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何故か父の悲惨な死に様が鮮明に思い出された。
止まらない頭痛と吐き気の中で、ひとつの感情がむくむくと頭をもたげてきた。
怒り。
猛烈な怒りだ。
おぼつかない足取りで静香は林へと走った。
途中、何度も転びそうになったが、何とか体勢を立て直して進んだ。
五平の家では二人の抱擁が続いている。
母の顔は一人の女の顔だった。
静香の母は五平のすぐ後ろに、ぼうっと人影らしきものが立っていることに、最初は気づかなかった。
だが次第にその人影が、はっきりと見え始めた。
実際に、そこに誰かが立っているのだ。
よく知る人物だった。
「!?」
驚愕で声も出ない母の眼をその人物は、まっすぐ見つめていた。
静香だった。
静香が母の眼をまともに見たのは父が死んだ日以来のことだ。
娘の両眼に、制御不能なほどの怒りの炎が燃え盛っているのを母はひと眼で悟った。
静香の母の様子に五平もやっと、後ろに立つ静香の気配に気づく。
慌てて静香の母から身を離そうとする。
瞬間。
静香が動いた。
静香の左手には、鞘に入った父の形見の長刀が握られている。