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ヒロインだけど敵が好き♪  作者: きゃる
第一章 推しがクラスにやってきた
12/15

公爵家 ディオニス

 残る(推し)はあと二人。

 同じクラスのディオニスと従者のレヴィーだ。ストーリー順だと、ヒロインのアリアはクロムの後、ディオニスに接近する。


 人当たりが良く、優しいディオニス。

 彼は普段、従者とともに行動するため、なかなか個別に近づけない。


 ディオニスは女生徒だけでなく、女性の先生方にも人気だ。横に立つレヴィーが迷惑そうな顔をしているのは、彼女達に押しのけられるからかもしれない。


 私に言わせれば、レヴィーの方がカッコいいのに……


「ディオニス様。制服がやっとできたのですね。すごくお似合いです」

「ありがとう。学園の一員になれて光栄だな」

「緑色って平凡だけど、ディオニス様が(まと)うと、輝いて見えます」

「それは褒めすぎだよ。僕には君の方が、輝いて見える」

「きゃあ」


 今は休み時間。

 椅子に座るディオニスの姿は、人垣に埋もれてほとんど見えない。楽しそうな笑い声が聞こえても、私は彼に話しかけるタイミングを(つか)めずにいた。

 それはアニメも同様で、おとなしいアリアは、会話の輪にいつも入れない。


 だけど私は、ディオニスに会える方法を知っている。

 それはそう、待ち伏せだ。


 ――ある日の放課後。男子寮近くの木立(こだち)にいたアリアは、偶然通りがかったディオニスに呼びとめられて、困ったような顔を見せる。事情を聞く彼に、悲しそうにこう言う。


「気に入っていたリボンを風に吹き飛ばされて、失くしてしまったの」


 優しいディオニスは、アリアに「一緒に探そう」と申し出る。冷たいレヴィーは一人だけ、さっさと寮に帰ってしまう。木立の中を懸命に探す二人。

 とうとう見つけたディオニスが、水色のリボンをアリアに差し出し微笑んだ。感激し、(うる)んだ目でお礼を言うアリアに、ディオニスが息を呑む――。


 放映後は「ディオニス様のお手を(わずら)わせるなんて!」とか、「一人で探せばいいのに」とSNSで非難囂々(ごうごう)。ディオニスファンの怒りを買い、「あざとい」だとか「ぶりっこ」の称号を欲しいままにしていた。


 この世界ではありがたいことに、SNSが発達していない……というより、スマホやパソコン自体が存在しない。なので、待ち伏せしようが可愛こぶろうが、女子に見られなければOKだ。


 私の桃色の髪はふわふわだけどうっとうしく、たまに両サイドをリボンで結んでいる。今日もアニメのヒロインと同じく、水色のリボンだ。張り切ってリボンを飛ばそう!




 放課後になり、まだ教室にいるディオニスを確認した私は、目的の場所に急ぐ。

 男子寮自体は白い石造りの二階建てで、女子寮よりも奥にある。裏手は木立となっており、学園をぐるっと囲む森に続く。


「さて、それでは風の魔法でリボンを飛ばしましょう……って、待てよ? アニメヒロインも、風の魔法を使えたわよね? まさか、自分でリボンを吹き飛ばしたんじゃあ……」


 それだと、今の私とおんなじだ。

 あのおとなしそうなヒロインが、わざと? 

 ま、細かいことは気にしなくていいか。


 片方のリボンをはずした私は、風を頭にイメージし、軽く念じた。魔法を使って、木立の中にある木のうろ目がけて飛ばすのだ。


「やった! うまくいったわ。これで大丈夫。あとは、全く違うところを探せば完璧よ」


 とりあえず腕まくりして、男子寮裏手の木の周りをうろうろする。


「あ、誰か来たみたい」


 金色の髪が見えるから、あれはディオニスだろうか? 並んで歩く銀色の髪は、従者のレヴィーのようだ。


「くうう、相変わらず素敵! ……って、見惚(みと)れている場合じゃなかったわ」


 二人に気づかないフリをして、私は(かが)み、草むらを探す。


「あれ。君、同じクラスのアリアちゃんだっけ? こんなところでどうしたの?」


 聞き覚えのある声に、思わずガッツポーズ。嬉しくなって何度も頷く。


 ――良かった。ディオニスは、私の名前をちゃんと覚えてくれたのね? 


 感動に浸っている場合じゃない。悲しそうな顔、で良かったかしら?


「ディオニス様とレヴィー様。こんなところでお会いするなんて……(知ってたけど)。実は、気に入っていたリボンを風に吹き飛ばされて、失くしてしまったの」


 よし、言えた。

 悲しそうな顔も上手にできたと思う。


 あとは、ディオニスが「一緒に探そう」と口にして、レヴィーがムスッとしながら寮に戻れば筋書き通り。


 ところが――


「そう、それは災難だったね。じゃあ今度、君に似合うリボンを僕にプレゼントさせて」

「……へ? いえ、あの……」


 おかしいわ、ディオニスのセリフが違う。


「気に入っている、と言っていただろう? 代わりのものでは嫌なはずだ」


 レヴィーの真っ当な意見に、私は首をぶんぶん縦に振る。けれどディオニスは、軽く首をかしげた。


「ふうん、そう。じゃ、頑張ってね」


 予想外の答えに、私は固まる。

 すぐに動いたのが、従者のレヴィー。


「アリア、何ボーッとしている? リボンを探すんだろ」

「……え? ええ」


 動揺していたため、最推しに名前を呼ばれても、ドキドキしない。


「どの辺で吹き飛ばされた? あまり遠くに行ってないといいな」

「そ、そうね」


 なんとディオニスに代わって、レヴィーが探そうとしている!


 だけどこの後、彼の出番はないはずだ。それなのにレヴィーは、長い足で歩き回ると、枝に手をかけ葉っぱの間を探したり、地面に膝をつき根っこの部分を(のぞ)き込んだりする。


「あの、ええっと……」


 ありがたいけど、今回に限っては遠慮したい。てっきりレヴィーは、まっすぐ寮に帰ると思っていたのに。


「日が暮れる前に見つけ出さないと、わからなくなるぞ」

「……ええ」

「ふふ。レヴィー、そんな口調では女の子に嫌われちゃうよ?」

「余計なお世話だ」


 ディオニスが(あご)に片手を当ててクスクス笑う。レヴィーをからかうばかりか、合間に私を口説こうともする。


「ねえ、アリアちゃん。どの角度から見ても、君は可愛いね。良ければ今度、僕とデートしない?」

「いえ、結構です」


 きっぱり断ってしまった。

 こんなセリフは、どこにもないから。

 どうしてこう、上手くいかないの?


 それにレヴィー。

 探しているの、全然違う場所だから!

 せっかくだけど、この辺にリボンはない。


 

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