102/105
102
歪んだ形とはいえ唯一、心を通わせていた十蔵を失った悲しみにひたる間もなく、押し寄せる力の奔流に呑み込まれ虹丸は気を失った。
「虹丸」
自分を呼ぶ声で虹丸は目を覚ました。
不思議な声だった。
無感情で男とも女ともつかぬ、落ち着いた声。
「虹丸」
声が、もう一度呼んだ。
虹丸は起き上がり、周りを確かめた。
何も無い。
分身も居ない。
何も無い空間に、ただ緑色の輝きだけがあった。
虹丸が知る、緑の石の光だ。
「誰だ!?」
虹丸が訊いた。
「どこに居る!?」
さらに訊ねた。
「私は、あなたの周りに居ます。正確には私の身体の中にあなたが居るのです」
声が答えた。
虹丸には意味が分からなかった。
「お前は何だ!?」
虹丸が再び訊いた。
「私は遠い星から来ました。目的地へと向かう途中で予期しない事故が起こり、この星に墜落したのです」
「………」
虹丸は黙った。
やはり、何を言っているのか分からなかった。