デスゲームを企画したんだが参加者全員自殺願望者という罠
完璧だ……完璧な企画だ!
私は笑いが止まらなかった。
「これはきっと、最高のデスゲームになる!」
この天才的な企画に誤字脱字は一切許されない。そんな過ちを犯してしまったら、世界的名画「モナリザ」のタイトルをタイプミスにより「モナリァ」と間違えてしまった美術館以上の失態だ。
私は書き上げた企画書をもう一度頭から読み直した。
そして、何度読んでも素晴らしい企画だと自画自賛した。
参加者は5人。
デスゲームとしては少々物足りない人数かも知れないが、視点の分散、視聴者の感情移入及び集中力を考慮すると、これがベストの人数だ。
まず始めに、参加者5人は体育館よりちょっと狭い密室で目を覚ます。そして参加者が状況を理解した辺りでデスゲーム開始をアナウンス。誰か一人を殺さないと最初の密室から出られないことを説明する。
エモノには数多の拷問器具を用意。それを博物館のごとく壁の台座に設置する。参加者たちはエモノを入手するために壁に向けて走る。しかし、人殺しに慣れていない参加者たちはためらい、こう着状態に陥るだろう。
そこで参加者たちは気付く。
壁が動いている!
徐々に部屋が狭くなり、エモノを手にした参加者たちは無理矢理接近させられる。
早く殺さなければ壁に潰され全員圧死。そして始まる醜い殺し合い、生への執着。
うーっぷぷぷぷぷ……最高のデスゲームだ!
***
「ストップ……ストーーーーップ!!」
私は運用班に命令し、動く壁を停止させ、壁を元の位置に戻した。
その後、私は床の隠し通路から第1デスゲーム場へと躍り出る。
「何で……何でキミたち殺しあわないの!」
私は5人の参加者達に向けて叫んだ。彼らは壁に圧殺されそうになっても、全く殺し合いを始めようとしなかった。それどころか……
「というか何なの? その小学生の組み体操みたいな微妙な結束力!」
まるで示し合わせたかのように、彼らは部屋の中央で一の文字を描くように1直線で床に寝そべっていた。動く壁を放置しておいたら皆仲良く同時にペッタンコ。細長血肉せんべいの出来上がり。彼らを直接スカウトした前任者の情報では、彼らは完全に初対面のはず。
私は床で寝そべり続けているサラリーマンっぽい男の肩を叩いた。
「ねえどうして? どうしてそんなに諦めが早いの? もっと生に執着しようよ!」
「だって死にたいんだもん!」
「エエエエエエ!?」
人の良さそうなリーマンが目に涙を溜めながら叫んだ。彼は『殺し合いは止めようよ』枠の予定だった。
「俺は今まで身を粉にして働いてて、何度も何度もリトライして、ようやく企画が通ったけど、それがあろうことか大失敗して、会社には見限られて、10年以上付き合い続けて彼女に『もう足の臭いに耐えられない』という理由で振られて、ショックでEDになって、貯金も底を尽きて、連帯保証人の友達がドロンして借金まみれで、親を頼ろうにも勘当中の身で、こんな落伍者生きる価値がないんだもん! もう死にたいんだもん!」
「その……ゴメン」
大変だ。なんて恐ろしい奴をデスゲームに紛れ込ませてしまったんだ。
道徳心にあふれた聖人とか、虫も殺せぬ臆病者とか、いわゆる『殺し合いは止めようよ』枠ならば逆にデスゲームを盛り上げるというもの。必死の訴えにも関わらず起きる殺人、もしくはデスゲームで狂気に染まり、人を殺しそうにない者が人殺しになるという皮肉が、視聴者にカタルシスを与える。
しかし……こいつは自殺願望者だ。楽しいデスゲーム運営において相性最悪。
例えるなら、汝は人狼なりや1日目で村人COし「今日は僕を吊って下さい」と宣言して、微妙にゲームをつまらなくする存在。
え? 例えが分かり辛い? マニアック? じゃあ皆やろうぜ人狼。胃が痛くなるけど。
