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鼠男
僕の上司となるその男は定年までほどない年のように思えた。髪は禿げてはいないがほとんど白髪であった。
また、筋肉なるものもほとんど感じられず、撫で肩の猫背で小さい貧相な体で、強い者にはとことんへりくだり、少しでも自分よりも相対的に弱い者にはとことん虚勢を張るのである。
しかも、へりくだった薄笑いを浮かべ、媚び尽くした演技の目の奥には、決して媚びていない冷たい透明な不気味な水晶体があった。
その男は、鼠のような嗅覚で自分た正体を見破っているその人間を見破る動物的な本能をも持つことにより、淘汰されずにこれまで生き長らえてきた。
つまり、彼にとって、彼の正体を自然に見破る術を持っていた僕は、天敵であり、殺らなければいつか殺られる相手、打ち取るべき刺客であったのだ。