11/105
11
前に出れば確実な死が待っているからだ。
野盗たちの様子を見て、剣士は構えていた長刀を鞘に納めた。
「どけ」
剣士の声に野盗たちは唖然とした。
長髪ではあったが、男装している剣士は男であると思い込んでいたからだ。
だが、剣士が発した声は紛れもなく女のものだった。
女に手も足も出ない。
野盗たちには屈辱的であったが、誰も動けない。
剣士の前方を塞いでいた男たちは左右に道を開けた。
剣士が歩き始める。
その切れ長の美しい双眸は真っ直ぐに前を向き、野盗たちのそばを通るときも見向きもしない。
「おい」
男たちの後ろから、野太い声がした。
女剣士の足が止まる。
声の主は男たちを掻き分けて、のっそりと姿を現した。
大男だ。
女剣士もすらりとした長身であったが、この男はそれよりも頭ひとつ高い。
肩幅は三倍はあろうかという体格だ。
この男、野盗の頭であった。
名を牙次という。