7. º*≅¿《ポンチコ》とミワたんの成功
翌日。
いつも通りにハルミに連れられ、秋晴れの公園にやってきたミワちゃんとº*≅¿は、元気よく宣言した。
<では!>
「作戦その3、開始!」
<ですね!>
うん、とうなずくと、ミワちゃんはキリリと表情を引き締めて周囲を伺う。
――― その手に強く握られているのは、丁寧に四ツ折された、千代紙。
可愛らしいカタツムリの紋様が描かれたそれは、ミワちゃんのとっておきのお気に入りだった。
「行きまちゅ……!」
覚悟を決めて、だだだっ、とブランコに駆け寄り、その手紙をそっと置くと、素知らぬ顔で砂場に駆けていく。…… 周囲からは、ブランコで遊ぼうとして気がかわったようにしか見えぬはずだ、たぶん。
砂場にたどり着いたミワちゃんは、「はぁぁぁぁあ!」 と満足げにタメイキをつき、今日もº*≅¿の砂像を作り始めたのだった。
――― やがて、金髪ツインテールのあの子が、今日も暗い顔で現れた。
<どうなりまちゅかね?>
<ここまですれば、後は成功を祈るのみ、です……!>
砂場で遊ぶフリをしながら、ブランコの方をそっと窺う、ミワちゃんとº*≅¿。
<あっ、お手紙にきづきまちた!>
あの子は、不思議そうに周囲を見回したが、やがて千代紙を開き、それに目を落とした。
<読んでくれているようです……!>
<……あ! わらってまちゅ……!>
<……おお!? 走り出しました……!>
「ポンチコ! どこまでも追いかけるのでちゅ!」
ミワちゃんの大声での指令にº*≅¿は力一杯、大跳躍を決めたのだった。
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いつも通り、パンの焼ける芳しい匂いがふわりと漂う街角。
――― 普段なら、金髪ツインテールのあの子は、そこで足を止め、悲しげに店のレジを見つめるはずだ。
しかし、今日は、彼はそうしなかった。
公園から走ってきた勢いそのままに、パン屋に駆け込む…… その後ろ姿を、º*≅¿は心からのエールを送りながら見送った。
――― さて、後は、作戦の行く末を見守るのみ。
º*≅¿は、意識を集中させて、パン屋の中の彼らの思念を読み取り始めた。
「いらっしゃい。どうしたの?」
爽やかな笑みを浮かべる青年の前で、あの子が思い切った表情で、金髪ツインテールのウィッグを外す。
その下から現れたのは、きれいに角刈りされた、頭。
その頭が、いきなり 「ごめんなさい!」 と勢い良く下げられた。
「わたし、外見は男の子なんだけど…… 実は、あなたのことが好きなんです……!」
「………………。」
何とも言えない表情をして、あの子を見つめる、青年。
――― º*≅¿の脳ミソには、青年の戸惑った思念が伝わってきていた。
(どうしよう。言ってくれるのは、嬉しいけど…… この子はつまり、ボクのこと、男性として好きなんだよね?
……本当のことを知ったら、ガッカリするかな……
けど、この子は勇気を出して、ウィッグを取ってくれたんだ…… ボクも、頑張らなきゃ!)
えいっ、と青年が自分の黒髪を掴み、持ち上げる…… その下から、出てきたのは。
肩までかかる、さらりとして柔らかそうな、茶色の髪。
「………………!」
驚いて青年を見つめる、あの子とº*≅¿の前で、青年は困ったように微笑んでみせる。
「学校でも家でも、こっちの方が色々言われなくていいから…… バイト先でだけ、男の子のカッコをしてるんだ。
…… でもボク、一応、女の子なんだ……」
「………………」
「………………」
<……………………。>
長い沈黙が、訪れ、そして。
最初にこわごわと口を開いたのは、あの子だった。
「わたしも…… 学校でも家でも色々言われるから、放課後のこの時間だけ、女の子のカッコしてるんです……」
「ああ、それ、わかるな……」
「でも、一応、男の子なんですけど……」
あの子は言葉を切り、四つ折りに畳み直した千代紙の手紙を、ぐっと握りしめた。
「そんなわたしは、嫌いですか?」
「………………ううん」
青年が、首を横に振る。
「ボクでも、いいの?」
「もちろん!」
あの子が、笑った。
――― º*≅¿がずっと見たかった、幸せそうな、笑顔だ。
「あなたのことが、好きなんです……!」