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(やはり…死ぬのか?)
静香の胸中に、むくむくと頭をもたげてくるもの。
(日本を斬りたい)
欲望だ。
まだ、達成されていない欲望。
(死にたくない!)
静香の心中で「生」へ執着が爆発した。
右手が勝手に動き、降ってくる拳に向かって折れた刀を振った。
静香の両眼は今までより強烈な緑色の光を発した。
折れた刀から、きらめきが走った。
きらめきは折れて無くなったはずの刃先の代わりとなって、岩の拳に斬りつけた。
斬撃は岩男の拳を苦もなく両断した。
切断された指が静香の周りに、ばらばらと落ちた。
ここで、ゆっくりと流れていた静香の感覚が元へと戻った。
「あで?」
岩男が言った。
自らの手の切断面を眺め、首を傾げている。
「おでは斬れないはずなのに?」
静香の顔に興奮で血の気が戻ってきた。
(斬った)
そう、確かに。
(私が斬った)
静香の意思が敵を斬ったのだ。
静香は笑顔になった。
全身の細胞から湧き上がる歓喜の笑みだった。
静香は岩男の前に立った。
脚の震えは消えていた。
「あで? 何でだ?」
岩男は、まだ考えている。
静香が男を見つめた。
瞳の緑の炎が、さらに燃え上がる。
突然、空気が揺らいだ。
岩男の頭頂部から股の部分まで、真っ直ぐに線が走った。
「あで?」
岩男が言った。
「おで、斬られてる?」