私は涙を流し続けるリーマンを「生きていればきっと良いことあるよ」と励ましてから、別の参加者に声をかけた。
2人目の参加者は血みどろのホッケーマスクで顔を隠している、見るからにやばそうな奴。こいつは『殺し合い促進』枠の予定だった。
「キミはシャバで30人以上殺してきた殺人鬼だよね。どうして殺さないの! 絶好のチャンスだよ」
「ウチだって死にたいんです!」
「エエエエエエ!?」
ホッケーマスクは可愛い女声だった。そういえばジェイ●ン第1作目も正体は女だったっけ。
「あー……もしかして、今まで沢山殺してきて、今になって罪悪感がー的な?」
「いや別に。今まで殺してきたのは只の必要経費です」
「じゃあどうして!」
「殺したらデスゲームを勝ち進んじゃう。それは嫌!」
「エエエエエエ!?」
彼女の思考回路が、理解できない。殺人鬼を理解しちゃ駄目だけど。
「ウチは死にたい。でも、自分で命を断つのは恐い……だから、殺しまくって死刑になれば死ねるかなって」
「じゃあ5人目辺りで自首しようよ! それで死刑には十分だよ!」
「自首したら、精神鑑定やら責任能力やら何やらで無罪の危険性があるじゃないですか!」
そんな理由で30人も殺したとか……一体全体尊い命を何だと思っているんだ彼女は。
「でもデスゲームは転がってれば死ねるんですよね。最高ッ!」
最悪だあああ!!
デスゲームと相性悪すぎだろこの殺人鬼! よりにもよってこんなババ引くとか、彼らを選出した前任者くじ運悪くないすか?
私は嬉しそうに身をもだえる殺人鬼を放置し、3人目の参加者の下へ。
その女子高生は怯えてよし、逃げ回ってよし、覚醒して殺しまくってよしの『学生』枠の予定だった。だが彼女は胡坐をかきながらスマホでパシャパシャと自分自身を撮影しており、緊張感の欠片も無い。
「キミ……何をしているのかな?」
「えー、ウコッケイー」
一瞬意味が分からなかったが、『自撮り』と『地鶏』をかけているのだと理解した。でも私はスルーすることにした。
「えーっと……どうしてキミも殺さないのかな?」
「ヤダー。『自撮り』と『地鶏』をかけたの分かってないー。オジサン遅れてるぅー」
わざとらしい舌足らずなしゃべり方がイラって来るなこのJK。
「あたしぃー、スタスタやってんだけどー、ちょっとボなくてー、あんまし「いいね」集まんないんだよねー。だからリスカとかー、アムカとかー、ネクカとかー、色々うぷしたんだけどー、ありよりのなしって感じでー、ジワらねー?」
どうしよう。単純に言葉の意味が分からない。
「だからー、あたしのハイワロうぷったらー、スタ栄えすんじゃねー、みたいなー。エモくなーい?」
言葉の半分も理解できなかったが、自分の死体をネットに上げようとしていることは分かった。
「死んだらアップできなくないか?」
「あはっ! そうだったー。オジサン頭いいー」
ガチで気付いてなかったの? 最近の子ってわかんない。
「そもそも、ここは電波届かないよ」
「えー? 来てるよー」
女子高生がスマホの画面を私に向けた。アレッ? 確かにネットに繋がってる。これ状況的に超やばくね? 激ヤバじゃね? チョベリバじゃね?
私は自分のスマホで確認した。だが圏外だった。どういうことだ?
「オジサン機種なにー?」
「ソ●●●●ク」
「ヤバーイ。バリなくて残当ー。ちなド●モー。バリ3だよバリバリー」
結論。メンヘラJKは宇宙人で言葉が通じない。今後近づかないようにしよう。
次に私は4人目の参加者である白衣の男に声をかけようとした。しかし、すぐそこで大の字で倒れていたはずの彼はいつの間にか消えていた。といっても、ここは逃げ場のない密室。周囲を見回せば、彼の姿はすぐ見つかった。白衣の男は、用意した拷問器具を手にとりニンマリと悪そうな笑顔を浮かべている。
もしかして……ついに殺し合いを始めてくれるのか!
