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ヒロインだけど敵が好き♪  作者: きゃる
第一章 推しがクラスにやってきた
10/15

男爵家 クロム

 もう一度ジェラールにトライ?

 いえいえ。ここはアニメの世界で、似ていても乙女ゲームではないのだ。時間は永遠ではなくどんどん進み、残りの話数にも限りがある。

 だったら次は、ジェラールと同じく三年生のクロムと仲良くなって、仲間に推薦してもらおう!


「知的なクロムは図書館にいるはずよね」


 クロムは富豪の三男で、一代限りの男爵家。彼はグランローザの政治や歴史に興味を示し、書架では飽き足らず、厳重に保管されている本を借りようとする。けれど学園の規則により、止められてしまう。


 貴重な書物を借りる場合、ここでは保証人を立てなければならない。保証人は我が国に籍があり、万一の場合、弁償できる能力がある者。言い換えれば、ある程度の身分と財力を有する生徒……つまり私だ。


 アニメの筋では、他国人のクロムが困った様子で立ち尽くす。そこに名乗り出たのがアリアで、彼のために赤い革表紙の分厚い本を借りてあげる。戸惑う彼に「ちょうど私も読みたかったの」と、笑顔で口にするのだ。その後は仲良く並んで読書――


「サインして、本を借りればいいだけだもの。簡単だわ」


 顔を寄せ、同じ本を(のぞ)き込む二人。

 クロムはアリアの知識に舌を巻き、次第に惹かれていく。


「政治の本なんて見たことないけど、自国の言葉で書かれているから、なんとかなるでしょ」


 ヒロインは、敵の心を掴むのが上手かった。

 中盤までストーリー通りの行動をすれば、彼らの方から近づいてくるだろう。


「完っ璧な計画ね! さて、クロムに会いに行きましょう」


 二年の私が三年生の教室に乗り込んで、変に目立つわけにはいかない。なので直接、図書館に向かうことにした。


 


 学園の図書館は、二階建てのレンガ造り。

 校舎とは別で、講堂の隣にある。

 窓は小さく、その分光の魔法石が昼夜安定した光を供給していた。一階には受付と閲覧スペース、授業で使う本の他、多くの本が揃えられている。二階には倉庫と職員専用控え室、貴重な本のコレクションがあるという。


 用事があるのは一階だけ。

 まずは中に入り、クロムを探そう!


 受付付近をうろうろするが、彼の姿は見当たらない。もう少し待ってみようかな。


「赤い髪で琥珀(こはく)色の瞳に眼鏡。イケメンだから、すぐにわかるわよね。それとも、今日じゃないのかしら?」


 ジェラールの場合、タイミングが良すぎた――いえ、結果的には良くなかった。私よりヒーローと親しくなった彼は、時々うちの教室までオルトを迎えに来る。放課後連れだって教室を出るのは、子猫に会いに行くため?

 

 私だって猫を触りたかったのに。

 ヒロインだけどジェラールには全く相手にされず、オルトも最近よそよそしい。


 こんなはずではなかった。

 だからといって、くよくよしている場合じゃない。

 クロムとの距離を縮めて、仲間になろう!


「念のため、奥も見てみましょう」


 いくら待っても受付には現れなかったので、閲覧スペースに移動する。木でできた長い机と椅子が並ぶ他、奥にはカフェにあるようなテーブルとソファが置かれていた。雰囲気があって快適なため、カップルに人気という噂だ。


 ――私は今まで使ったことがないけど、それが何か?


「あら、アリアじゃない。こんなところに来るなんて、珍しいわね」


 ふいに声をかけられ、振り向く。

 その途端、私は驚きに目を(みは)る。


「会長! 隣は……な、なな、なんで?」


 生徒会長のリヴィアーナと一緒にいるのは、探していた推しのクロムだ! 二人はカップルが好むソファに、並んで腰かけていた。


「……どうも」


 クロムに軽く頭を下げられるが、挨拶を返すどころではない。


「お二人が……どうして?」


 呆然としながら口にすると、リヴィアーナが肩をすくめた。


「どうしてって? 三年生は今日、講義が早く終わったの。それに借りたい本があるとかで、困っていらしたから。同じクラスですもの、協力するのは当然でしょう?」


 紺色の長い髪に青い瞳の美人生徒会長が、アリアのいるべき席にいる。彼らが読んでいたのは、まさにアニメで見た、赤い革表紙の本だ!


「彼女の解説は見事でした。あなたも政治に興味があるのですね?」


 クロムが眼鏡を外して質問する。

 やはり整った、綺麗な顔!

 でも、興味があるのは政治ではなく、(推し)のみんなだ。


「いえ、あの……」


 どう答えようかと迷っていたところ、生徒会長のリヴィアーナが弾んだ声を出す。


「もしかして、わたくしを探しに来てくれたの? アリア、可愛い子ね。いいわ、こっちにいらっしゃい」


 彼女が身体をずらして席を空けたため、私は思わず後ずさる。

 リヴィアーナは三年生で、副会長のオルトと書記の私は二年生。会長は、生徒会の仕事中も私をあちこち撫で回す癖がある。髪や肩ならまだしも、頬や首、胸やお尻もまんべんなく。


『女同士ですもの、いいでしょう?』


 いつもそう言って不思議そうな顔をするけれど、私は彼女が苦手だ。


『男性よりも女性にご興味が……?』


 以前、思い切って聞いてみたところ、微妙な感じで笑われた。

 クロムと二人きりにはなれないようだし、身の危険も感じるため、ここは一旦逃げて体勢を立て直そう。


「遠慮しておきます。ええーっと、探している本があるので、また今度!」


 私は慌ててその場を後にした。


 ただでさえ会長のリヴィアーナは美人で博識。しかも学園長の姪だ。生徒からの信頼も厚く、強力な水の魔法を得意としている。彼女がクロムの保証人となって知識を披露したなら、私の出る幕ではない。


「本を借りるのは、ヒロインの役目よね? どうして上手くいかないの?」


 アニメの通りに振る舞うはずが、それすらできない。

 だけど、こんなことでめげる私ではない。

 推しを応援するため、次の策を考えよう!

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