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「男爵様は」
少年が言った。
「自分は何もしないから、斬って来いと仰せです」
鎧の男、グスタフ男爵の言葉を通訳したようだ。
これにはひげ面の侍が気色ばんだ。
「何!? 何もせぬから斬りつけろと? こやつ、本当にそう言っておるのか!?」
侍の口から興奮のあまり唾が飛んだ。
少年が顔をしかめ、一歩退がる。
「はい。男爵様は確かにそう仰せです」
「馬鹿にしおって!!」
侍が腰の刀を抜いた。
「わしが兜割りの免許皆伝であると知らぬから、そんな呑気で居れるのだ!」
侍は男爵の前に立った。
「望み通りその頭、兜ごと断ち割ってくれる!」
侍が怒鳴った。
男爵は微動だにしない。
侍が大上段に刀を振り上げる。
一瞬の後。
「ちぇーーーいっ!!」
烈帛の気合いと共に、刀が男爵の頭に振り下ろされた。
甲高い金属音が響き渡った。
刀は兜に接触するや半分ほどのところで折れた。
折れた刃が飛んで、侍の頬をかすめる。
血が流れた。