40/105
40
かなりの重量があるであろう鎧を苦にする様子もなく、男爵は馬上の人となった。
鎧の下に逞しく筋肉質な肉体があるのは明白だ。
男爵は駒を進め、静香の前を通り過ぎた。
静香は見た。
通り過ぎる間、男爵の兜の隙間から刺すような視線が静香に向けられているのを。
男爵の発する殺気が静香の肌を焦がした。
馬は静香が来た方向の街道に進み、離れていく。
見守る人々が、もしや男爵はこのまま居なくなるのでは、と思うほどの距離を馬は進んだ。
「皆さん、彼女から離れてください! 巻き込まれますよ! 退がって、退がって!」
少年が大声で人だかりを移動させ始めた。
茫然自失となっていたひげ面の侍も観衆によって動かされ、静香の周りには誰も居なくなった。
男爵はというと、ようやく馬の脚を止め、こちらへと向きを変えた。
長槍と盾を構えているのが遠目からでも確認できる。
「○△□!!」
男爵が叫んだ。
「男爵様は準備は良いかと仰せです!」




