25
人目を避け、夜に移動した。
新吉の獣の眼は闇も見通すことが出来た。
昼間は洞穴や森の中で眠った。
山の獣たちは新吉を避けた。
一度だけ猟師に見つかり、矢を射られたが上手く逃げのびた。
自分が獲物扱いされることに妙な心持ちになった。
悲しいのを通り越し、可笑しさを感じた。
二十日ほど経った夜。
ある山奥の森の中で、新吉は優しく輝くあの光を見つけた。
緑色の光だ。
その位置は自分の目指していた方角そのものであった。
この光が新吉を呼び寄せたのか?
それならば夢に出てくる石も納得はいくが。
(石が人を呼ぶだって?)
身体だけではなく、とうとう頭も獣並みになったのか?
新吉は苦笑した。
そんなことは、あり得ない。
新吉は光へと近づいた。
同じ石だ。
やはり脈打っている。
前の石と同じように地面に食い込んでいた。
大きさも似ている。
新吉は石へと手を伸ばした。
この石を手にしたら、獣になった。
ならば、もう一度触れれば元に戻れるのでは?
確信は無い。
勘だ。
だが、今より悪い状況などない。
新吉は緑色に光る石を手に取った。
(戻れ! 元に戻ってくれ!)
心の中で叫んだ。
緑の光が強まった。
新吉は見た。
石が突然、ぐにゃぐにゃと溶けだして自分の手を包み込むのを。
緑の光は新吉の身体へと、どんどん入ってきた。