10
声も出せずに時雨は死んだ。
時雨の死体の周りに五人の襲撃者が集まった。
「こいつを隠さないと」
一人が言った。
男の声だ。
全員がぼろ布を纏っているので、表情は窺い知れない。
「小屋へは誰が行く?」
違う男が言った。
五人はお互いに沈黙した後、一斉に手を挙げた。
「やめよう。意味がない」
一人が言った。
他の四人は黙って頷いた。
「俺が行くから、後は頼む」
そう言って、一人がぼろ布を脱いだ。
小柄な百姓姿の男が現れた。
男は続けて着物を脱ぎ、全裸になった。
そして四人から離れ、小屋へと歩を進める。
戸を開け、中へと入っていく。
「あんた、ずいぶん長い小便だったね」
女の笑い声が小屋の中から聞こえてきた。
長刀が閃く。
その度に鮮血が飛び散った。
三人目の仲間が何も出来ずに斬り倒されるのを見て、多勢の男たちもさすがに顔色を変えた。
白昼の山道で臆面もなく旅人を襲うこの男たちは、百人以上からなる野盗の一味だった。
山道は国境に位置し、双方の国を治める戦国大名は度重なる戦に勢力を弱め、お互いに掌握しきれずに居た。
そこにつけ込んだ野盗たちが昼夜を問わず暴れまわり、縄張りを拡大してきたのだ。
男たちにとっては日常の略奪のひとつのはずだった。
それが今、野盗たちに囲まれた美貌の剣士の様子は、どうだ。
涼しい顔で長刀を構え、襲ってくる野盗を無造作に三人、斬って見せた。
息は、まったく乱れていない。
包囲している野盗たちの誰一人として、剣士の太刀筋を確認できた者は居なかった。
こうなると圧倒的多勢でありながら、誰も前に踏み出せなくなる。