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「ああ。虹丸さんが来る前に、えらく大きな法師様が来てなぁ。俺の話を真面目に聞いてくれた」
新吉の言葉に虹丸の眉が微かに動いた。
「その法師はどこに?」
「虹丸さんが来る前に、ここを出たよ。何でも探してる物があるとか言ってたな」
「………」
虹丸は考え込んだ。
しかし。
そもそも虹丸は数日前に時雨に殺されたはずだ。
では、この虹丸は何者なのか?
大怪我をしている様子もない。
虹丸は、しかめっ面で黙っていた。
牙次が女剣士(すなわち静香)に斬殺された後、野盗たちの頭におさまったのは我郎という男だった。
自身の強さによって手下をまとめていた牙次と違い、我郎は策を弄する。
牙次が生きていた頃から進めていた緻密な根回しが、我郎を頭目へと押し上げた。
野盗の中には、とかく機嫌の変わりやすい牙次が居なくなって良かったと言い出す者も少なくなかった。
我郎の支配は順調だった。
ある日の昼間、牙次の斬られた山道を一人の法師が通った。
あまりに野盗が暴れ過ぎたためか、このところめっきり人が通らなくなっていた道である。
我郎は、そろそろ違う場所へと縄張りを拡大しようかと思っていた。
(この坊主を最後の獲物にするか)
我郎は仲間たちに命令した。
何人かの手下は露骨に嫌な顔をした。
無頼のくせに妙なところで「坊主を殺すのは縁起が悪い」などと言う。
我郎からすれば、馬鹿馬鹿しいこだわりだ。
人、一人を殺すのに何の違いがあるだろう。
牙次ほど強引にするつもりはないが、手下に舐められてはこれからやりにくくなる。




