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静香の父は侍だった。
静香が物心ついたときには戦で右腕を肘から、左足を膝から失い、浪人となっていた。
山中の小さな村に住む静香の一家の暮らしは実質、百姓のものと何ら変わりは無かった。
父には畑仕事は出来ず、たまに村の男たちに剣術を教える代わりに野菜などをもらい、日々の糧としていた。
静香の母は村の女たちに教わった機織りの技で造った品物などを近くの町に売りに出ることもあった。
とても楽とは言えぬ生活だが、村人たちの善意に支えられ三人は生きていた。
父は静香が四歳になると剣術を教え始めた。
自分が満足に戦えなくなった心残りか?
女である静香に異常な鍛練を強いた。
母は猛烈に反対したが、父は聴く耳を持たなかった。
父は独善的であり、母を不当に下に見るところがあった。
逆らえば母に手を上げる。
結果、静香の剣術修行は続けられた。
最初は泣いてばかりの静香も次第に才能を発揮し、めきめきと腕を上げていった。