67
巨体が線にそって、ずれ落ちる。
真っ二つになった男は砂ぼこりをあげて倒れた。
そして。
男の死体が優しい緑色の光を発し始めた。
光は空中へと浮き上がり、死骸を離れた。
静香へと漂ってくる。
「?」
光が静香の身体に触れた。
肌にまとわりつき、体内へと浸透してきた。
静香は自らの身体が活力で満たされていくのを感じた。
今まで味わったことの無い感覚だ。
(これが十蔵の言っていた…力を奪うということか)
静香は興奮を隠せなかった。
(これを繰り返せば日本を斬れる)
そう考えると自然と笑みがこぼれた。
「あは」
静香が笑った。
「あははは」
次第に笑い声は大きくなり、ついに大声となった。
「あはははははっ!!」
十何年ぶりかの笑いを静香は身体を反り返らせ、堪能した。
「あはははははっ!!」
「久しぶりだな」
川辺の大きな石に片膝立てて座り、十蔵が言った。
十蔵は川の方を向いている。
夕暮れどきだ。
十蔵の背後の林から、ゆらりと人影がひとつ現れた。
小柄な男だ。
十蔵は背後のその男に声をかけたのだった。
小柄な男が進み出て、近づいてきても十蔵は振り返らなかった。
そのままで会話を続けた。
「虹丸」
「十蔵さん」と小柄な男、すなわち虹丸が言った。
「お前が里を抜けたのは意外だった」
十蔵が言った。




