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持っていた弓と矢は落ちる際にどこかに消えて、腰に下げていた小刀だけが残っていた。
新吉が脚の痛みを堪え、太い木の枝を小刀で切り、急こしらえの杖を造った頃にはすっかり日が傾き、夕闇が辺りを覆っていた。
状況は極めて悪かった。
転げ落ちた山道に戻ることは怪我をした脚では不可能だ。
谷底を移動し、山を降りる道に出なければならない。
新吉は焦っていた。
夜になれば、山に住む狼たちが現れることを知っていたからだ。
火を起こせば襲われはしないが、出来れば出遭いたくはない。
進んでは休み、進んでは休み、新吉は歩いた。
何とか野営できそうな場所に到達したが、すでに空には星が輝いている。
新吉は慌てて、火を起こす準備を始めた。
「あっ!?」
思わず声が出た。
持っていたはずの火打ち石が無いと気づいたからだ。
転落の衝撃で落としてしまったのか?
いくら探しても見つからない。
何も無い状況からでも火を起こす術はあるが、それには時間が必要だ。