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転機
戦争が終結すると、GHQの政策により没落する一族が生じた。彼を村役場に導いた村長も、農地解放と戦争犯罪に問われ村を追われた。村長の裏での醜い程の仕打ちの片棒を担いできた鼠男は影の存在だ。誰もが気にせず、誰もが咎めない。
根も葉もない村人の噂を奉り上げては軍や交番の報告し、有力者にはとことん媚びながら、村の事実上の召集を決めていたのは、実はこの鼠男だ。
村長にあれだけ尽くしあれだけ世話になった関係であるのに、彼はしらを通し続けた。恩など生き延びるためなら簡単に捨てた。戦後の農村の新たな権力はこの小さな村では左系化した物の考える方を語る新しいならず者だった。彼は直ぐに、このならず者に取り入った。
やがて昭和の市町村合併が進むと、小さな村は幾つかの町と村が集まり、まとまった市となった。
新しいならず者のお陰で、鼠男は新しい市の職員に採用された。敗戦による価値の変化と社会のゴタゴタが、彼をいつの間にか一人前のような扱いにした。
偶然と鼠男独特の生き延びるためならの嗅覚の産物であった。