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ヒロインだけど敵が好き♪  作者: きゃる
第一章 推しがクラスにやってきた
4/15

だってヒロインだもの

 アニメ通りであるならば、この後アリアが「学園を案内しましょうか?」と申し出て、彼らが同意する。


 アリアは私だから、もちろん喜んで。

 その前に、身だしなみのチェックよ。


 桃色の髪は乱れてないかしら? 

 紫の瞳も嬉しさのあまり、血走っていない? 


 私は手ぐしで髪を整え、改めて彼らに向き直る。


「あの、良ければ学園を案内……」


 ちょうどその時、前方から声が聞こえた。


「あー、悪いがオルト君。この後、彼らにここを案内してやってくれ」


 はあぁぁぁ!?

 担任、いったい何言ってくれちゃってるのよ。セリフが違うわ!


「ええーー。僕、今日は友達と遊ぶ約束があるんだけど」


 オルト、君は小学生か!

 でも、これはチャンスだ。

 私は遠慮がちに手を挙げて、恥ずかしそうに告げる(もちろん演技だけどね)。


「あの、先生」

「なんだね? アリア君」

「オルト君に用事があるなら、私が代わります」


 言った瞬間、後悔した。

 なぜならクラスの女子のほとんどが、真似して手を挙げたから。


「はーい、それなら私も」

「なに言ってんのよ、私よ、私!」

「あんたブスのくせに、引っ込んでなさいよ」

「なんですってぇ。あんたこそ、鏡を見れば」


 イケメンの効果、恐るべし。

 教室が突然、修羅場に変わる。

 アニメでは、ヒロインのアリアがあっさり案内していたのに、現実では競争率が高そうだ。これだと、有無を言わさずくじ引きでは!?


「仕方ない、僕が案内するよ」


 ちょっと待ったオルト。

 私の推しを相手に、仕方ないって何よ!

 いやいや、ここで怒ってはいけない。

 私は控えめに(聞こえるよう)口にする。


「オルト、手伝うことがあれば言ってね」

「わかった。じゃあ先生、アリアと一緒でいい?」


 オルトが可愛く首をかしげて、先生に(たず)ねた。彼はそんじょそこらの女子より可愛く、先生方に気に入られている。


 あ、もちろん私の方が女の子らしいわよ?

 なんたって、ヒロインだもの。


 先生が、(うなず)きながら応えた。


「ふむ、それなら二人で案内しなさい。君達もいいね」


 よっしゃあぁぁ!!

 でかした、オルト。

 昼食でプリンが出たら、譲ってあげてもいいわ。


「ええ~~」

「アリアばっかりずるい」

「美少女は得よね」


 クラスメイトのやっかみも、()め言葉にしか聞こえない。


 いいの、今なら許せるわ。

 ヒロインに生まれ変わった私は、(推しへの)愛に生きると決めたもの。




 一番身分が高いのは、公爵家のディオニス。

 彼がいるせいか、留学生(実は敵)は放課後、うちのクラスに集合する。


 ディオニス、レヴィー、ジェラールにクロム。

 背の高い美形四人が一堂に会する姿は、目の保養を通り越して壮観だ。


「前世でこんな機会があれば、プラチナチケットどころかオリハルコンチケットだわ」


 自分でも、何を言っているのかよくわからない。

 ともかく、女子のトゲットゲの視線を浴びながら、私は留学生達に学園の施設を案内するべく張り切っていた。


「みなさま、初めまして。高等部二年のアリア・ファブリエと申します」


 私は感じ良く微笑み膝を折り、精一杯自己アピールに努める。


「ごめんね、よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 同じクラスのディオニスに柔らかく微笑まれたので、私も笑みを深めた。

 彼のことはすでに語ったので、省略。

 付き従うレヴィーも語れば長くなるので、泣く泣く省略する。


「わざわざすまない」

「いいえ、構いませんわ」


 頭を下げたジェラールは、ベルウィード国将軍の息子で四人の中では一番体格がいい。

 侯爵家の次男でもあり、剣と馬術が得意だ。


「では、早速行きましょう」


 冷静なクロムは男爵家の三男で、眼鏡をかけている。赤い髪の色がコンプレックスで、赤毛は知力が低いと決めつけられるのを、何より嫌う。


 全てはもちろん、アニメとファンブックからの情報だ。


 先頭がオルト、その隣に公爵家のディオニス、すぐ後ろに従者のレヴィーがいる。その後ろを歩くのは、黒髪に金の瞳のジェラールとまっすぐな赤い髪で琥珀色(こはくいろ)の瞳のクロム。二人は一学年上の三年生。

 私は彼らを眺めるため、当然最後尾。


「眼福、眼福。キレイな方は、背中も素敵♪」




 グランローザ王立学園は王都の南、田舎の地区にある。

 生徒は全員寮生活。赤茶けたレンガの建物が並ぶ広大な敷地は、緑の森に囲まれていた。


 オルトはまず、中等部と高等部の校舎を順に案内する。

 私は質問に耳を傾けるフリをして、さりげなくレヴィーの隣に並ぶ。彼は無愛想だけどカッコよく、頭もいい。オルトの話を一語も漏らさず聞いているようだ。


 続いて別棟の白い建物へ。

 この先は、アリアのセリフだ。


「こちらが高等部の食堂です。吹き抜けで、学年ごとに利用できる階が異なっているんですよ」

「学年ごと?」

「ええ。一階は一年、二階が二年、三階は三年生が使用します。例外は生徒会のメンバーだけで、学年など関係なく、見晴らしの良い三階席に座れます」

「学年別じゃない方が、僕はいいんだけどね」


 オルト、黙って。

 せっかく私が猫を装着して説明しているのに、茶々を入れるのはやめなさい。


「そう、学年別とは寂しいね。でもまあ、君のように可愛らしい子が同じ学年で、僕は幸運だな」


 ディオニスの口説き文句は、通常営業だ。

 うっかりときめいてはいけない。


 さすがは公爵家のお坊ちゃま。

 彼は全ての女性に親切で、話し方も優しい。

 無表情な従者のレヴィーと足して二で割れば、ちょうど良いだろう。


「学年だけ? 席順に爵位は関係しないのですか?」


 キターー!

 男爵家のクロムが眼鏡の縁を触りながら、放映通りの質問をした。


「ええ、ほとんどが貴族の子女ですもの。爵位や序列を気にしていたら、美味(おい)しい食事も美味しくありませんよね?」


 彼らの登場する回は何度も見たので、セリフもしっかり覚えている。ここでアリアがアップとなり、ターンしながら可愛くにっこり笑うのだ。


 ヒロインらしい仕草は、現実で行えばかなりわざとらしい。だけど彼らに印象づけるため、全力で頑張ろう。


 緑のスカートを(ひるがえ)し、くるりと回る。

 続いて首をかしげ、ニコッと笑った。


 この後みんなは、アリアの笑顔に息を()む――はずが!?


「それなら学年別はおかしいだろ? どこで誰と食べようが、美味(うま)いものは美味いよ」


 留学生達の視線は私ではなく、頭の後ろで手を組むオルトに移っていた。


 今のは、アニメにないセリフ。


 おのれ~~オルト。

 どうしてくれようか!

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