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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

陽キャたちの道連れで、立ち入り禁止の廃旅館へと赴きました~化け物が潰したあの肉片は俺の幼馴染み~

作者: なろい

 「暑くなってきましたね。」そう言って前書きに入りたかったのですが、梅雨の時期に入り、東京は今日も涼しいということで計画が崩れてしまいました。しかし、僕はめげません、あえて言わせていただきます、「暑くなってきましたね!!!」

 こうも暑いと、エアコン点けたくなりますよね。(書き始めたころはまだ、そのくらい暑かったんです...)でも、今から点けると、一人暮らしの僕は、電気代がかかりすぎて餓死する可能性もあります。やっぱり、なるべくほかの方法で涼みたいですよね。

 というわけで、水風呂や、少し早いかき氷なんかも試したんですが、どれもあまり効果がありません。

 やっぱり、ホラーでしょ。そう思って、ホラー作品をいくつか見て、ああ、僕も書きたいっ、てなって書いた作品です。

 長くなりましたが、どうぞ、お楽しみください。

 --これは、俺たちの住む町の外れにある、とある古びた廃旅館の話。--

 清僭莊せいしんそうと呼ばれるこの建物は、俺たちが生まれるよりも前に廃業したらしく、再開発が進んでいるこの町で、いまだに当時のまま残っている、というのは驚きである。

 その見た目ゆえ、肝試しのスポットとしてこの辺では有名であるが、遊び半分で入った子が行方不明になった、とか、単純に人目につきにくいということもあり、俺たちの学校では侵入はもちろん、近づくことも禁止されている。そう、禁止されているはずなのだが....


 「おおっ、こんなところに裏口があったなんて!鍵もかかっていないみたいだし、これで入れるな、でかした莉緒!」

 金髪美少年はまるで小さな子供のようにはしゃいで、隣にいる長髪の女の子に言った。こちらもまた、美形だ。


 帰宅途中、俺は偶然、クラスの陽キャグループが清僭莊に忍び込もうとしているのを目撃した。

 メンバーは、さっきの二人、鴛海英駿おしうみえいしゅん岩瀬莉緒いわせりおのほかに、野津原政明のずはらまさあき羽村真理亜はむらまりあと、いつも通りだ。こいつらは、こういう危ない遊びが好きらしく、いろいろと黒いうわさも聞くが、リーダー格の鴛海の父親がこの町の権力者らしく、今のところ大きく問題化はしていない。


 「おい、さっさと来いよ荷物持ち。本当にとろい奴だな!」

 そう言って、後ろからついていく眼鏡の男の子に、軽く蹴りを入れた長身の男が、野津原だ。

 かわいそうに、さっきは気づかなかったが、尾内も付き合わされていたのか。

 尾内頼彦おないよりひこは、学校で鴛海のグループの、いじめの対象にされている子だ。彼らにとって、低身長で、いつも本ばかり読んでいる気弱な男の子は、格好の標的だったようだ。

 

 ---しかし、ここまでなら別に何の問題もない、尾内は気の毒だが、俺は無視して帰ったらいいだけだ。だが、問題は正義感の強い、委員長、朝霞友莉あさかゆうりと一緒であることだ。

 今日に限って偶然、俺の家の近所の奴が休んだので、一緒にお見舞いに行くよう指示されたのだ。

 俺とこいつは、いわゆる幼馴染みだが、昔から悪いことは見過ごせない性格で、小学校の頃なんか、タバコ吸ってる高校生を注意して、ボコボコに....されたのは俺なんだが、とにかく、今回も巻き込まれるなんて、御免こうむりたい。


 「あれって、鴛海くんたちだよね?..うそ、清僭莊に入ろうとしてない?止めないと!」

 先ほどの俺の切ない願いもむなしく、彼女は、俺の手を握って走り出す。たぶん、彼女は彼女で怖いのだと思う、手が震えているし、表情はこわばっている。そんな思いまでして行く必要ないのに、と俺は毎回思うが、彼女には確固たる信念のようなものが心の中にあるようだ。


 「ちょ、ちょっと待て、あいつらを追いかけたら、俺らまでルール違反だぞ?!ここは大人しく帰って、明日先生に報告すれば良いじゃんか。」

 俺はそう説得してみるが、彼女も引き下がらない。


 どうしたもんかと考えていたところ、ここで突然もう一人、誰かが後ろから話しかけてくる。


 「お前らそこで何してる??この辺は立ち入り禁止のはずだが?」

 見ると、クラスメートの池田隼人いけだはやとが立っていた。鴛海と同じで、家がお金持ちだが、彼とは違って、妙に大人びていて、考え方も、とても高校生とは思えないほど成熟している不思議な奴だ。

 学校の成績は常にトップで、特に生物や化学など、理科系の科目では、なんかの賞を取った、なんて話も聞いたことがある。


 そんな彼なら..俺は、あわよくば一緒に委員長を止めてもらえるかと事情を説明すると、なんと彼は表口、正面玄関のほうへ移動し、普通にドアの鍵を開けてしまった。


 「おいおい、お前、いったいなんで..?」

 開いた口が塞がらない、そんな俺の問いに、彼はこう答えた。


 「学校では悪目立ちすると思って言っていなかったが、ここの土地はこの前、パパが買い取ったんだ。

 元の所有者はかたくなに拒んでいたみたいだけど、まあ、いろいろと使ってね。」

 池田は不気味に、にやけた。


 「さあ、彼らを止めに行こうじゃないか、人の家で好き勝手やられたんじゃ、困るからね。」

 

 ***


 「なんだ、中は結構きれいじゃないか..」

 池田はそう漏らす。こいつ、あんだけ言ってたが、ここに来るのは初めてだったようだ。

 表口から清僭莊に入ると、そこは大きなロビーだった。

 カウンターと、長椅子がいくつか並べられており、テーブルには新聞や灰皿が並べられていた。

 照明もしっかりしており、不思議とほこりも落ちておらず、建物的には、まだまだ旅館としてやっていけそうなものだが、一つ、気になることがあった。


 「窓が..ないね。」

 それは、委員長も同じらしい、そう口を開いた。

 ないというよりは、あった、という表現が正しいと思う。壁にはところどころ、周囲と色が違ったり、不自然にへこんでいる場所があるからだ。

 つまり、元々窓があったのに、わざわざ後からそれを無くしたということになる。...いったいなんで?

