遠くで汽笛を聞きながら
そんな最初に配属された職場の雰囲気であつたが、臨時職員も含めると60人程にもなる大きな職場であったため、多くの普通の若者や普通の先輩達もおり、それなりに楽しく過ごせる部分も少なくなかった。
若者だけの集まりでは、徒党を組んでスキーやテニスやキャンプ等の泊まり掛けの旅行や、友達の家に押し掛けての麻雀、同時、流行った喫茶店でのテレビゲームで盛り上がった。
若者だけに、男女の惚れた晴れたの小競り合いはあるものの、玉石混淆のルーチン業務の大いなる気晴らしだ。
先輩から連れてかれたディスコでは、華やかなミラーボールの下で、日中は目立たない先輩達の華麗なダンスを隅で見ながら、これが大人の世界なのかともたじろいだ。ハロインカボチャとの論戦もそれなりな楽しんだが、そんな思想とかにはまったく関係のない、夜の華やぐ社交がこんな田舎街まで広がりをみせていたのだ。
サラリーで早速、車を買う奴、バイクを買う奴、夜の繁華街を毎晩飲み歩く奴。自分の働いた自分の金は大人に成った証のように、皆、自由に使っていた。
金で学業を断念し、やむ無く働いて得た金で、好きなことをして遊ぶことはできるが、学べる環境にはなかった。
鬱屈とした気持ちのまま、寝床で遠く列車汽笛を聞きながら、山の向こうのさらに向こうの都会の情景を思い浮かべた。