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それも束の間。
熱さで目覚めた虹丸は。
十人になっていた。
他の九人の虹丸は元々の虹丸が炎に包まれ、焼け死んでいくのを見た。
不思議な感覚だった。
意識や知覚は共有しているのだ。
しかし、苦痛は分散していた。
焼け死んだ虹丸の痛みは耐え難い、まさに死の痛みだったが、他の九人は自らの意志でその感覚を鈍らせられる。
「痛みを絞る」とでも言うのか。
逆に知覚を深く共有し、全く同じ人物のようになるのも可能だ。
九人の裸の虹丸は焼けた虹丸の苦痛は絞り、残った全員の知覚を繋げ、その精度を上げた。
虹丸たちは一瞬で新しい自分たちの感覚を把握し、行動を開始した。
生き残らねばならない。
虹丸たちは協力して、山火事からの脱出を図った。
途中、七人の虹丸が焼け死んだが、そこで虹丸は自ら念じれば再び虹丸を産み出せることに気づいた。
虹丸の身体から新たな虹丸が瞬時に分裂するのだ。
虹丸の人数が減る度に虹丸は新しい虹丸を造り、火勢の弱い場所を探した。
三十五人の虹丸が犠牲となったが、八人の虹丸が山火事を逃れ、生き残った。
虹丸たちは喜び、抱き合った。
夜が明け、周囲の木々が全て燃え尽き、火勢も収まりだした頃。
虹丸たちは、自分たちの身に起きた異常に手放しで喜べないでいた。
もはや、常人ではない。