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穂高市役所ストリートビュー年史  作者: 十二滝わたる
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年史外伝 7

 穂高市役所にある尾根のスキークラブは、大所帯の職員有志クラブとして有名だった。

 毎年の年末は穂高スキー場のホテルを御用納めから大晦日までの間は、ほとんど貸切でクラブ合宿となった。

 何よりも冬の遊びがない田舎街だったから、寒い冬場はより寒くても山のスキー場で遊ぶことしか楽しみがなかった。

 僕も小さい頃からスキーには親しんでいたのでスキークラブの一員となり、年末から3月まで3回ほどあるクラブ合宿に参加していた。

 夜は大部屋で日本酒やワインを飲み、夜遅くまで飲み語り、翌日は朝早くから二日酔いのまま冷たいスキー場の風を浴びた。

 娯楽と親睦のためのスキーは楽しかった。

 リフトは一人乗りで列をなして並び、リフトの乗るまでは30分も待つことが多かったか、寒いゲレンデにも関わらず、ねずみの夢の国のようにそんなに長くあの当時並んでいられたことが不思議に思う。

 僕達は市役所職員であることから、スキーのできる職員は、ことさら県の中高校から国大予選までのスキー大会の手伝いのかっこうのターゲットになった。

 年も若い最初の頃は、ボランティア、その頃はそんな言葉もまだ普及してはいなかったか、そのつもりで奉仕していた。

 特に冬季国体が穂高スキー場での開催に回ってきた時には、クラブの職員は口車に乗せられて率先して手伝いに終始した。

 しかし、僕らの日当は500円だかスキー組織の役員や連盟の日当は桁が違った。統一した国体のスキーウェアーもそのときしか着れない品物だな、僕達は実費で買わなくてはならないのに、彼らは無料貸与だ。僕達は暖房もない窓一つ先は吹雪の夜となる地下の簡易ベッドで、風呂上がりのドライヤーもない待遇で、朝には髪の毛が凍ってきまうのに、彼らは大きな一人一部屋でゆったりとくつろげた。

 さらに、一日ゲレンデに立って競技を見守る役が寒さの余りに造った雪避けの雪壁は見苦しいからと、暖かなロッジから見上げる彼らはそれを許さず、昼の弁当は立ったままにスキー手袋では食べれない凍った弁当と冷たい缶コーヒーを躊躇いもなく配った。

 挙げ句にの果てには、大会終了後に山からスキーで機材を下ろし終え、ゴールのテントに来ると、選手にをもてなすために配った暖かいけんちん汁があり、地元のおばさん達は、「寒いところ、ご苦労様」と残り物を手伝いの僕達にも振る舞おうとした。

 その時、「市役所の連中にはやるなと言ってた」と年配の訛りのきつい男が制した。

 「だって、余ったもので、捨てるんだもの」とおばさんは言った。

 捨てるものを嬉しがる僕達を情けなく思いながらも、話のやり取りを聞いていると、

 「市役所にやるくらいなら、捨てたほうがいいと」とその男は言った。

 僕達、市役所のスキークラブ員は、それをつぶさにきいていた。

 冬の流行歌が華やか鳴り響くゲレンデで、イベントを招致し人を寄せ、スキー場を、景気を盛り上げ、市政を活気づけるための職員の下支え。そんな思いは僕らは消し飛んだ。

 以後、僕ら職員スキークラブは、仕事とプライベートを明確に線引きした。

 穂高スキー場には二度と足を向けることはなかった。あのときから、僕らは夏も冬もあそこには泊まりすら行かないことになった。

 田舎のなかの田舎、高飛車な時代に乗ったスキーブームに乗って、冬だけで一年分を稼ぎ出し、遊んで暮らせた旦那どもだ。

 ブームが去り、ホテルや土産屋が困窮すると、変わるどころか相変わらずの高飛車のままに、市の政策が悪いと騒ぎ出す。そして、それに応じようと右往左往する観光行政。

 構造はどこでも同じかもしれない。街の商店街のように。かたちが違うだけだろう。ただ、品位で飾る術すら知らない途絶された意識と感覚が一層、見苦しいだけだ。

 かつての奴隷商人には幾人もの商人が介在していた。アフリカから奴隷を調達するのは奴隷と同じ民族の商人だ。同じ仲間を売りさばき、己の利益を売ることに痛みも感じない。

 それと同じからくりが、ここにも存在する。同じ仲間が親分肌のように自分の評価を上げるために媚びを売り、仲間を騙して担ぎ出す。自分は産業育成の政治と利権村との仲介役として極めて政治的に名を上げる。仲間の誠実さを裏切りながらも。そんな人達は少なからず居たのだ。

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