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今回は違う。
虹丸の死体が消えただけだ。
「虹丸…」
十蔵が呟く。
「これが、お前の石の力か?」
十蔵は両眼を閉じた。
石の気配を探すためだ。
居た。
遠くない場所に無数の石の気配が感知できた。
十蔵は最も近い、その気配に向けて走りだす。
「虹丸…逃げられると思うなよ」
声を出す余裕すらなく、虹丸は喉笛を斬り裂かれた。
十蔵は虹丸の死体を観察した。
同じだ。
先ほどの虹丸と、全く同じように死体は砂状に崩れた。
「お前は何人、居る?」
十蔵が言った。
次の石の気配を追った。
虹丸を三人、殺したところで十蔵は気づいた。
虹丸を殺す度、他の虹丸たちが十蔵から離れていくことに。
確実に十蔵とは逆の方向に逃げていく。
(こちらの石の気配も読まれている? それとも…)
十蔵は考える。
五人目の虹丸に追いついた十蔵は、今までとは手を変えた。
虹丸をすぐには殺さず、四肢の自由を奪う傷を与えた。
「虹丸」
自分では動けない虹丸の首根っこを掴み、呼びかけた。
「お前が何人、居るのか知らないが、お前たちは互いに見ている物が分かるようだな。だから、俺から的確に逃げられる。違うか?」
十蔵は虹丸を引き摺り、歩き始めた。
「石の気配だけなら、こうはいかない。お前たちの反応は早すぎる」