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右腕に、びっしりと獣の毛が生えていた。
腕自体も一回り太くなって、指の爪は獣のように鋭い。
左手も同じだ。
新吉は、しばらく呆気にとられた。
そういえば!右脚の怪我の痛みが消えている。
嫌な予感の中、右脚を見ればやはり獣の脚だ。
剛毛で良くは見えないが、怪我は完治しているようだった。
新吉は立ち上がり、自分の身体を確認した。
全身が獣と化して尻には尾まで生えていた。
(夢だ…夢だ…)
そう思ってみても、まったく夢から覚める気配は無い。
仕方なく、新吉は山を下りることにした。
新しい獣の身体は異常な筋力を有していた。
今までは通れなかった難所が軽々と踏破できた。
快調だった。
あっという間に山の中腹に達した新吉は、良く知っている湖に着いた。
ここまで来れば、里にある自分の家へ帰るのも容易い。
新吉は、やや安堵した。
喉が乾いた。
水を飲もうと湖面に顔を近づける。
澄んだ水面に映ったのは見慣れた顔ではなく、獣の顔だった。
狼の顔だ。
新吉は恐怖に絶叫した。
その叫び声は人ならぬ、獣の咆哮だった。
新吉はその場で一夜を明かした。
この姿では里に帰ることは出来なかった。
身体は元に戻らない。
悪夢は続く。
十日経っても状況は変わらなかった。
新吉は、ずっと山で過ごした。