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虹丸  作者: もんじろう
66/105

66

(やはり…死ぬのか?)


 静香の胸中に、むくむくと頭をもたげてくるもの。


(日本を斬りたい)


 欲望だ。


 まだ、達成されていない欲望。


(死にたくない!)


 静香の心中で「生」へ執着が爆発した。


 右手が勝手に動き、降ってくる拳に向かって折れた刀を振った。


 静香の両眼は今までより強烈な緑色の光を発した。


 折れた刀から、きらめきが走った。


 きらめきは折れて無くなったはずの刃先の代わりとなって、岩の拳に斬りつけた。


 斬撃は岩男の拳を苦もなく両断した。


 切断された指が静香の周りに、ばらばらと落ちた。


 ここで、ゆっくりと流れていた静香の感覚が元へと戻った。


「あで?」


 岩男が言った。


 自らの手の切断面を眺め、首を傾げている。


「おでは斬れないはずなのに?」


 静香の顔に興奮で血の気が戻ってきた。


(斬った)


 そう、確かに。


(私が斬った)


 静香の意思が敵を斬ったのだ。


 静香は笑顔になった。


 全身の細胞から湧き上がる歓喜の笑みだった。


 静香は岩男の前に立った。


 脚の震えは消えていた。


「あで? 何でだ?」


 岩男は、まだ考えている。


 静香が男を見つめた。


 瞳の緑の炎が、さらに燃え上がる。


 突然、空気が揺らいだ。


 岩男の頭頂部から股の部分まで、真っ直ぐに線が走った。


「あで?」


 岩男が言った。


「おで、斬られてる?」

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