 何にせよ、ここは早く出た方が良さそうだ。俺の直感は、危険をビリビリ察してる。


 「おい、二人とも、なるべく早くここを....」

 ---???---

 振り返ると、そこに二人の姿は見えなかった。窓の話に夢中になっていたとはいえ、目を離したのはほんの数秒だった。それに何かあったとして、物音がすれば気が付きそうなものだが..。

 委員長がいることだし、悪ふざけで隠れてる、なんてこともないだろう。

 --突然、前触れもなしに消えてしまった。いったい何があったんだ?

 辺りには、壁際にある自動販売機の〈ジーー〉という機械音だけが、不気味に響き渡っていた。


 *


 二人が帰ってくるかと、当てもなくロビーをさ迷っていたところ、俺はフロントに紙が一枚置いてあるのに気が付いた。

 「これは..館内図か?」

 

 挿絵(By みてみん)


 旅館ということで、さすがに広い。しかし、待っていてもしょうがない様なので、俺は一階から順に探しにいくことにした。

 これは骨が折れそうだ、俺はリュックから水筒を取り出して、一服した。

 「さて、行きますか。」

 

 **


 ここを曲がれば....あった!俺はロビーを食堂側に出て、地図上でボイラー室と書かれた部屋を左に曲がった。すると、薄暗い廊下の突き当たりに、見慣れた青いピクトグラムが目に入った。男子トイレに到着だ。

 一階で二人がいそうな場所と言うと、トイレくらいしか思い当たらなかった。


 「おうい、池田くん?いる??」

 

 俺はそう声をかけ、男子トイレの方に入ったが、どこにも姿はなかった。

 女子トイレの方も、さすがに入りはしなかったが、同じ様に声をかけてみたが、やはり返答はなかった。


 いよいよ変だ。俺の脳裏にはすでに、ここの良くない噂が勢いよく飛び交っていた。

 「とりあえず、警察に電話して..」


 俺が、スマートフォンを取り出したその時だった。


 <イヤアアアッッッ!!>


 上の方から、甲高い悲鳴が館内に響き渡った。

 

 「二階か...!」

 高さからして声の主は女子だろうが、委員長の物ではない。先に入った五人にも何かあったのだろう、というか、どうやら緊急事態らしい。行かなくては。

 俺は勢いよく床を蹴って、ロビーの方へと向かった。


 *****


 「ねぇ、何もなさそうだよ、----もう帰ろうよ…!」

 館の一階をあらかた調べ、ロビーへと来たところで、こう言ってみる。しかし、これが彼の機嫌をますます損ねてしまったらしい。鴛海は思いきりよく、僕の腹に蹴りを入れた。

 

 「ゲホ、ゲホ、おえぇぇっ」

 

 たまらず、僕は嘔吐してしまう。しかし、抵抗はなかった。気持ちが悪いと軽蔑する視線や、文言にも、既に慣れている。

 こういう場合は、病気の時とかと違って、全て出してしまう必要はない。僕は適当なところで止めると、前を向き直った。


 「そうだよ、もっと汚せ!何もないんだったら、作るんだよ!俺をもっと楽しませてみろ!..っち、期待はずれだな、ここも。もっと面白い場所かと思ったが、まるで綺麗、普通の旅館じゃねえか!」


 僕の名前は尾内頼彦。この男、鴛海英俊を心底恨んでいる。

 学校でも、放課後でも、こうしてひどい仕打ちをされている。いわゆる、「いじめ」と言うやつだ。

 しかし今日、こいつらの呪縛から解き放たれるかもしれない。作戦は成功のようだ、鴛海は何かあるまで、絶対に帰らないだろう。....上手く誘って、この、いわく付きの廃旅館まで連れてきたんだ、簡単に帰ってもらっては困る。

 さあ、化け物でも何でも出てきて、こいつらを皆殺しにしてしまえ!!


 ..そんなにひどい顔をしていただろうか?


 次の瞬間、「キモい顔してんじゃねぇよ!!」そう言って、彼は今度は僕の顔を蹴飛ばした。

 

 靴に付着した僕の体液のことなどみじんも気にせずに、彼は言う。当然だ、あれは僕を蹴るための靴。大事なブランド靴とは、もちろん履き分けているのだから。

 「ったく、おい、他の部屋も行ってみるぞ。はやく---」

 その後、何を言っていたのか、彼の言葉は僕の耳には入ってこなかった。と言うのも、彼らの後ろ、階段から降りてきた見たことのない生物に、注意を奪われてしまったからだ。


 --3メートルはあるだろうか?その巨体の半分近くが、頭部で構成されているようだ。一見、人と同じ様にも思える顔であるが、所々パーツが歪んでおり、口は本来の頬の辺りまで裂けている。

 服を着ておらず、全裸の状態であるが、股間のあたりには、男女どちらの性器も確認できない。


 そう、これはまるで…

 「巨人…!」

 待っていたものが現れたからか、不覚にも声に出してしまった。

 早く、こいつらの注目が僕に集まっている今なら..早く殺ってしまえ!

