5. º*≅¿《ポンチコ》とミワたんの作戦決行
次の日も、どこまでも透き通ったような秋空が広がる、良い天気だった。
ハルミとミワちゃんとº*≅¿は、いつも通り公園に来ていた。
……金髪ツインテールの女の子は、予想通り今日も、ブランコを静かに揺らしている。
「ほらー、ポンチコ! にてるかなー? ナデナデちてあげるね!」
普段と同じに、絶好調で砂場遊びをするミワちゃんとº*≅¿であるが、実は作戦がある。
金髪ツインテールの女の子のタメイキが、5回目に達したタイミングを見計らって、º*≅¿は <今です!> と小さく跳びはねた。
「うん!」 と元気よく、ハルミのそばへ駆けていくミワちゃん。
「ママぁ。ミワたん、パンパンが大好きだからね!」
「あー、わかった。じゃあ、夕ごはんはパンとシチューとサラダにしよう!」
ハルミが優しく、ミワちゃんの頭を撫でた。
「じゃあ、美味しいパンパン買いに行こうね」
「うん!」
嬉しそうに、ミワちゃんがうなずく。
(ちなみに 『パンパン』 とは、ミワちゃんとハルミにとって、『パン屋さんの1個100円以上するプチ贅沢なパン』 を指す。)
そして。
タメイキ6回目でブランコから立ち上がった女の子とほぼ同時に、ハルミとミワちゃんも、仲良く手を繋いで、歩き出した。
――― パン屋さんを、目指して。
略称 『金テール応援隊』 の作戦その1…… 『ナチュラルに女の子の後をつけよう』 は、これにて成功の運びとなったのである……!
さて、そして、作戦その2。
女の子につかず離れず、ハルミとパン屋さんの近くに来たミワちゃんは、ドキドキとタイミングを計っていた。
――― これから、ママからちょっと離れて、お店の前ですっころんでみせる手筈になっているのだ。
それは、 <ミワちゃんにそんな危険なマネは、ちょっと> としぶるº*≅¿を、「大丈夫でちゅ! ミワたんはじょゆうでちゅ!」 と説き伏せて決まった作戦である。
――― ミワちゃんにとっては、初めての、自分で立てたプランを自分で実行する機会。
(がんばりまちゅ!)
うん、と片手で握りこぶしを作って、ハルミと繋いだ手を思い切りよく、振りほどく。
「あ、ちょうちょ! やっつけてやる、でちゅ!」
見えない蝶に拳を振り上げ、ミワちゃんは、たっ、と走り出した。
「まって!」
慌てたのは、ハルミである。
「危ないよ!」
幼い娘を呼ぶ大声に、金髪ツインテールの女の子が振り返った。
パン屋の店内からは、例の黒髪の青年が、心配そうにミワちゃんを見ている。
(いまでちゅ!) <お願いします!>
ミワちゃんの心の声と、º*≅¿のテレパシーは見事に重なった。
――― そして。
すっってーーーんっ!
ミワちゃんは、パン屋の店先で見事な転倒を披露し、大声で泣き出したのだった。
「ミワちゃん……!」
「「大丈夫……っ!?」」
ハルミより僅かに、彼らの方が早かった。
店内から急いで出てきた青年と、店外から彼を見守っていた女の子は、ほぼ同時に急いでミワちゃんを助け起こす。
「うぇーーん! 痛いでちゅう!」
「どこが痛いの?」
「ハートに擦り傷でちゅう!」
「「…………。それは、痛いね……」」
要は、外傷はないが泣きたい気持ちなのだろう、と予測する、青年と女の子。
青年はミワちゃんの服の泥を払ってあげながら、笑って 「今の子は、難しい言い方を知っていますね」 と女の子に話し掛けた。
「…………っ!」
酸欠の金魚のように、口をパクパクさせる女の子。
何か言いたいが、うまく言葉にならない…… そんな様子である。
<行くんだ! 勇気を出せ!>
(おねえたん、がんばるでちゅ!)
――― º*≅¿とミワちゃんが、ドキドキと成り行きを見守る中。
「………………っ!」
突如、女の子の目に涙が盛り上がった。
「どうしたの!?」
慌てる青年を前に、涙は止まるところを知らず…… ついに。
「ぅわぁぁぁぁぁぁぁあああんっ!!!」
ミワちゃん顔負けの泣き声を上げながら、女の子は走り去ってしまったのだった。
「……失敗……でちゅかね」
後に残されたミワちゃんのポツリ、とした呟きに、パン屋の青年は痛ましい表情で胸を押さえ、º*≅¿は <大丈夫です! ちょっと追ってきます!> とミワちゃんの頭から物凄い勢いで大跳躍を果たし、ハルミは……。
「ミワちゃん、痛いの? 歩ける?」 と、ひたすら愛娘を心配するのであった。