4. º*≅¿《ポンチコ》の決意
少し傾いた秋の日差し。
澄んだ空気の中、ふわり、と、誰もが幸せになるようなパンの匂いが漂い、女の子のお腹がぐぐぅ、と鳴った。
<ははぁ。お腹が空いたので、パンを買いに来たのですね。そんなところも…… イイです……>
金髪ツインテールから落ちないよう気を付けながら、小さく跳びはねるº*≅¿。
ところが、女の子は店の前でピタリと足を止めてしまった。
<あ、あれ……? パンを買うのではないのですか? いや、店の中を気にしてはいるようですが……>
女の子の予測不能な出方に振り回され、º*≅¿はキリキリとスピンを披露した…… 誰も、見てはいないが。
女の子の視線の先…… そこは、店内のレジ。
「あんパン3個、カレーパン3個! 今ならガーリックトースト焼きたてですが、いかがしますか…… はい、ありがとうございます!
……おつり320円です、それと、こちら新作のクッキーです。オマケしておきますね!」
ハキハキと動く口元。
刈り込まれた清潔そうな黒髪、まっすぐな姿勢に、生き生きと動く意思の強そうな目。
――― 女の子がじっと見つめていたのは、レジの中で懸命に働く、ひとりの青年だったのだ。
<ええええええっ……!?>
º*≅¿の声にならない叫びなど知る由もなく。
「………………ふぅぅ……」
女の子は、深々とタメイキを1つ。そして。
――― 何も買わず、その場を離れていった。
――― 何度も何度も、そのパン屋を振り返りながら……。
女の子の行動が、意味するところ。
悲しいかな、それを悟ってしまった、º*≅¿は。
<……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!>
テレパシーを迸らせながら、揺れるツインテールの金髪の上で、ただひたすら、宙返りを繰り返すのだった……。
¤*≅¶©*@«º*≅¿≡<↑£
「ねぇ、和樹ちゃん」
「なに? ハルちゃん、今日OKの日?」
「こら。ミワちゃんの前」
その日の夕食後。
コーヒーを渡しながら話しかけるハルミのお尻に、嬉しそうに伸ばされたパパの手をぺちり、とはたき、ハルミは、無心にひとり遊びをしている娘に目を遣った。
「あの子、最近、空想のお友達ができたみたいなの」
「へえ…… いいんじゃないか? そういう年齢なんだろ?」
「でもね、その名前が……」
「ヘンなのか?」
「うん、ちょっと……」
ハルミが言い淀んだのを察知したかのように、タイミング良くミワちゃんが叫ぶ。
「ポンチコぉぉっ! なかない、なかないっ!」
「…………………………。」
長い沈黙の後、真面目な顔で 「俺は教えてない」 と主張するパパであった。
一方、当のミワちゃんとº*≅¿は。
「あのね、ポンチコ。みわたん、知ってるんだよ」
<ううう…… 何を、でしょうか>
恋愛相談の、真っ最中であった。
「あのね。にんげんは、にんげんとちか、けっこんできないんだよ!」
<……うっ!>
「だからね、ポンチコは、いくら、あのこのことが好きでも、けっこんできないから、だいじょうぶ!」
<……ううううっ!>
急な攻撃に、思わずバク転するº*≅¿。
4歳児の言葉の刃は、時に鋭いのだ…… まだ、忖度を知らぬがゆえに。
<でも、やはり私は、あの子のことが気になるのです……!>
「うーん…… あいでちゅねえ……」
ミワちゃんは、考えた。
大事な友だちのº*≅¿のために、一生懸命、考えた。
そして、ぽん、と両手を打った。
「あのね。ミワたんも、ポンチコのこと、たべちゃいたいくらい、あいちてるからね!」
<ありがたき幸せ……っ!>
「だから、ポンチコがよろこぶこと、いっぱいちゅるんでちゅ!」
<…………! ミワちゃん……っ! わかりました……!>
感激のあまり、º*≅¿は連続3回転ジャンプと高速スピンを披露する。
最後は、ポーズを決めてフィニッシュだ。
<私ことº*≅¿、涙を呑んで、あの子の恋を一生懸命、応援いたします所存!>
「わぁい!」
パチパチと手を叩く、ミワちゃん。
「ミワたんも、ポンチコと、いぃっぱい、がんばるからね!」
――― かくして、ここに。
º*≅¿及びminiな部下たち、そしてミワちゃん4歳による、『金髪ツインテールのあの子を応援し隊』 が、結成されたのであった。