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父を殺害した賊は何故、家に押し入らなかったのか?
そもそも、こんな山中の貧しい村に賊が入るだろうか?
一滴の涙も流さず簡素な葬儀を済ませる母を見て、静香は言い表せない不安にとらわれた。
父が死んでも静香は剣術を辞めなかった。
母は激怒した。
「女に剣など要りません」
そう言う母の顔を静香は正面から見れなかった。
父が死んだ日から、母の眼を見れなくなっていた。
静香は父の形見となった長刀を家の近くの林に隠し、鍛練を継続した。
表向きは母の手伝いなどをして、村人にも気づかれぬように細心の注意を払った。
母が静香の修行に勘づいていたのかどうか。
二年が過ぎた。
深夜、ふと目覚めた静香は横に寝ているはずの母の姿が無いのに気づいた。
今日が初めてではない。
この、ひと月の間、七日おきに母は居なくなり、しばらくすると帰ってくるのだった。
その度に静香は眠っているふりをしていた。
胸騒ぎがした。
父が死んだ日に感じた不安に似ている。