 今の僕の頭には、自分の危険のことなどなかった。ただ、こいつらから解放されたい、そう願い続けていた。

 

 「ええ??今、何て言ったの??こいつw...巨人?殴られ過ぎておかしくなったか~?」

 羽村さんが、そう、バカにしたように反応し、声を出したからだろうか、誰からでもよかったのであろう、巨人は彼女の方に狙いを定め、首を勢いよく鷲掴みにした。

 一同はここで、やっと異変に気が付いたようだ。

 しかし、まるで蛇ににらまれた蛙かのように、彼らは何もできずに、ただただ立ち尽くし、呆然と見つめていた。


 ----「っえ?何コレ??ちょ、マジで…?」

 苦しそうにする彼女を見て、楽しんでいるかのように、巨人は握力を段々と上げる。


 「待ってっ…ぐるじ、おぇっ…」


 <グシャッ!>


 そんな破裂音とともに、彼女は首と胴体、真っ二つなって床に転げ落ちた。

 

 「....はっ?何だよ、こいつ!こんなのがいるなんて聞いてねぇぞ!!」

 ようやく動き出した鴛海はそう言って、隠していたナイフを取り出すと、巨人に突き立てたが、刃は刺さることなく折れてしまった。

 すると、それまで座り込んでいた巨人が立ち上がる。

 口周りや、手が赤く汚れている。何をしていたのかは、あらかた想像がつく。


 さすがに敵わないと感じたか、「チクショー!!」そう言って鴛海は、折れたナイフを床に叩きつけると、階段の方へと走り出した。それに他三人と、もちろん巨人も続いた。


 ...よし、うまくすればこのまま三人とも皆殺しにできる!!ついに来た、これはきっと、神様が報われない僕のためにくれたチャンスなんだろう、これを逃す手はない。何としても成功させてやる。

 僕はそう心の中で誓うと、三人を追って走り出した。


 後ろを追ってくる巨人のスピードはそれほど速くなく、転びでもしなければ追い付かれることはないだろう。..そう、何もなければね。

 岩瀬莉緒、彼女はあまり運動神経がよくないのを、僕は知っている。

 今もこうして、少しだが遅れて出発した僕に追い越されている。しかしそれでも、巨人とは同速、もしくは少し早いくらいだろう。そこで僕は、奴に多少の力添えをしてげることにした。

 僕は必死で走る岩瀬の足に、先程のナイフの破片を突き刺した。

 「キャッ!」

 彼女は悲鳴とともに、床に転げた。太ももから鮮血が流れ出る。

 ははは、いいざまだ!!


 「尾内....あんた、何すんのよ...?!痛ぁい..助けて英俊!!」

 そんな彼女の言葉は間違いなく届いていただろう、しかし、鴛海たちの足が止まることはなかった。


 ----「良いのか?あのままじゃ食われちまうぞ?」

 野津原が鴛海に語りかける。


 「ああ、仕方ないさ…どのみち誰かが犠牲にならなきゃ奴は撒けなかったろう?尾内が適役だったが、この際仕方がない、あいつには俺たちのために死んでもらおう、悪く思うなよ、莉緒、俺にとって女なんて所詮替えの聞く存在なんだよ。」

 このグズ、鴛海も必ず後で殺してやる。

 ともあれ、二人目。


 <イヤアアアッッッ!!>

 後ろから叫び声が聞こえた。

 この叫び声の後、彼女声を聞くことはもうないだろう。

 三人になった僕たちは薄暗い通路を走り抜けていった。

 

 *****

 

 「ハア、ハア、ハア…」

 俺は、波打つ心臓を抑えながら階段を駆け上がる。

 声がしたのは、こっちの方か...?

 館の地図は、何となくだが頭に入っている。俺は赤のカーペットで彩られていた一階の床とは対照的に、丁寧にワックスがかけられた木目がむき出しになった床を駆ける。

 迷っている暇はない、おぼろげな記憶の中で、休憩室、と書かれている部屋のほうへ進んだ。

 ..すると、地図ではゲームスペースと書かれていた場所で、見たこともない大きな怪物に女の子が襲われているではないか。


 もちろん、何だこいつ!?とはなったが、俺はそれほど驚きはしなかった。ロビーであんなもの見せられては、助かりそうもなかったので、無視してきたが、亡骸の特徴からして女性、ここに来た女の子と言えば...って、そんなことは後でいくらでも考えられる。今は目の前のことに集中しなければ。


 「岩瀬さん!!?」

 そう呼び掛けた俺に、彼女も反応する。


 「..誰??--この声は、渕?お願い、助けて..!」

 良かった!まだ、無事そうだ。


 「確認だが、この怪物、中に人が入ってたりはしないだろうな??」

 

 「うん、正真正銘の化け物だよ..」

 彼女は力なく答えた。

 よし、中に人とかいないなら、全力でやれる。といっても、真っ向勝負に持ち込むほどバカではない。


 俺はゲーム用の椅子をやつに向かって投げつけた。

 怪物といえど、からだの構造は人間に近しいものがあるようだ。奴は、予想通り椅子を手で簡単に払いのけたが、俺がその後ろにもうひとつ、ロビーで拾った折れたナイフを投げていたのには気づいていなかったらしい。

 怪物からすれば、いきなり視界にナイフが現れたことになる。--俺の思った通り、奴は人間のように、とっさに目をつむった。

 

 「よしっ、今しかない!」


 俺はこの瞬間を逃さずに、座り込んでいた岩瀬を抱えて奥にあるドアの向こうへと進んだ。

 先ほど確認した、休憩室と書かれた部屋を通り抜け、俺は通ってきた廊下へと戻る。

 彼女を抱えたまま長くは逃げられない、となれば、少しは知識のある一階へと向かうのが妥当だろう。


 「渕、あんた運動部でもないのに、私を抱いたままで大丈夫なの??お荷物ならいっそここで…」

 岩瀬はそう強がるが、俺のシャツを掴んでいる手は、小刻みに震えていた。無理もない、あんなことがあった後だ。


 「うるせぇ、怪我人は黙って落ちないようにだけ、気を付けとけ!人間はこういうとき、限界の一つや二つ、簡単に越えられるんだよ!後は俺に任かせとけ、必ず助けてやるから。」


 逃げるのに夢中であまり意識はしていなかったが、どうやら柄にもなく、かっこいいことを言ってしまった。まったく、こんな時に話しかけやがって、何だか恥ずかしくなってきた。しかし、少しは安心させられたのか、彼女は

 「そか....ありがとう。」

 そう言って、より強くシャツを握り直した。

 

