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穂高市役所ストリートビュー年史  作者: 十二滝わたる
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銀座

 僕は薄暗い小さなステージで唄う金子由加利に聞き入っている。少しだけ、イラついていた。前の人の後頭部が邪魔になり安定した視界を得るのが難しいのだ。ワンドリンク付きの入れ替え制のライブハウスだ。

 聞屋の友達の誘いに乗って、僕は銀座の銀巴里に来ていた。銀座などは到底縁がないものと思っていた。夜の金曜日のプロレス中継のコマーシャルとして、銀座の丸いビルの鮮やかなネオンしか知らなかった。来て見ると、驚くような通りでもなく、普段着のおば様方も沢山いた。ただ、やはり、着飾った振り向い欲しい後ろ姿の銀座の女ののように洗礼されたファッションも沢山見かける。

 銀座のデパートも地方にあるフロアーバージョンであり、売り子も地方と変わらないと思った。銀座のデパートの包み紙が、銀座で買ったあんパンが、銀座で食べたカレーライスが、銀座ということだけのステータスを持ち、虚栄心をくすぐるのだろう。

 銀巴里に入るまでには随分と時間がかかった。並んででから1時間たっても、銀巴里の開場を待つ人の列が、狭い歩道からはみ出し、延々と曲がりくねって続いていた。

 金子由加利の唄は心に滲みた。狭い空間の薄暗い部屋で、そう強くないスポットライトを浴びて唄うってこそ金子由加利だと感じた。大きなステージでは活きてこない。巧さや下手の問題出ない。ジャズのように、会場と一体となり表現される芸術の分野と言うことだ。

 銀巴里の帰りに、さらに聞屋の友はルパンに誘った。さすがに高級クラブはないが、ルパンは銀座では僕の好きなカウンターバーだ。どこかゴールデン街にも通じる戦後の雰囲気だ。

 カウンターの奥には見たことのある写真が掲げてある。知られた太宰の気取ったポーズだ。女にだらしない太宰は嫌いだか、気取った粋な太宰と酔って喧嘩するような太宰は好きだ。

 どこに行くにも仕事以外も、僕は上下の背広を着ていた。ファッションなど着るものも、まったく興味がなかった。興味を持つほどの経済的な余力もなかったのだ。

 銀座も銀巴里もルパンも背広で通した。上着を肩にかけて椅子に堅を挙げて太宰のポーズを取るとイイナと聞屋は褒めてくれた。

 「クライウチハホロビナイ アカルサハホロビノショウチョウデアロウカ」

 「そうだな」と聞屋は言った。

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