57
「お前も気づいていただろう?」
その通りだった。
静香は男に気づいていた。
気配とはまた違う、別の感覚だ。
何故か男がこちらへ近づいていることは分かっていた。
不思議な感覚だった。
「石を持つ者同士は、お互いに分かる」
男の声は何というか。
無感情で虚ろだった。
両眼は、いやに淀んでいる。
「どこまで知っている?」
男が訊いた。
静香は答えない。
座ったまま、長刀の柄に右手を置いている。
「石を持っている奴を殺すと石の力を増せるのは知っているか?」
「石の力?」
「そうだ。お前は自分の力を知らないのか?」
「………」
静香は黙った。
このところの己の剣技の尋常ではない冴えは。
(緑の石の力ということか?)
男が一歩、前に出た。
静香はじっと、その動きを見据えている。
長刀の間合いに入ってくれば、一刀の元に斬り捨てるだろう。
「俺を斬れば、お前の力が強くなる」
男はさらに歩を進めた。
無防備だ。
まるで静香に斬ってくれと言わんばかりだ。
男が静香の長刀の間合いに、あと一歩まで迫ったとき。
嫌な予感がした。
このまま、この男を斬るのは危険だと静香の全身が声をあげている。
「どうした?」
男が言った。
「斬らないのか?」
男は足を止めない。
静香は、この場を退くことに決めた。