れてこんなことやってる僕らには、正しさなんてのは最も遠いんじゃないすかね?」



元々、きゃー君とゆうの相性は極めて良くない。

刹那的快楽主義に近いきゃー君と、儚い淡い夢のようなものが美しいと感じるゆうは、ある種、対極の考え方を持っている。


まさに水と油。


ゆうの小綺麗な意見なんて聞きたくないとばかりに吐き捨てる。



「そうだな。たしかに私たちは、輪廻の輪から外れた。その事は正直言ってどうでもいいから、何と言われても気にならないが、あえていうなら、この仕事もまた正しい。」


一息に言い切ると、腕を振り熱々の湯気のたったコーヒーを出した。


「どんな知的生命体も、よほどでない限り死を望まない。だが、世界の週末はそんな個々人の思いなどいっさい考慮しない。」


そこまで言うと、静かに目を閉じてコーヒーを口に運んだ。


彼ら2人の周りは、もう雨が降っていない。


水のカーテンが幻想的に揺らめいていた。


「君も私も、他の奴らも、全員自分の世界が滅びた者たちだ。その中でも最後まで滅びに抵抗したものの筈だ。そうでなければ、学び舎にすら入ることができない。」


きゃー君は、ハンモックから立ち上がるとパチンと指を鳴らす。

ハンモックは光と消え、ふかふかのソファーが出て来た。

腰を下ろすと、今までのように話半分で聞くのではなく、しっかりと目を合わせた。


「それはゆう先輩の言う通りっすね。まぁ、僕……、俺は最後まで愉しく生きようとしたら、最後の1人になっただけですけど。」


揶揄うように笑う。深く背もたれに体重を預けた。


「私の信条は、一つ。夢の終わりのように世界の終わりとともに、皆も終わりに向かって欲しい。」


コーヒーを飲み、静かに息を吐いた。

滝のような雨が彼らを囲うように降っている。水のカーテンは感情を反映するかのように優しくはためいている。



「つまるところ、静かに終わらせるか、一瞬で終わらせるか、の違いだ。」



揺らめく球体を手の上で廻し、目を閉じた。







「さて、この世界をどう終わらせる?」










*****








ゆうを中心にベールが広がる。


雨が、波動に跳ね除けられカーテーンのようになり、水と陸地は棲み分けられ、そのまま星を飛び出し宇宙へと、広がっていった。





1111日間、この星で降り止まなかった雨は、この瞬間止み、久方ぶりの光が差し込んだ。




ベールは進む。



それは高密度落ちた大気のある星を超え、ズレた星を超え、火の海となった星も超え、宇宙を超え。世界ずべてを覆い尽くした。





この世界にある別の星では、落ちて来た大気は戻り、また別の星では割れた大地は戻り、別の星では止まらぬ嵐は消え、別宇宙にあるとある惑星では吹き出る溶岩が止まった。



いっときの平穏が訪れたのだ。











あたり一面が空を反射している。

雨が上がり、空の上に立っているような空間に変わった。


「第6界域、悠・紳魏。あなたの方が上位者なんですから好きに決めたらいいんじゃないですか?気分ひとつでこんなに世界に干渉できるんですから。」


白い目で呆れたように息をこぼす。

その立ち姿から、この状況が面白くない事がありありと見てとれた。


「ならばそうしようか。先輩の背中を見ておくといい」



「ゆう先輩、意外とそう言うの好きなんですねぇ〜。……、無視ですか、そうですか。」




揺らめく球体に指先を当てる。

世界には波紋の様に、透明な波が世界の果てまで広がった。




ベールの中は暖かだ。

彼らは本能的に安心した。


気づけば残り少ない食料のため、娯楽のため、争う気持ち奪い合う気もなくなっていた





「どうせ死ぬのに、こんな事ばかりしてよく飽きないですね。仮初の、しかも強制された平和、そんなもの偽善と呼ぶのも烏滸がましい」


「ふっ、偽善でもなんでも、この世界が終わるのは確定事項だ。それが仕事だ。だからこそ、せめて失意の中で逝ってほしくは無いのだよ」


「はいはい、そーですね」



生き残った人々は、希望を見た。

寒くなく、暑くなく、まるで光に包まれているようだ。

彼らはゆっくり瞼を閉じた。


せめて夢の中だけは思い思いの幸せなひと時を。