さすがは生きるためだから当然的思考の『冷徹頭脳』枠。もしかしたら彼は、この瞬間をずっと狙っていたのかもしれない。だが、彼のとった行動は予想とかけ離れたもので、膨らんだ風船から気体がどんどん抜けていく。
白衣の男は集めた拷問器具を絶妙なバランスで組み合わせ、巨大な人型の奇妙なオブジェを作り上げていた。さらに男は、三角木馬や頭蓋骨粉砕機といった拷問器具を垂直に立て、ドミノ倒しのように並べていく。
そしてギミックが完成したのか、白衣の男は満足そうに頷いてからファーストドミノもとい、三角木馬を蹴り倒した。頭蓋骨粉砕機、ギロチン、アイアンメイデンが、バタンバタンと驚くほど綺麗に連続して倒れていく。
即席拷問ドミノは円を描きつつ終着点の人型オブジェに到達。そして巨大な人型オブジェがゆっくりと白衣の男に向けて倒れる。
「カモン・ミキティ!」
「早まるな!」
私はとっさに、白衣の男を救おうと突き飛ばした。彼が心配で助けたのではない。このグダグダな雰囲気での第1犠牲者発生――しかも説明しがたい死因はゲームを盛り下げてしまう。そう思っての行動だ。
「ギャアアアアア!!」
男を助けたのはいいが、私は逃げ切れずオブジェの角が脳天にヒット! さっすが私が準備した拷問器具。普通に痛い。
「ふむ……やはりこの程度では致命傷にならぬか。ご協力感謝する」
協力した覚えはミジンコの欠片ほども無いんだが。というかこの一連の行動何? 何をしたかったんだこの男。
「そう……僕は自殺芸術家」
そして白衣の男による聞いてもいない演説が始まる。
「数多くの芸術家は表現に苦しみ喘ぎ、やがて精神を病み、逃げるために死を選ぶ。しかし僕はそんな芸術家の風上にも置けぬクズ共とは違う。僕は肯定的に否定する。尊き生を、自身の手で否定し、それを芸術に昇華する。桜は散りぎわが美しいように、万物は終焉を迎えるときに輝きを増す。故にきらめく生を否定する肯定的自殺は背徳的でありつつも甘美な浪漫に溢れ、人生の凱歌すら表現しうる。哲学的価値さえも孕んだ至高の芸術……それが自殺芸術だ」
どうしようこの人サイコパスを超えた何かだ。
「故に僕は貴殿に感謝する。クズ作品になりかけた僕を救ってくれたことに感謝する。自殺芸術は生涯に一度きりしか描くことができない。やはりもっと鮮烈で印象的でギャラクティックな――」
これ以上聞いていると脳みそを青虫に食われてしまいそうな気がして、私は耳を塞ぎ白衣の男から後ずさる。だが後ろに立っていた人物に、背中からドン! とぶつかってしまった。
「いてーなあ……」
「す、すみません」
私はぶつかった人物に頭を下げて謝罪した。あれ? 私って一応デスゲームプロデューサーのはずだよね。 何で参加者に頭下げてんだろ?
何だか馬鹿馬鹿しくなり、私は下げていた頭を上げた。ぶつかった人物は『陰気』枠を予定していた5人目の参加者である眼鏡の男。
……もしかしなくても、彼も自殺願望をお持ちなのだろうか?
