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穂高市役所ストリートビュー年史  作者: 十二滝わたる
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トンネルを抜けて

 あれから三年後、僕は東京にいる。

 県とのお付き合いで、急遽、県の東京事務に一名を穂高市からも県に職員を派遣することになりったものに希望したのだ。

 東京事務所と言っても、県内の市町村のお上りさん的な、国会議員や省庁への陳情の手伝いの下働きで、県職員の人手が足らないから、応援職員が欲しいというものだ。

 仕事は極めてロジスティックスなもので、今のところように、ネット予約やセット割り引きの商品が簡単に手続き出来るのとはちがい、国鉄切符やら、ホテルの手配やら、大臣や省庁部署への訪問約束どりなど、さしずめ官公庁への旅行手配と案内がほとんどの内容だった。

 誰も好き好んで希望などしないから、希望者は僕一人であったらしく、あっさりと決まった。

 僕にも魂胆があった。平行して東京の某大学の夜間部の入学することができ、なんとも簡単に、学問と収入の両方を確保することに成功した。

 借家は解約し、東京でアパートを借りることにした。

 但し、一点だけど禍根を残すこととなった。

 当初から明瞭ではなかったのだが、町村の合併でようやく7万人そこそこの人口で、合併した隣町に工業団地があったせいもあり、やっと市として扱われてあたこの市には、派遣させるほどの職員の余裕など、始めからなかったのだ。

 結局、後付けの決定ながら、希望した者が、その時に所属していた部署付けで派遣することとなった。つまり、僕の所属は実質一名の減員となった。

 派遣を後押ししてくれていた課長も、予期せぬ事態に口をへの時に曲げた。当然、鼠男、むじな男、ハロインカボチャはじめ、こぞって愚痴が噴出した。

 よくもあれだけの罵詈雑言を、平気で人に浴びせられるものだと感心した。要するに、一人減ることでルーチン業務の自分の仕事が増えるとの不平だ。東京まで引っ越して、誰も引き受けない仕事をやろうという気持ちを察するなど微塵もない。東京で遊んでくるのだとの陰口ばかりだ。

 悪いが僕はあの人たちの二倍は仕事をこしなしている。ぺちゃくちゃと他愛もない話をしながらお茶している無駄な時間がどのくらいあるのかすら、あの人たちは分からないのだ。ルーチン業務だから極端な話、人手を半分にしても何ら支障などないのだが、労働組合が未だに強く、うるさいものだから、その部署からの派遣にされただけのようだ。もっと本来の仕事をしろよと言われているだけだ。僕は少しも負い目を感じず、悪いとも思わななかった。

 とにかく、僕は大学生となることだけはひた隠して、平身低頭に謝り続け、なんとか、穂高市を抜け出した。

 職員に採用されてからの学歴の追加など、制度的のは何の恩恵もないという公務員法のことなどは、誰よりも知っていた。ただ、僕は東京の空気に潜む日本の文化の香りと、学問が現在、どのようになっているのかを知りたかったたけだ。

 あれだけの左系の焼跡と残骸はこのアジアの大都会に何かを残したのかを確かめたかったのだ。

 一部の同僚だけが僕を祝福を持って僕を送り出してくれた。

 東京へは鉄道の乗り継ぎ時間も合わせれば、ゆうに6時間はかかった。列車は安く乗れるいつものボックスシートの夜行列車だった。

 閉塞と陰湿の村社会とは、束の間のお別れだ。 

 

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