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ヒロインだけど敵が好き♪  作者: きゃる
第一章 推しがクラスにやってきた
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公爵家 ディオニス(裏)

「緑色って平凡だけど、ディオニス様が(まと)うと、輝いて見えます」


 女生徒達の輪の向こう側に、僕に話しかけようかどうしようかと迷うアリアがいる。彼女は柔らかそうな桃色の髪に紫色の瞳をしていて、この学園で一番可愛い。その彼女に聞こえるよう、僕はわざと大きな声を立てた。


「それは褒めすぎだよ。僕には君の方が、輝いて見える」

「きゃあ」


 諦めて首を横に振る彼女。

 次いで従者のレヴィーに目を向けると、彼はため息をつきながら、銀色の髪をかき上げた。女の子達に囲まれている僕に、いらついているようだ。


 ――おいおい。主人に対して、その態度はないだろう?


 彼の様子がおかしくて、僕は喉の奥で笑う。任務のために留学してきたと言っても、これくらいの役得は良いはずだ。国は違えど女性はみな愛らしく、慈しむべき存在だと思う。


 生まれ持った容姿のせいか、公爵家の嫡男(ちゃくなん)という肩書きのせいか。僕は生まれてこのかた、苦労を知らずに育った。欲しがれば与えられ、にっこり笑えば大抵のことは思い通りに進む。女性に囲まれるのも、いつものことだ。


 けれど、ただ一人。

 現在の従者であるレヴィーにだけは、剣術も馬術も勉強も(かな)う気がしない。僕が彼に勝てるのは、口のうまさと女性を褒めること。そこまで意識したわけではないが、彼の嫌がることをして楽しむ気持ちが、半分はあるかもしれない。


 子供の頃の僕は、周りに愛想良く振る舞っていた。笑顔を浮かべた方が、他人を意のままに動かしやすい。そんなひねくれた僕に、初対面のレヴィーが尋ねた。


「お前、どうして面白くもないのに笑うんだ?」

「えっ?」


 今考えればひどい言い草だけど、一瞬で見破られたことが怖かった。家族でさえ、作り笑顔だとは気づかないのに……。


 案の定、彼は公爵であるうちの父に言葉遣いを注意されていた。ぶすっとむくれる彼を見て、僕は今度こそ本物の笑みを浮かべる。


 ――ずいぶん変わったやつだけど、嫌いじゃないな。


 それ以来、同い年の彼に近づきたくて、僕なりに努力した。しかし彼の方が何倍も、陰で努力をしていたようだ。結局レヴィーには、いまだ勝てる気がしない。




 そんな彼が気にかけているのが、アリアだ。

 転入初日に、僕とレヴィーは桃色の髪の少女に出会う。その子はアリアと名乗り、学園を案内してくれた。レヴィーの視線は時々、彼女に向けられる。彼女もまた、彼をチラチラ(うかが)っているようだ。


 しかし、今日のアリアはレヴィーではなく、僕に近づきたがっている。だからわざと気づかないフリをして、他の生徒と語り合う。


 ――彼女はどういうつもりだ? レヴィーと()めるのは、嫌なんだけど。


 常識的に考えれば、恋や愛にうつつを抜かしている場合ではない。とはいえ、特定の女生徒だけを冷たくするのも考えものだ。話しかけられたら、適当にあしらおう。


 顔を上げると、いつの間にかアリアの姿は消えていた。ホッとしながら女の子達に別れを告げ、僕とレヴィーは寮に向かう。




 男子寮裏手の草むらに、珍しい桃色の髪が見え隠れする。側には木立があり、奥に行くと森になるそうだ。こんな場所で、彼女はいったい何をしているのだろう?

 

「あれ。君、同じクラスのアリアちゃんだっけ? こんなところでどうしたの?」


 もちろん名前は知っているが、わざと尋ねた。

 拳を握ったアリアは、嬉しそうに何度も頷く。そうかと思えば急に眉根を寄せ、悲しげな表情を見せた。


「ディオニス様とレヴィー様。こんなところでお会いするなんて……。実は、気に入っていたリボンを風に吹き飛ばされて、失くしてしまったの」

 

 男子寮の裏に?

 あまりに不自然だし、何かがおかしい。彼女は、我々を探ろうとしているのか?


「そう、それは災難だったね。じゃあ今度、君に似合うリボンを僕にプレゼントさせて」


 無難にそう答えた。

 この国の人間とは――特に彼女とは、深く関わらない方がいい。


「……へ? いえ、あの……」


 戸惑う様子のアリアを見て、レヴィーが僕に反論する。


「気に入っている、と言っていただろう? 代わりのものでは嫌なはずだ」


 はいはい、わかったよ。

 じゃあ二人で、リボンを探せばいい。

 一瞬、部屋に戻ろうかとも考えたが、二人の様子を見ている方が面白そうだ。


「アリア、何ボーッとしている? リボンを探すんだろ」

「……え? ええ」

「どの辺で吹き飛ばされた? あまり遠くに行ってないといいな」

「そ、そうね」


 いつになく饒舌(じょうぜつ)な僕の従者が、彼女をリードする。積極的に木立の中を歩き回り、背伸びしたり屈んだりして、真剣に探してあげていた。僕はレヴィーとアリアを、冷静に観察する。


「日が暮れる前に見つけ出さないと、わからなくなるぞ」

「……ええ」

「ふふ。レヴィー、そんな口調では女の子に嫌われちゃうよ?」

「余計なお世話だ」


 退屈なのでたまに茶々を入れるが、即座に切り捨てられた。さっきから素に戻っているレヴィーだが、本人は無自覚か? こんな機会は滅多にないから、ついでにアリアの反応も見てみよう。


「ねえ、アリアちゃん。どの角度から見ても、君は可愛いね。良ければ今度、僕とデートしない?」

「いえ、結構です」


 彼女にもバッサリ切り捨てられた。

 二人は案外、似たもの同士なのかもしれない。


 彼女が風で飛ばされたというリボンはなかなか見つからず、レヴィーにしては珍しく、焦りの色を浮かべていた。暗くなりかけた時、アリアが突然、反対の方角へ駆けていく。


「あったわ! こんな場所だなんて、全然気づかなかったー」


 彼女は木のうろに手を突っ込んで、水色のリボンを取り出した。


 ――あのね、いくらなんでも今のは変だよ?


 あっさり見つけた彼女に、レヴィーも不信感を抱いたらしい。背を向け口を引き結び、さっさと寮に帰っていく。


「あの……ありがとう!」


 レヴィーの背中越しに礼を言うアリアだが、彼はもちろん振り返らない。僕も急ぎ彼の後を追う。


 どういうつもりか知らないけれど――

 アリアちゃん、君の策は失敗したようだね。

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