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次の瞬間、緑の球体は夜空へと舞い上がり、どんどん離れていった。
小さくなって、ついに見えなくなった。
虹丸はしばらく頭上を見ていたが、やがて十蔵の遺体を両手で抱くと、いずこかへと姿を消した。
川が流れている。
川沿いに粗末な小屋が建っていた。
大柄で体格の良い女が川から水を汲み、小屋の横に作った小さな畑へと運んでいた。
二個の水汲み桶を一度に楽々と持ち上げている。
畑まで来たところで、女が手桶を両方落とした。
水が全てこぼれ、地面を濡らす。
女の視線は、小屋に向かって歩いてくる小柄な男に釘づけになっていた。
「あんた」
そばまで来た男に女が言った。
顔が、ほころんでいる。
「戻ってきたのかい?」
以前、男は女の前から突然、姿を消したのだった。
「ああ」
男が答えた。
「俺は何もかも失った。帰る場所もない。兄弟のように思っていた人も死んだ」
男は、とつとつと話した。
女は黙って、男の言葉を聞いている。
「これからどうするか考えた。そうしたら…ここしか…思い浮かばなかった。俺は忍びの里の奴らに見つかれば、ずっとは居られないかもしれない」
「うん」
女が満面の笑顔になった。
「おら、澪っていうんだ」
女が言った。
男と情を通わしたときは、お互いを深く知ろうとすれば男が自分の元を去ってしまうのではないか。
そんな予感がして、言えなかった名だった。
「澪」
男が呼んだ。
澪が赤くなり、はにかんだ。
「あんたは?」
澪が訊いた。
男は女と親しくなりすぎることで女に危険が及ぶのではと考え、名を教えていなかった。
「俺は」
男が言った。
「俺は虹丸」
二人は、お互いに手を伸ばし。
繋いだ。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(T0T)
大感謝でございますm(__)m
次の「異戦国」シリーズは直接の繋がりはまだありませんが「星繋ぎ」となります(☆∀☆)
さて、どうなりますことか(*‘ω‘ *)