7
「こんなことがしたくて、里を抜けたのかい?」
「………」
「最後に良い思いをさせてやろうと、終わるまで待ってやったんだ。これで思い残すことも無いだろう」
「あの女は関係ない。俺が忍びだと知らない」
虹丸の言葉に時雨は首を横に振った。
「あたしのやり方は知ってるだろ。お前を殺した後にあたしが小屋に入ったら、あの不細工な女、どんな顔をするだろうね? 散々、苦しめて殺してやるよ。楽しみだね」
時雨の瞳が興奮で、てらてらと輝く。
舌舐めずりした。
「外道め」
虹丸が吐き捨てた。
「何とでも言えばいい。お前はこれから、どうせ死ぬんだからね」
「………」
虹丸が青ざめる。
「丸腰で出てくるなんて、もう諦めてるのじゃないか?」
「………」
「さあ、死にな」
時雨の身体が屋根から跳んだ。
今まで見えなかった首から下は黒色の忍び装束姿だった。
体格は小柄で虹丸と、さして変わらない。
右手に持った小刀が月の光を反射して、きらりと輝いた。
放物線を描いて跳んでくる時雨を見て、虹丸も動いた。
時雨を注視したまま、後方へ跳んだ。
時雨は虹丸の居た場所に音もなく着地し、さらに跳ねた。
虹丸が一度跳ぶ間に時雨は二度跳んだことになる。
時雨と虹丸の身体が交錯した。
お互いに背中を向けた形になる。