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牙次は、ゆっくりと女剣士の前へと立ち塞がった。
「待ちやがれ」
牙次が凄んだ。
女を通して面子が潰れることへの恐れもあったが、女剣士に対して全く勝算が無く対峙したわけでもない。
自信があった。
女剣士は興味無さげに、氷のような冷たい視線を目前の大男に投げかけていたが、牙次が右手に持っている物に眼を止めた。
それは女剣士の腰くらいの太さがある、鉄の棒だった。
牙次が元鍛冶屋の仲間に造らせた物で、今まで気に入らなかった相手の頭をいくつも叩き潰してきたのだ。
女剣士の身体など苦もなく破壊するはず。
そう牙次は思っている。
女剣士が左足を一歩、退いた。
「お? 怖くなったか?」
牙次が笑った。
否、女剣士が一歩退いたのは逃げるためではなかった。
下半身は牙次に向けたまま上半身をひねり、後頭部を見せた。
これでは女剣士からは牙次の動きが確認できない。
女剣士の右手は左腰に差した長刀の柄を握っている。
「?」
牙次は首を傾げた。