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籠を投げた当人は、刀の雨を一本も浴びなかったらしい。
いつの間にか上着をはだけ、上半身を露にしている。
まるで岩のような筋肉だ。
「供養、供養」
虎然が言った。
その大きな両眼から緑色の光が溢れ出した。
我郎を筆頭に生き残った野盗たちは、あり得ざる光景を見た。
虎然の分厚い背中が、さらに膨らみ始めたのだ。
もこもこと筋肉がせり出すと、四つの大きなこぶが出現した。
次にこぶが伸び始め…。
否、こぶではない。
虎然の背後に位置する野盗たちは気づいた。
虎然の背中からせり出したのは、人間の拳だということに。
拳に続いて太い腕が現れる。
虎然は六本腕になった。
新しく生えた腕の拳が指を開いては握り、開いては握りを繰り返す。
感触を確かめているようだ。
「かかかかっ!!」
虎然が妙な笑い声をあげた。
満面の笑みである。
虎然の六本の腕が自らのそばに落ちている刀を拾った。
よくよく見れば虎然のばら蒔いた刀は、どれも屑のような代物だった。
錆びたり刃こぼれしていたり、まともな物はひとつとして無かった。
腕一本に、ひと振りの刀。
六本の刀を持つと虎然は動いた。
未だに茫然となっている野盗たちに、六本の刀を振り下ろしたのだ。
なまくら刀は斬れはしない。
しかし、虎然の異常な怪力のなせる技か、どの刀も折れ飛びながらも野盗たちの頭骨をひしゃげさせ、破壊した。
再び、野盗らの阿鼻叫喚が始まった。
虎然は折れた刀を投げ捨てると次の刀を拾いあげた。
拾っては野盗に斬りつけ、刀を折り殺害する。
これを恐ろしい速さで繰り返し始めた。
「かかかかっ!!」
虎然が笑う。