確認するのが恐くて躊躇しているうちに、眼鏡の男の方から不機嫌そうに話しかけてきた。
「あのさあ……もっとちゃんとしてくんない?」
男は右手でクイッと眼鏡の位置を直しながらそう言った。
「こんなグッダグダなデスゲーム見たことも聞いたこともないんすけど? プロデューサー誰?」
「い、一応私です」
「あのさあ……ステージ1から仕掛けが適当過ぎ。迫る壁とか地味過ぎで盛り上がんねえよ。何を考えてこれを採用したの?」
「それは、緊張感を出す演出のためだ。部屋が徐々に小さくなると同時に参加者の距離も――」
「最初から狭い密室に閉じ込めとくのと大差ねえだろ」
グフゥ。
「しかもエモノの多くが設置型拷問器具とか……最初ただのオブジェだと思ったよ。そもそも三角木馬でどうやって殺せと。鈍器として使えってか?」
「い、いや、4人で協力して1人を拷問にかけて殺せばクリアー……みたいな?」
「んな結束、レベル高すぎてできるわけねーだろ」
ゲフゥ。
「それに『うーっぷぷぷぷぷ』って笑い声、超高校級の高校生が殺しあうゲームのパクリだろ。テメエにはオリジナルの矜持がねえのか。それともパロディって言い張るつもりか。だったらちゃんとした声優準備しろよ。素人中年の笑い声キメエんだよ。絶対キモボイスで視聴者の何割か削れてんぞ」
眼鏡の男の駄目出しマシンガンで私の心は蜂の巣状態。
「ようやくデスゲームに参加できて超ハッピーだったのに、それがまさかの超糞ゲー。俺糞ゲーマイスターちゃいますから。糞ゲープレイさせられるくらいなら死を選びますから。マジで。あーくだらね」
眼鏡の男の罵詈雑言に耐えつつ、男の言葉で大事なことを思い出した。
「もしもし放送班。視聴者数はどうかね?」
エキセントリックな参加者達に翻弄され、私は視聴者動向を確認するのを完全に失念していた。眼鏡の男には手厳しい駄目出しを喰らったが、デスゲームは視聴者数が全て。数さえ取れてれば問題ない。
<そ、それがですね……序盤から生身の黒幕が慌てふためくっていう物珍しい展開で視聴者も残っていたのですが……>
「まて! 視聴者が残っていた?」
視聴者数が伸びたではなく、残っていた。その表現の仕方に、途方も無い不安を覚える。
「視聴者数の推移を、包み隠さず教えてくれたまえ。私はどんな現実でも受け入れよう」
大丈夫。私はできる男だ。できる男は過ちを認め、次に活かすものなんだ。
<……まず『うーっぷぷぷぷぷ』のパクリと声優非起用により苦情が殺到し、視聴者の5割がログアウト>
ウオオオオオ゛!
<参加者5人のお昼寝タイム及び1時間以上かけて参加者を圧殺する迫る壁のギミックは、やはり冗長過ぎたのか3割がログアウト。カップ麵が出来上がるのを待つ時間よりも退屈とのコメントが>
グオオオオオ゛!
<序盤から主任がデスゲーム場に踊り出るという珍しい展開に、寝ていた視聴者も目を覚ましたのですが、自殺オフ会と化したデスゲームに興味を失い、残りの2割がほぼ全てログアウト>
ゴオオオオオ゛!
<正直に申し上げますと……歴代最低記録です>
胃が! 私の胃が! 出世の道が! フッカフカの手すり椅子に座る野望が!
いやでもしかし、極僅かでも視聴者が残っているというのなら、私は企画立案したこのデスゲームを完遂せねばならない。それがプロデューサーとしての誇りなのだ。
「欝だ死のう」
「早く死刑になりたーい」
「ギロチンでいいねゲトー」
「自殺芸術は爆発だ!」
「糞ゲー過ぎて死ねる」
問題は、自殺願望持ちのこいつらを、どうにかして殺る気にさせなければならない。そのためには、まずはこいつらに生きる希望を与えなければ。
私は5人の参加者に向き直り、命に満ち溢れた演説を始める。
「キミ達……生きるってことは素晴らしいことなんだ。両足で大地を踏みしめ、両手で緑豊かな自然に触れる。川のせせらぎと鳥の囀りのハーモニーの中、釣り立ての魚をその場で焼いて食う。最高だろう。ほら……耳を澄ませばバーベキューが美味しい音楽を刻んでいるのが聞こえてこないかい?」
川原でのBBQは至福のひと時だ。それを思い出せば誰だって生きたくなる。
何て素晴らしい演説。これはノーベル平和賞ものじゃないか?
「……それ説得のつもりだもん?」
「どうしよう。死刑とか関係なく殺したいわ」
「アハー。オジサンのダメ演説でいいねゲトー」
そ、そんなに酷く言わなくていいじゃないか。グスン。
「……ルール違反」
突如、眼鏡の男が呟いた。
「眼鏡ちゃん? 何か言った?」
「いえ、どうやったら手っ取り早く死ねるか考えていて、それでルールを思い出したんです」
「どんなルールだもん? 死にたかったから聞いて無かったんだもん」
「5人の参加者以外に手を出したら即死刑」
ギョロリと5人の視線が私に集まった。もしかしなくても私、大ピンチ?