 *****


 「--よし、こんなもんか!」

 俺は岩瀬の足に、軽い応急処置を施した。

 ここは一階にある、<客室c>と書かれた部屋だ。一階にある客室で、唯一鍵がかかっていなかったため、俺たちはここに一時身を潜めた。中には、最近は見ることがなくなったブラウン管テレビや長机、ベッドなどが配置されている。

 治療にも、このベッドのシーツを用いた。

 

 ..さて、どうやってあの巨人から逃げ切ったのか、だが、一心不乱に逃げていたため気が付かなかったが、不思議なことに追ってきていたあの化け物は、いつの間にか俺たちの後ろから消えていた。

 こちらも人一人抱えていたので、撒けるほどのスピードは出ていなかったはずだが。


 「ん、ありがと....ところで、本当に行っちゃうの?」

 彼女は不安そうにこちらを見つめた。このケガでは、外に出すわけにはいかないし、俺だってあんなのがいるとわ分かって、わざわざ外に出たいとは思わない。かといって、二人とも何もせずにここで待つのが得策とも思えなかった。


 「そうですね、委員長を探さないといけないですし、出口も見つけないと..」

 そう、めちゃくちゃ死にかけたが、これは単に一回逃走に成功した、だけであることを忘れてはいけない。

 一刻も早くこの旅館から出なければいけないわけだが、岩瀬と会う前、一階を探索していた時に、正面玄関と、裏口を確認したが、なぜか開かなくなっていたうえ、内側には鍵穴のようなものはなく、こちらからは開錠不能のようだった。

 加えて、何度も試しているが、携帯は圏外で使い物にならない。


 となれば、俺たちをここに閉じ込めたのは、鍵を持っていた池田の可能性が高い..のか?推理漫画や映画は好きだだし、かっこよく犯人を言い当ててみたい、なんて思ったこともあるが、実際に推理するなんて思わなかった。とにかく、確定したわけではないが、最初に彼と一緒にいた委員長も危険に晒されているかもしれないのだ。


 「まあ、安心してくださいよ、出口を見つけたら必ず迎えに来ますし、それまでの間はこの部屋で、さっき言ったようにベッドの下に隠れていれば、見つかることは絶対にないです。」

 あの巨体だ、ベッドの下をのぞき込むなんて、難易度が高いし、わざわざやらないだろう。絶対なんてことはあり得ないが、俺は彼女を安心させるため、あえて誇張していった。


 「うん..」

 そう答えた彼女は、何か言いたげにしていた。きっと引き留めようとしているのだろうと思っていたが、後ろ髪を引かれる思いでドアに近づく。

 

 「...あのさ、勇一朗、私..あなたのこと好きになってもいい??」

 俺がドアノブに手をかけたところで、彼女はそう言った。


 <ガタン>、と、突然響き渡ったのは、動揺して俺がドアにぶつかってしまったからだ。

 

 「はあっ?!」

 何を言い出すかと思えばこんな時に、女の子ってのは本当に..


 「いや、さ..学校でも、私、あんたに避けられてるみたいだったし....」

 確かに、学校での関りは最低限に抑えていたが、俺、というより全陰キャに共通して、あまり陽キャとは関わりたくないものだ。


 「別に、岩瀬を避けてたわけじゃないけど..ってか、この話、後でもいいか?今は脱出が先だろう?」


 恋愛経験がほぼない俺には、こういう時どうしていいかわからなかった。

 猫だまし、なんていう戦術が今でも残っている理由はこういうことだろう。人は突然のことに、瞬時に対処するのは難しい。彼女とは学校でも、同じクラスで、しゃべったことくらいはあるが、それほど親しかったわけではないし、鴛海もいたため、彼女のことをそういう対象として見たことはなかった。

 それに、彼女には悪いが、今そんなことを考えている暇はない。好きとか、嫌いとか、そんなのはここから無事出られてからじっくり考えればいい。....正直俺には、二人ともここから生きて帰れる可能性はどのくらいあるのかさえ、見当もつかない。


 しかし、岩瀬は、だからこそ今この瞬間に伝えてきたのだろう、この時の俺はそれを理解できておらず、返事を真剣に考えようとしなかった。

 そしてそのことを、俺は後に後悔することになる。

 

 ***


 部屋を出た後、俺は、二階をあらかた調べ終え、三階に向かった。

 二階も、客室はそのほとんどにカギがかけられていたし、そのほかの部屋にも、めぼしいものは特になかった。

 

 階段を上ると、向かって右側に、大広間と書かれたでかい部屋があったので、何となくまずそこから調べることにした。

 大広間は、学校の体育館のような作りで、広々とした空間の奥にステージがあった。おそらく、たたみになっている床に、テーブルなんかを置いて宴会が行われてたりしたんだろう。

 この部屋に何かあるとしたら、ステージだろうか。そう思って、ステージのほうに向かってくと、

「おお、やっぱり俺たちのほかにも誰かいたのか!!」

 突然後ろからの声を掛けられ、少し驚きながらも振り向くと、そこには鴛海、野津原、尾内の三人が立っていた。


 「ええっと..見たことあるな、誰だっけか?」

 

 「渕だよ、クラスメート。..お前までなんでこんなところに?」

 野津原は鴛海の問いに答えつつ、俺に聞いてくる。


 ええと、てめーらのせいだよ!!なーんて、言うわけにもいかず、俺が返答に困っていると、鴛海が再度口を開いた。


 「ああ、そうだ、渕君だったね。確か莉緒と委員会が一緒だったっけ?かわいそうに、これからは一人で仕事しなくちゃね。」


 こいつら、やっぱり知ってたか。おかしいと思ったんだ、岩瀬の傷は刃物によるものだったが、怪物がいちいちそんなもの、使うはずがない。

 どうせ逃走のため、彼女をおとりにでも使ったってとこだろう。


 「岩瀬なら生きてるし、その心配はねえよ。お前らが何したか知らねえが、俺が助けた。」

 俺がそう言うと、鴛海はきょとんとした顔をしてこう言った。


 「ははは、こりゃ傑作だ!陰キャ童貞が、王子様にでもなったつもりか??欲しいならくれてやるよ、あんな面倒くさい女。あいつは天涯孤独で両親もいない、だから愛してるふりをすれば自由に利用できた。でも、最近は束縛がうざくてしょうがなかったんだよ。」

