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「早くしろ!」と十蔵。
「はい!」
虹丸はすでに居る分身を集め、さらに新しい自分を造りだし始めた。
嬉々として大地を斬りつける静香は、妙な気配に気づいた。
(敵が居る)
暁城を斬る前に通った林に、緑の石の存在を感じる。
しかも複数、かなりの数だ。
逃げた忍びか?
どうやら、帰って来たようだ。
(邪魔をするつもりか?)
胸騒ぎがした。
何かが、おかしい。
全身の肌が、ぴりぴりとする。
危機が迫っている。
静香の両眼が、がっと見開き、強烈な緑色の光を放った。
林から地を這って、静香に向かって来る緑の霧のようなものが。
否、それはあまりに小さく、はっきりとは分からないが。
(敵だ!)
この霧を近づけてはならない。
静香の剣士の本能が、そう叫んでいる。
(誰にも邪魔はさせぬ!!)
静香は緑の霧に向かって、無数の斬撃を放った。
義盛の力を加えたことで、何度、斬っても疲れを知らない。
緑の霧を攻撃しつつ、地面の裂け目への斬撃を繰り出すことも出来るのだ。
もはや、静香は何も恐れるものなどない境地に到達しようとしていた。
「駄目です!」
虹丸が情けない声をあげた。
「分身が…近づけません!」
虹丸の身体が、がたがたと震えだした。
静香に激しい恐怖を感じていた。
(こんな化け物に勝てるわけがない)