3. º*≅¿《ポンチコ》の恋
º*≅¿のmini生。
それは、全miniたちとリーダー©*@«と、ミワちゃんのために捧げられてきたと言って、過言ではない。
生まれた瞬間からその卓越した頭脳でもって科学を志し、長じて 『©*@«の片腕』 と目されるようになって後は、地球への移住やら、母星への一時撤退やら、リーダーとの忖度合戦やら、ミワちゃんの子育てやら、ウラオモテ島でのminiたちの繁栄やらのために、ひたすら働いていたのだ。
合間に人気ドラマ 『家政婦は床』 やアニメ 『宇宙ブラザーズ』 の鑑賞など、趣味もバッチリ楽しんできたmini生には1ミクロンの後悔もないが、しかし。
初めて味わうその感覚は、これまでとはまた別種の喜びであった。
<…… こ れ が 、 恋 ……>
目を閉じると金髪ツインテール少女の、いつも少し悲しげな顔がちっぽけな脳ミソの全てを占める。
その悲しげな顔が、もし笑ったら、どれほど可愛いだろうか…… などと妄想すれば、宇宙を渡るよりも長い時間をふわふわ浮いていられそうだ。
……なぜ、miniな自分が、地球人に恋などしたんだろう?
それは不思議といえば不思議だが……
<なんかもう、どうでもいいかも!?>
そう思わずにはいられない、º*≅¿であった。
不満なのはミワちゃんである。
せっかく公園に来ているのに、遊び仲間はブランコの金髪ツインテール少女ばかりを、見ているのだから。
「ポンチコー! ミワたんと遊んでー! 」
<はい、もちろんですよ……>
「ポンチコがパパでちゅよ! …… あなた! ごはんにちゅる、おふろにちゅる? ちょれとも、ミワたん?」
<……………………>
「ポンチコぉぉぉ!」
<はっ……す、すみません! もちろん、ミワちゃんで……>
「もう、イヤらぁぁぁあ……ポンチコ、いやぁ……」
うぇーーん、と泣き出すミワちゃん。
一緒に遊んでいても、心ここにあらずのº*≅¿に、ついにキレたのだ。
<……すみません……>
ぴょんぴょんと低い跳躍を繰り返して戸惑いを示すº*≅¿であったが、ついに決意した。
ミワちゃんに、正直に話すことを。
<実は私、あの子に恋してしまったようなんです……!>
「ぅわーーん! もう、ミワたんのこと、好きじゃないんでちゅねぇぇぇ!?」
<ち、違います! それとこれとは、別というか……! ミワちゃんが一番大切ですけど、あの子のことも、気になるんです……!>
「この、うわきものぉぉぉ!」
叫ぶミワちゃん。
母親のハルミが、ぎょっとしてベンチから見つめていることには気づいていない。
もちろん、ハルミが
(ミワちゃんたら最近、ひとりごとが多くて…… 空想遊びは止めない方がいいって聞いたけど、こんなに修羅場っぽくっても、止めちゃダメなの? この前、パパとケンカしたの、実は聞かれてたのかな…… うう…… 私ったら教育になんて悪いことを…… うう…… もー、砂場に穴を掘って埋もれたい……!)
などと、悩みまくっていることにも。
と、その時。
当の金髪ツインテールの少女が、ふわりとブランコから立ち上がった。
<あっ……>
行ってしまう、と、発されたº*≅¿の悲痛なテレパシーに、ミワちゃんの若干涙を含んだ声が被さった。
「……行ってくだちゃい……!」
<ミワちゃん……っ!?>
「うっ…… ひくっ…… いいんでちゅ! ミワたん、ポンチコがうれちいなら、ちょれで……」
<ミワちゃん……!>
「ひくっ……! だって、ひとがイヤなことは、ちちゃ、ダメなんでちゅ……! ちたら、きらわれて、もう遊べなくなるんでちゅ……!」
<ミワちゃん……! そんなこと、絶対にありませんよ! ミワちゃんのことは、私たち、何があっても大好きです!>
「うわーん!!」
ミワちゃんが、また大声で泣き出し、ハルミが 「どうしたの?」 と言いながら駆け寄ってくる。
ミワちゃんは泣きながら、miniにしか分からないテレパシーを送った。
<行ってくだちゃい! ミワたん、いいこで待ってるでちゅ……!>
<ミワちゃん……! ありがとうございます……! 必ず帰ってきます!>
º*≅¿は目を潤ませ、全力で跳躍を決めた。
ミワちゃんの頭から、金髪ツインテールの上へと……。