 

 「クズ野郎が..」

 俺はそう言ってこぶしを握り締めると、奴も表情を変え、こちらをにらみつけてくる。

 辺りに不穏な空気が流れた。


 「よせ、お前ら!こんな時に!」

 まさに殴り合いが始まろうといったとき、野津原の仲裁が入る。


 「..っち、まあいいさ」

 一瞬の静寂の後、鴛海はそう言ってこぶしを下げた。

 俺としたことが、つい冷静さを欠いてしまった。今回に関してはこいつに感謝しなければ。


 「今はここからの脱出が一番だ、そうだろ?渕、お前、地下室の入り口なんて見なかったか?俺たちはさっき、オーナー室で鍵なら見つけたんだが...」


 彼が取り出した鍵には、確かに地下室と記載されたタグが付いていた。

 地下室の記載は地図にもなかった、もしそれが存在するなら、何かしらの秘密が隠されているに違いなかった。


 「うーん、一、二階はあらかた調べたし、鍵のかかった部屋はたくさんあったけど、地下室らしき扉は....」

 俺の言葉に、野津原は、そうか、と言って顎に手を当てた。


 「おい、こいつを信用するのか?大体、無数にある部屋を、ほんとに全部調べられたのかよ?」

 何か気に入らなかったか、鴛海が横やりを入れてくる。


 「鍵がかかってる部屋が多かったって言ったろ?それに、全部部屋を調べたのは間違いない。地図を見て回ったからな。」

 俺は今度は熱くならずに、冷静に答えて、ポケットから地図を取り出した。


 「こりゃ、本物らしいな..」

 地図をのぞき込んで、野津原がそうこぼす。


 すると、同じく地図を見た鴛海が、顔を上げて俺に問いかけた。

 「お前、まさか、女湯調べてないとか、言い出すんじゃねえだろうな?」

 そういえば、何となく入りにくくて後で調べればいいと、敬遠してそのままだったっけ。


 「はん、やっぱりな。これだから...いや、やめとこう、さっきはすまなかったな、俺の言い方も悪かった。いくぞ、そこに何かあるはずだ。」

 陰キャとか言いそうになって止めたんだろう、さっきの一軒で、こいつなりに気を使ってくれてるのか?なんにせよ、こんな状況だと、こいつのようなまとめ役がいると助かる。


 **


 二階に降り、そのまま勢いで一階まで降りようとする鴛海の腕を、俺は掴んだ。


 「うおっ!!」

 驚いたように声を上げ、こちらに振り向く奴に向かって俺は、「静かに」とジェスチャーした。

 踊り場から一階のロビーを見渡すと、そこには巨人の姿があった。おそらく羽村さんの死体を食べに戻ったのだろう。..あれが羽村さんだと、こいつらから知らされたとき、不謹慎にも、少し安心してしまった自分が改めて恨めしい。


 「あれでは近づけないな..」

 すでに食事の時間は終わったらしく、一匹しとめた場所にとどまっていれば、また誰かしら獲物が迷いこんでくると思っているのか、奴は真顔でロビーを徘徊していた。隠れたりしていないところ、知性はあまりないようだが、学習能力はそれなりにあるらしい。

 時折、奴の凍り付くような冷たい視線がこちらに刺さると、こいつが人間の形をした化け物であることを痛感した。心臓は既に、はち切れそうなほどに鼓動してる。


 <ドンッ!>

 そのとき、鈍い音が後ろから聞こえた。

 あまり大きな音ではなかったが、神経が張り詰められた俺にとって、それはダイナマイトを爆発させたように大きな音だった。

 <!!?>

 驚いて振り返ると、頭部から出血した野津原が倒れており、傍には尾内が、椅子の脚だろうか?血の付いた棒状のものを持って立っている。その表情は、まるで、親の仇を殺したかのように、晴れ晴れとしたものだった。

 待ってくれ、どういう状況だ?俺には、尾内が野津原を殴り倒したようにしか見えないのだが。

 彼は野津原の体を転がすと、階段からロビーに向けて、勢いよく放った。

 床にたたきつけられた音で、化け物が反応する。耳の近くまで裂けた大きな口を開け、不敵に笑って野津原のほうへのしのしと歩き出す。


 「何しやがる!!!?」

 鴛海が尾内へ詰め寄る。襟を掴まれた彼は、苦しそうにこう言い放った。


 「..ふふ、良かったじゃない、ほんとは君が、ああなる予定だったんだよ??..渕君、君のせいで少々計画が狂っちゃったけど、まあいいや。ここで殺っちゃおうっと.....」

 そう言うと、尾内はポケットからナイフを取り出し、鴛海めがけて振りかざす。


 「このっ!しねぇっ!!」

 小学生が友達に悪ふざけで放つような、幼稚な文句の数々を、尾内は狂気に満ちた表情でナイフとともに鴛海に向かって容赦なく乱用した。

 

 「ッチィ!クソが!!」

 鴛海はどれも、すんでのところでナイフをかわすと、俺を引っ張って階段を駆け下りた。

 さすがの彼も、突然友人に起こった出来事と、今までは家畜のような存在だったであろうその犯人、尾内の逆襲に動揺を隠せないらしく、額には大量の汗をかいていた。

 俺は彼に誘導されるがまま、化け物の背後をすり抜けた。


 「このまま女湯に向かうぞ..!政明はあれじゃ助からねえ。」

 確かに、すでに怪物に捕まって左腕をもがれた彼は、残念ながら助からないだろう。

 しかし、すでに意識はないため、死に方としては楽なのではないか、罪悪感からか、俺も死ぬならそうやって死にたいと、既にあきらめも混ざっているかもしれない、彼を見て俺はそんなことを思った。