「なるほどだもん。それなら確実に死ねそうだもん」
リーマンがネクタイを緩めた。
「ルールまでパクリとか……これはもう殺るしかねえな」
男の眼鏡がキラリと不気味に輝いた。
「撮影は任せてー。もち手伝いもするよー」
女子高生が目を爛々と輝かせながらスマホを構えている。
「ラストキルがデスゲームプロデューサー。最後の最期に社会に貢献して死ねるって最ッ高!」
ホッケーマスクが目を赤く光らせながらにじり寄ってくる。
命の危機を察し、私は来たときに入ってきた床の隠し通路に向かって駆け出した。
しかし、いつの間にか白衣の男の手でまたもや奇妙なオブジェが組上げられており、出入り口が塞がれている。
「見てくれプロデューサーさん。数多の拷問器具を同時に味わえる装置を作り上げた。被写体は股を裂かれ頭を割られ手足を潰され臓物を引きずりだされてからギロチンでフィニッシュ! 禍々しいだろう?」
「どけてくれええええ!!」
私は絶叫しながら禍々しいオブジェを全力で押した。だがビクともしない。
「つっかまーえた♪」
ホッケーマスクのとても嬉しそうな声と共に、私の両肩がガッチリと掴まれる。逃れようともがいたが、無駄な足掻きだった。私は赤子のように軽々と持ち上げられ、スペシャルな処刑マシーンに無理矢理座らされる。そして全身を拘束具で固定された。
痛い! この時点で股が痛い! さすが私が準備した三角木馬!
「セッティング完了! まさか実証実験にまで協力してくれるとは。貴殿は自殺芸術家の鏡だ!」
「そんなつもりは一ミリもありません! エマージェンシー! エマージェンシー! 運用班! 今すぐこいつらを殺せ!」
もう知ったことか! 殺し合いが起きずに参加者全滅なんてデスゲームの風上にも置けない展開だが、何よりも優先すべきは人の命だ! 命を粗末にしていけない。それが良く分かった。良く分かったから早くこいつらを殺れ! 運用班? どうした運用班!?
<あのー、主任。大変申し上げにくいのですが>
イヤホンから、部下の申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
<今の状況が話題を呼んでまして、視聴者数が破竹の勢いで増えていてですね。その……>
一呼吸の後、部下がハッキリと大きな声で宣言した。
<申し訳ありませんが、我が社の礎になって下さい!>
「イヤアアアアアアア゛!!」
私は絶叫した。見捨てられたこともそうだが、通信が切れる直前の「主任の席もーらいっ」との部下の声が尚更悔しかった。
「それでどうすれば処刑を開始できるだもん? 俺は早く死にたいんだもん」
「ウフフッ。ようやく愛しい息子の下へ行けるのね」
「処刑ではない! 自殺だ。自殺だから、本人にスイッチを押してもらう必要がある」
「ふざけるなテメエら! 自殺するなら勝手にやれ! 私を巻き込むなあ!」
「でもー、スイッチなんて何処にも無くなーい?」
「安心したまえ。プロデューサーは今しがたスイッチを押した」
……は?
「スイッチといっても、ボタン式ではないぞ。音声操作という奴だ。ただ一言。本人が『自殺する』と言えばいい」
ガコン! と、機械の駆動音。
「いやー、最近のスマホは音声認識が高精度だねえ。技術の発展素晴らしい」
ブオンブオンブオンと徐々にマシーンの振動が激しくなっていき、私の股間の痛さも苛烈を極める。
なお、私が準備した拷問器具に電動機械的ギミックは一切無い。昔ながらの地球に優しい手動式。だがいつの間にか機械化してやがる。あの白衣野郎、この短時間でどんな魔改造を施しやがった。
「結末までパクリとか救えねー」
眼鏡の男の言葉を合図に、さらにマシーンの振動が激しくなっていき――ブオンブオンブオンブオンブルルルルルルル――キリキリメチメチ。ぺったんぺったんズルズルズルリ。最後はザシュッ!!
【ダーウィン賞】デスゲームプロデューサーが開幕シボンヌwww【受賞確定!】
というわけで、私はノーベル平和賞ではなく、間抜けな死に方をした人に送られるダーウィン賞を受賞しました。やったね糞が。
ブランデーで酔っ払ったアメリカザルは、2度とそれに手を出さない。即ちニンゲンより賢いということだ。――チャールズ・ダーウィン