6
男が身体を起こした。
「何?」
女が訊く。
「小便」
そう言って、男は一糸まとわぬ姿で小屋の外へと出ていった。
男が小屋の戸を閉める。
頭上を見上げた。
男の視線の先には小屋の屋根がある。
そこから、人間の頭がひとつ、ぴょこんと覗いていた。
月明かりに照らされた顔は、はっきりと認識できた。
若い女の顔だ。
美しく整っている。
長い髪を後ろで、ひと括りに束ねていた。
にやにやと笑っている。
「虹丸、見つけた」
女が言った。
虹丸と呼ばれた男は裸のまま、仁王立ちしている。
無表情だ。
否、唇が微かに震えている。
「時雨」
虹丸が女の名を呼んだ。
「お前、独りか?」
虹丸が続けて訊いた。
小さな声だ。
小屋の中の女に気づかれないための配慮か?
「ああ、独りだよ」
時雨が答えた。
「お前程度の抜け忍を始末するのに人数は要らない。あたし独りで充分さ」
「………」
「里は今、大変なんだよ。お前も知ってる十蔵が裏切りやがってさ」
「十蔵さんが?」
虹丸の片眉が、ぴくりと上がった。
「お前が里から逃げてすぐに、十蔵も行方をくらませやがった。里は大騒ぎさ。姉様たちは十蔵捜しに駆け回ってるよ」
「………」
「それで、お前を捜す役はあたしにってことさ。とんだ、とばっちり」
「………」
「ぐずなお前にしては、半年も逃げるなんて上出来だったね。何をしてるのかと思えば、こんな所であんな女を抱いてるとは笑える」
時雨は心底おかしそうに笑った。
その眼が虹丸を蔑んでいる。