 「待って、まだ、客室<c>に岩瀬がいる。」

 しかし、女湯に地下室への扉があって、そこは外への脱出口なのであれば、彼女も連れていかなければ。

 百歩譲って行方不明の委員長は、もう脱出している可能性もあるし、となるが、けがをして客室で待っている事が分かってる人間を置いていくことはできない。

 

 「よせ、けが人なんていても、邪魔になるだけだ!」

 そう言って、強引に大浴場のほうへと向かおうとする鴛海の手を、俺は振り払った。

 今までの人生で、これほどまでにうまくいかなかったことはないだろう、彼は混とんに満ちた表情で、

 「そうかよ..勝手にしやがれ!」

 そう言い放つと、俺とは別の方向に進んでいった。


 ..野津原には悪いが、化け物の意識が集中している今なら、けがを負ってる岩瀬でも抜けられるはず。俺は、彼女がいるはずの客室にたどり着くが、そこに姿は見えなかった。

 ひとまず安心なのは、周囲に血の跡はないこと。羽村さんがいたであろう場所には、大量の血液が残されていたため、怪物に襲われた可能性は低い。

 どこ行ったんだ、あいつ..?

 ベッドの下を確認したが、まだほのかにぬくもりが感じられた。

 ちょっと前まではここにいた、そんな彼女が向かう場所として可能性があるのは、やはりトイレだろうか、俺はまたもや短絡的思考に陥り、再びロビーを横切ったが、そこに彼女の姿はなかった。

 違うか..と、ここで、ふと目の前にある文字が目に入った。


 調..理室..?


 なぜだろうか、難読な漢字でもないのに、俺は読むのをためらってしまった。

 嫌な予感がする、ここを開けたら後悔する、戻って先に進めと、そう誰かから言われているような気がしてならなかった。

 ここまでなら、まだ、館の中に忍び込んだ高校生が、そこに住み着いていた化け物に襲われた、そんなただのあり得ない物語。

 <ギギイイィィーッ> 

 しかし、俺はそんな効果音とともに、パンドラの箱を開けてしまった。さらなる謎へと、踏み込んでしまったのである。


 ----そこには異様な光景が広がっていた。


 コンロ、流し台....様々な調理器具がそろっているなんてのはどうでもいい。

 問題はそれらが赤く染められていたということだ。血しぶきの源はどうやら左奥の壁際らしい。


 ..恐る恐る近づくと、そこには変わり果てた姿の岩瀬が横たわっていた。

 胸には包丁が刺さっており、口から大量に出血した跡がある。開いたままの大きな瞳には生気はなく、もはや息はないだろう。

 

 「そんな....あれほど言ったのに、どうして..?」

 問題はそれだけではない、殺され方からして、犯人は理性のある人間だろう。しかし、鴛海たちは犯人ではない事は、俺自身が証明できるのだ。外から鍵を掛け、俺たちを閉じ込めた池田は除くとして.....一体誰がこんなことを?

 

 -----「ひ、人殺し..!」

 背後から聞き慣れた声が聞こえた。

 振り返ると、そこにはやはり、委員長の姿があった。

 確かに、今、俺の服には、岩瀬を抱えた時についた血が大量に付着している。それに側には彼女の亡骸....勘違いされてもしょうがないかもしれない。


 「ち、違うんだ、友梨…これは、俺がやったんじゃない!」

 動揺して、思わず昔の呼び方で読んでしまった。

 小学校高学年に上がる頃だろうか、俺は名前呼びが恥ずかしいって言って、一方的に距離を作ったんだっけか。

 

 「お、落ち着いて俺の話を聞いてくれ..」

 俺は彼女へと歩みを寄せた。


 「イヤッ!近づかないで!!聞けるわけがないでしょ?!私をあそこに閉じ込めたのも、全部勇一朗の仕業だったのね...!」


 「何いってんだ!?閉じ込められてるのは、俺も一緒だろう..?」


 「勇一朗こそ、訳のわからないことを言わないでっ!」

 そう言って彼女は駆け出す。....何だ?全然話が噛み合っていない。

 「っちょっと、待てって!」

 俺は追いかけるが、彼女は止まらずロビーの方まで駆け抜ける。....なぜだ?今行けば危険なことくらい百も承知だろう。


 「そっちは危ないって!!」

 そう言ったのは少し遅かった。

 食堂の前の廊下を走っていた俺たちの前に、巨人は現れた。


 「...何?こいつ......」

 委員長、化け物の存在を知らないのか?彼女は、呆然と立ち尽くす。こんな反応、一番やっちゃだめだ、一度でもこいつと対峙したことがあれば、あり得ない行動だ。それがどれだけ恐ろしい行為かを、一度で理解できるからである。


 「友梨、早く逃げ..」


 俺の声掛けもむなしく、化け物は、涙をぼろぼろとこぼし、成すすべなく自分を見つめている彼女を持ち上げた。巨人が足を持っているため、宙ぶらりんの状況になった彼女は、世界が反転して初めて、この危機的状況に気が付いたらしい。

 

 「いやああああっっ!!やめてぇぇぇぇ!!」

 彼女の叫び声で、鼓膜が破れそうになる。しかし、怪物はそれを楽しむように見つめた。


 <べきっ>


 そんな鈍い音の後、彼女は床にたたきつけられた。

 足を折られたのか、もう片方の足と腕を使って懸命に食堂のほうへと逃げ込む。


 「イヤ.....もうイヤ...!」


 そう呟きながら進む彼女に、速度を合わせるかのように、化け物はゆっくりと歩みを進めた。

 床は、彼女の下半身から漏れ出した液体で、びちゃびちゃに濡れていた。


 「友梨??」

 それからしばらくして、辺りを包んだ静寂で、俺は我に返った。

 おもむろに覗いた食堂では、化け物が何かを一心不乱に頬張っていた。


 「そんな...こんなことって..」

 思わずそこに歩み寄ってしまう。しかし、よほどおいしかったのか、怪物はこちらを振り向きもせずに右手で俺を殴り飛ばした。


 「げほっつ」

 背中を壁にぶつけ、一瞬呼吸が止まった。

 もう、無理だ。ここから抜け出すなんて不可能だ。

 --全てをあきらめて、俺は目を閉じた。


 ***


 あのまま、もう二度と起きることはないと思っていたが、何故か意識が戻ってくる。

 体は小刻みに動いている、移動しているのか?

