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しかし、ほとんどはただの旅人たちである。
西洋鎧に身を固めた、まるで怪物の如く見える人物と一戦交える者など居るはずもない。
静香は考えていた。
(奴を斬れば、この気持ちは晴れるだろうか?)
静香が人混みを掻き分け、前へ出ようとしたとき。
「おう、強者ならここにおるぞ」
そう言って、前へ進み出た者が居た。
ひげ面の侍である。
鎧の人物に負けず劣らずな体躯をしていた。
その男をひと目、見た静香は。
(この男、できる)
そう、直感した。
剣術の道に入り、ある程度まで来ると戦わずして相手の力量が分かるようになる。
何気ない足運びや所作から静香は、ひげ面の侍がかなりの使い手であると見抜いた。
静香の足は止まり、成り行きを傍観し始めた。
「わしと手合わせ願おう」
ひげ面の侍が言った。
余裕の笑顔だ。
と。
「○△□!!」
突然、西洋鎧の人物が大声を発した。
中年の男の声だ。
意味は、まるで分からない。
聴衆は度肝を抜かれ、侍の笑顔も消えた。