世界が夢のを見てるとき、世界は一部再生した。


彼らは目が覚めても幸せに生活できるだろう。そして徐々に眠ってる時間が長くなるだろう。

彼らが滅びを目の当たりにする事はない。



大丈夫。

だから安心して……。


















明日、彼らは起きる。

そして驚くだろう、見違えるほど美しくなった星を見て。

そしていつもより少しだけ早く寝て、少しだけ遅く起きるだろう。

そして、何とも甘美な夢を見るだろう。






明後日、彼らは起きる。

そして笑うだろう、この光景は現実だと、もう迫り来る死を恐れなくていいと。

そして昨日よりも少し早く寝て、今朝よりも少し遅く起きるだろう。

そして何とも甘美な夢を見るだろう。






明々後日、彼らは起きる。

そして、安らぐだろう。温かな光に包まれて、心地よい風に包まれて。

そして昨日よりも少し早く寝て、今朝よりも少し早く起きるだろう。

そして何とも甘美な夢を見るだろう。







…………。





……。





…。







世界が縮んでいく。

螺旋を描くよう中心に向かって。




*****



「ほら帰りましょー。もう終わったんですから。次は僕がやりますよぉ〜。ふっふ〜ん。」



「その前に他の世界との接合分を完全に切り離してください。そうしないとゆっくり他の世界も滅びますよ?」



他の世界との癒着。

世界とは繊細である。長く美しく保つためには、無理な力が加わってはいけない。

外からも中からも。



「…………。」


「どうしました?」


「どうしました?じゃないですよねぇ、頭おかしいんですかぁ?あなた世界を終わらせるならそういう事は自分でやってください。」


「では先に帰っていてください、わたしにはやる事があるので」


「そうですか、ではお先に」


現状に不満があります!と体全体でアピールしながら空を歩く。

そのまま薄くなり、すぅ〜、っと消えていった。

その最後に、いつの間にか持っていたステッキをくるッと一回転させて。



その癒着は、するり、と取れた。




「はい、上出来ですね」




誰もなにも気づかない、世界が小さくなる


平凡な日常を送る、生まれる歪み。


幸せな日々、……………、中心には罅が広がった。



歪みは、中心の一点のみに集約させ続けられた。

1日たち、2日たち、3日たち。

徐々に起きてる時間より寝てる時間が長くなり、そして起きなくなってくる。



「もうそろそろでしょう。さぁ、あなた方の世界が終わります。ですが、絶望に抗う必要はありません。辛い思いをする必要はありません。夢の中で微睡んでください。」



中心の一点のみにかかった負荷に、世界が耐えきれなくなる。


世界に衝撃が走った。

   でも、誰も気づかない。

その世界は崩壊する。

   彼らは皆、眠りについた。

ボロボロと崩れ落ちるように。

   ただ今度はもう起きる事はないのだろう。



『さようなら、最後にいい夢が見れて良かったですね。』





世界がなくなる。

多くの文化、命、知識、その全てが消えた。




『まぁ、あなた方の全ては私が覚えていますので。もし別の世界で生まれ直す事が出来たのなら……いいえ、またお会いしないことを願っています。』




世界の消える瞬間は何とも儚く美しい物だそうだ。


















 

おかーさん!これなぁに!!


お父さんが買ってきてくれたのよ。ほら、読んであげるから座って


やだー!!


ちょっと、どこいくの?


どーん!!


ウオ?!ハハハ、どうしたぁ?お母さんに絵本読んでもらわないのか?


うん!読んでもらう!!でもね!


どうした?


お父さんおかえりー!!


ああただいま。



お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] この世界も前の世界が消えて現れているんだって それももしかしたらあるかも知れないって 思いました^^ 切ないし でも、今は眠っていつか違う世界で目を覚ますのかな。
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