 「うっ...」

 目を開く。どうやら誰かにおぶられて、暗い道を進んでいるようだ。

 俺を運んでいる誰かが持っている懐中電灯の光で照らされている範囲しか、目で世界を感じることはできない。

 「起きたんだったら降りろよ。ったく、俺にこんなことさせやがって。」


 ...この声は、鴛海か?こいつ、俺を助けにわざわざ戻ってきたのか。いろいろと冷たくて、気に食わない奴だと思っていたが、もとは案外情に厚い奴なのかもしれない。けがはなさそうか?など、いろいろと心配してくれているようだ。こいつのやってきたことは許せないが、彼の親父さんが無理やり、自己中心的な思想を押し付けたなんて話も聞くし、同情の余地もあるのかもしれない。いずれにしても、面倒なことしやがって、俺はいっそもう、あのまま死んで楽になりたかった。


 「勘違いするなよ、俺はまだお前が役に立つと思って助けただけだ。お前には借りがあったしな。」


 そう言って奴は、背中から俺を下ろした。借りというのは、三階から降りてきた時のあれだろうか。まあ、助けられておいて文句は言えない。生きている以上、脱出に全力を尽くそう。

 ポケ〇ンのリメイクの可能性、モンハ〇の大型アップデート、延期されていたアニメの放送.......俺はこれから楽しみな数々を思い気力を振り絞った。

 

 「で?ここはどこっすか?もう旅館じゃないよね??」

 

 「ああ、女風呂には案の定、隠された通路があった。俺たちは今、そこを進んでいる。もうすぐだ、もうすぐこのいかれた旅館ともおさらばだぜ!....おっと?話してるうちに何か見えてきたな!」


 --確かに、視界の先に目を細めればわかるほどの、小さなオレンジ色の光が見えてきた。


 *

 

 その部屋は、正方形の小さな部屋で、中央に傷がたくさんついた古びた机と、俺たちが入ってきたのとは別に、ほか三つの扉を構えている。どれもさび付いた、鉄の扉だ。

 それにしても、空気が悪い。極度の緊張というのもあるだろうが、それが異常に重く、汚く感じる場所だった。それは、この部屋の壁や天井からも見て取れる。いたるところが黒ずみ、ひび割れ、カビだらけである。


 「とりあえず、右から行ってみるか。」

 彼は特に考えもせずに、だろう、向かって右側の扉のノブをひねった。ちなみに、俺も彼に賛成だ、迷っていたんじゃ、無駄に時間を過ごすだけ、いつあの怪物や、正気を失った尾内が襲ってくるかもわからない。こういう気持ちは冷静な思考を乱すが、とりあえずここから早く出たいというのもあった。


 ----「うっ、なんだ?このにおい..!」

 鴛海がこう漏らしたのもわかる、というのもこの部屋には、耐え難い異臭が漂っていた。

 この部屋は、縦長の構造になっており、両脇には鉄格子によって区切られ、牢屋のようになっていた。

 そしてその各々に、人の死体らしきものが入っていた。ここに来たから、いくつこれを見ただろうか?もう、うんざりだ。


 「なんだこりゃ..いったい何がどうなってんだよ..」

 俺はそう言って、目をそらした。


 「---驚くのはまだ早いぜ?見ろよ..」

 彼の視線の先の牢屋には、先ほど見た巨人とは見た目が少し違ったものの、奴と同じような、到底人とは思えない何か、が入れられていた。

 

 <どんっ!>


 俺たちに反応したのか、館の個体と区別して、牢屋の巨人とでも呼ぶべきか、この化け物は鉄格子を思い切りよく叩いた。ゆがんだ鉄格子、このまま叩き続けられればもたないだろう。

 俺たちは顔を見合わせると急いで元の部屋に戻った。


 「俺はこっちを調べる!」

 俺はそう言って、牢屋の部屋からすぐ右手にあるドアを開いた。

 牢屋の後だから、そんなに驚きはしないが、ここは手術室のような場所だった。中央には血塗られたか台があり、四肢を固定された死体が横たわっていた。

 こんなもの、旅館に必要なのか?表向きは旅館として活動していたが、本当はここで何かよからぬことをしていたのではないだろうか?信じがたいが、その過程であの化け物が生まれてしまったとしたなら、ギリギリ説明がつかないか??


 「おい、渕!こっちの扉は開かねぇみてぇだ!鍵がどこかにねぇか?!」

 向こうの部屋から、声が聞こえてきた。なるほど、こっちも違うとなると、恐らくあっちが脱出口だろう、鍵がかかっていても何ら不思議じゃない。

 

 「鍵、鍵..」

 俺はあれこれ考えるのは後にして、この部屋にある収納の引き出しを、一つ一つ調べる。


 「時間が惜しいんだが、自慢の蹴りで、破れたりしないのかよ?!」

 俺は冗談なじりで聞いてみたが、返答がない。


 「--鴛海?」

 ...何かあったのだろう、俺は急いで戻った。


 そこには、尾内の姿があった。


 「ごめんね、渕君、一生懸命に探してたけど、鍵、僕が持ってるんだよね。旅館のほうで見つけたんだけど、君たちに見せなくて正解だったよ!鴛海、お前はここから絶対に出さない!!ここで死んでもらう。」

 手にはナイフ、表情は憎しみで歪んでいた。

 やはりこのまま黙って脱出はさせてくれないよな、というより、あの時ロビーですぐに襲ってこなかったのが不思議なくらいだ。怪物がいたんで、少しためらいがあったんだろうか?


 「落ち着いて、尾内君!とりあえず....」

 そんな俺の言葉を遮って、鴛海が言った。


 「いいんだ、すまねぇ渕...だが、俺はずっと考えてたんだよ、今回の件は..今までの俺の行いに対する天罰なんじゃないかって。---こいつにも、恨まれるだけのことをした、でもお前はカンケーない、委員長たちも、巻きこんじまって申し訳が立たないな..なあ、尾内、俺を殺して気が済むなら、好きなだけ刺せよ。」

 やはり、今回の件を通して、こいつも少なからず、今までのことを反省してたのだろう。じゃなきゃ、俺が今、生きているわけないしな。

 

 「だからっつって、お前が死ぬ理由にはならねえぞ!!」

 俺はそう言うが、鴛海の覚悟は変わらないらしい。彼は潔く両手を後ろに組んで、天を見上げた。


 「最後の景色がこれなんてな。」

 そう呟いたようにも聞こえたが、それは尾内の叫び声でかき消された。


 「なっ、なんだよ、反省したアピールか?今更遅いんだよぉぉぉぉ!!!」


 尾内はそう言って、ナイフを鴛海の腹に突き刺した。


 「がぶっ..」


 彼は吐血して、床に倒れこんだ。

 数秒立って、彼は完全に動かなくなった。

 

 「...嘘だろう??」

 あと少しで脱出というところで、こんなことって..

 

 「あひゃひゃひゃひゃ!!!やった、やってやったぞ!!これで、自由だぁっ!」

 そう、狂ったように叫ぶ彼の喜びの束の間、扉から牢屋の巨人がこちらをのぞき込む。

 その顔は、まるで初めて外に出る小さな子供のように、自信無さげで、純粋であったが、それは逆に、俺の気分を激しく損ねた。

 「気持ち悪い....!なんなんだよ、お前らは!」


 俺の声には、聞く耳を持たず、奴はそのまま扉を開けようとしている尾内に近寄ると、勢いよく頭にかぶりついた。


 辺りに血しぶきが待ったのと同時に、頭部を失った彼の体が、力なく倒れこんだ。

 一瞬の出来事に、頭が追い付かなかったが、幸い、というべきか、扉の鍵は尾内が開けてくれたようだ。


 考えている暇はない、このままではいずれ俺も死んでしまう。勢いよく床を蹴って、咀嚼に夢中な化け物の隣をすり抜けた。振り返ってなどいられない。体の至るところが痛んだが、立ち止まることも出来ない。 

 俺は、ただただ、暗い道を走り続けた。 


 *****

 

 -----「お待たせ、さあ、話を聞こうか。」

 ひげを生やした優しい表情の男の人が、温かいお茶を俺の前に置く。

 そのあと彼は机を隔てた、俺の前に座ってそう言った。

 

 どれくらい走っただろうか、外に出た後、俺はすぐに警察署のほうに駆け込んだ。

 俺の恰好や、表情を見てただならぬ雰囲気を感じたのか、彼らは俺の話を馬鹿らしいと一蹴することはなく、黙って最後まで聞いてくれた。


 「なるほど、つまり君たちはお友達に、清僭莊に閉じ込められ、そこで変な生き物に襲われた、と。」


 「信じてください!!俺はこの目で..!」


 「落ち着きなさい、もちろん、君の言っていることを信じるよ。よく生きて帰ってきたね、あの場所から。..ところで、その巨人、どんな顔してた?」

 --え?ちょっと待って、俺はまだ、怪物としか言ってないような..


 彼は不敵な笑みを浮かべながら俺のほうに近づくと、突然、胸部に激痛が走った。


 俺は床に倒れこむ。右胸のあたりを見ると、鮮血で染まったシャツに、鋭利な何かが刺さっていた。


 「..お巡りさん???」


 顔を上げると、彼は誰かと話しているようだった。


 警官<...ええ、彼はあの謎を知ってしまったようでした。>


 男<そうか、なんにせよご苦労だった。引き続き頼むぞ。>


 は?何の会話だ?まさか、警官である彼も、一枚噛んでいるのか??


 --------


 ---「ふーちーくんっ、お疲れ様、残念だけど、ここでお別れだね。結局みんな死んじゃったかぁ。」

 

 「..それにしても、さっきの話聞いてたけど、池田が犯人だって??はははっ、残念だけど、彼ならとっくに死んでるよ。面倒だからこの、....が殺しちゃった。」


 「あ、そういえばもしかして、....のこと死んだと思ってた?だめだなあ、何もわかってないよ。」


 俺の耳元で、誰かがささやいた。こいつが真犯人ってことなのか...?しかし、意識がもうろうとしていて、視覚も、聴覚もうまく機能してくれない。

 誰だ!!いったい誰なんだこいつは...!!?


 「っえ??もしかしてまだわからないの??じゃあ、ヒントを上げようか....」


 「って、あ、もう死んじゃったのね。」


 ーーーーーーーー


 ~BAD END~

 新たなる謎

 

 この作品を書くにあたって、僕が青鬼という作品に少なからず影響を受けたのは、知っている人にとっては、言うまでもないと思います。

 昔からの不朽の名作ですよね!

 僕は、ゲームもしたし、漫画も、映画(アニメーション?)も見ましたが、やはり、小説版の印象が強いです。

 何個かあるかもしれませんが、僕が読んでいたのは全五巻のもので、とても面白いです。

 初めて読んだのは、中学校の時、朝の読書が強制されていて、何読もうかな、なんて思ってて時に、購入しました。(この後、表紙が怖いと前の席の女の子に泣かれ、学校では読めなくなりました。)

 というわけで、青鬼の紹介になっちゃいましたが、僕の作品も楽しんでいただけたでしょうか?


 反響いただけましたら、続編(解決編)や、ハッピーエンドのルート、また、ほかの人の視点での執筆も考えています。


 もし、よかったら、気軽に【公告の下にある、★マークから積極的に評価】や、【ブックマーク】していただけると、大変励みになります。


 また、感想などもらえたら今後の執筆活動(ちょっと偉そうですが…)の参考にさせて頂こうと思っているので、時間のあるときにでも、ぜひ、お願い致します!

 

 以上、最後の戯れ言までお付き合い頂いた方、もちろん、物語を読んで頂いた方も、ありがとうございました。


 今後とも、よろしくお願い致します。


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