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第五話 支援魔導士、新人少女とパーティー登録をする


「一週間!?」


 ギルド職員から驚愕の数字を聞かされる。

 僕は驚きのあまりカウンターに身を乗り出し彼に顔をずい、と寄せる。

 黒ぶちメガネのギルド職員は、露骨に嫌そうな顔をしながら体を後ろに引いた。

 どうやら僕は一週間ずっと気を失っていたようだ。


「え、ええ。あなたが迷宮に入っていってから1週間が経っています。もっとも探索者証を提示せずに入るものだから、身元がわからず捜索隊を出せなかったんですよ」


 僕は現在迷宮出口のカウンターにてギルド職員に説教されていた。迷宮に入るときに申告を行わなかったためだ。

 探索者は基本的にギルドに守られている。そのため、迷宮で行方不明になったりすると捜索隊が出るのだ。貴重な戦力をできるだけ失わないための策である。

 しかし、僕の場合探索者であるという確認が取れていなかったために、捜索隊が出なかったという訳だ。

 普通は迷宮に潜る期間と身元を申告してから迷宮入りするが、それをしないと、今回みたいに迷宮の中で遭難しても助けは来ない、なんてことになる。


「全く、あなたはそもそもパーティーに属していたはずじゃないんですか? 支援魔導士が一人で潜るなんて自殺行為にもほどがありますよ」


 彼は僕が登録した時からカウンターで仕事していたので顔馴染みだ。

 当然僕のパーティーの事も覚えているのだが、僕が迷宮の中に駆け込んだ時によそ見していて僕だとわからなかったそうだ。

 彼は呆れたようにそう聞いてくる。


「ああ、パーティーは抜けました」


「ええ!? 何があったんですか」


 僕がそう答えると彼は少し大げさに驚いてみせる。理由を聞かれたが、僕は適当に誤魔化した。

 その後も適当に雑談をを交わしていたのだが、話に割り込んで来る者があった。


「あのー、ちょっと漏れそうなんですけどー……」


 顔を赤くして、内股になってぷるぷる震えているサラだった。





 今にも決壊しそうなサラを急いで近くのお手洗いへ連れて行った後、僕達は迷宮を出て通りを歩いていた。


「あの、これからどうするんですか?」


「ギルド本部に行く。パーティー登録をしなきゃいけないからね。君もギルドに登録する時に行ったでしょ?」


 彼女が目をキラキラさせながら聞いてくる。

 その希望と期待に満ち溢れた視線から、僕は思わず目を逸らしながら今後の予定を説明する。


「はい! でも、見ず知らずの私なんかとパーティーを組んでも本当にいいんですか?」


「君こそ見ず知らずの男にいきなりパーティー勧誘するなんて相当だと思うけどね」


 結構やばいと思う。冗談抜きで。


「悪い男だったらどうなってたんだろうねー?」


「えと、それはっ……ヨータさんは悪い人じゃないから!」


 僕がそう聞くと、彼女は手をわたわたと振りながら慌てる。


「ふーん。でも、今から態度が急に変わるかもよ?」


 僕は彼女を脅すように声を少し低くして凄んで見せる。しかし、彼女が怯えるということはなかった。

 ……やっぱり僕の顔には迫力がないのだろうか。依然ミカにも似たようなイタズラをやってみたのだが、あの時は笑われてしまった。


 傷つく。


「それはないです! ヨータさんはわざわざ体を張って私を助けてくれました。私の自業自得なのに……、とにかく、ヨータさんはいい人です!」


 サラは僕の脅しにも臆せず、僕がいかにいい人であるかを熱弁し始める。


「じゃ、もう着いたし登録しに行こう」


 僕はいい加減恥ずかしくなってそこで話を切り上げるとさっさと本部の中に入るのだった。


 



「パーティーを抜けたぁ!?」 


 僕がライオル達のパーティーを抜けたことはここでも驚かれた。あまり触れられるのも嫌なのでさっさと本題を切り出す。


「この子とパーティー登録をしたいです」


 そう言って横に一緒に立っているサラを指す。ちらりと視線をそちらに向けると、彼女のさらさらな金髪のストレートヘアーが見えた。


「なんですか?」 


「いや、なんでもないよ」


 しばらく見つめていると、彼女がこちらを向いてそう聞いてきた。彼女の綺麗な翡翠色の瞳が目に入り、慌てて視線を前に戻した。


「え!? この子と!?」


 ギルド本部職員がこれまた驚きの声を上げる。ギルドの人間は少しオーバーリアクション過ぎないだろうか。


「不都合がありますか?」


「不都合というか、なんというか……あなた特級探索者でしょう? この子は昨日登録しにきたばかりですよ?」


 これにはサラも驚いていた。僕が()()特級であることは知らなかったようだ。彼女は登録したばかりだから三級探索者。僕とのランク差はかなりあった。


「ヨータさんはそんなにすごい人だったんですか!? ……やっぱり私とパーティーを組むのは――」


「いや、すごくないよ。特級なんて肩書きだけだ。強い仲間が居たから」


「でも、やっぱり特級探索者になっているからにはベテランの方なんですよね? 新人の私なんかじゃ足手まといに……」


 僕が特級であることを知り急に遠慮しだすサラ。僕は少しむっとして言い返した。


「ならない、保証する。それに僕のレベルはたった5だ。君ならすぐに追いつく」


「でも」


「組みたいと言ったのは君の方。僕はそれを承諾した、それでいいでしょ」


「はっ、はい!」


 なんだか僕のほうが必死な感じになってしまった。傍から見たら気持ち悪く映ったかもしれない。僕は心の中で反省しつつ、受け付けの方へ向き直る。


「それで、パーティー登録をお願いします」


「……はい、了解致しました」


 ギルド職員が登録用紙を持ってくる。そこに僕たちの名前と必要事項を書き込めば登録完了だ。あとはギルド側で処理をしてくれる。

 その段階で、僕はあることをサラに聞いた。パーティーの名前だ。


「えと、パーティー名は――」





 登録が済んでギルドを出ると、もう夕暮れ時だった。西の空が茜色に輝き、迷宮街の街並みを淡く照らしている。

 と、オレンジ色に照らされた通りをサラと歩いていて、唐突に宿の事を思い出す。

 そういえば僕は拠点を追い出されている。何処かで宿を取らなければいけなかった。


「もう夕方だ。君は宿とってる?」


「はい!」


 サラに聞くと、彼女は元気よく笑顔で答えた。


「僕はまだ取ってないからこれから探して来るよ。今日はもう解散にしようか。明日の朝本部前集合でどう?」


「はい、問題ないです!」


「じゃあ、また明日ね」


 彼女の了承が得られたので、僕はそう言って別れる。

 宿を探すとは言っても、迷宮からあまり遠い所は嫌だ。

 したがって僕の頭の中に浮かんだ場所は一つのみだった。


「……謝らなきゃな」


 ヨザクラ亭だ。ナギサさんにはひどい事をしてしまった。あの件に彼女は無関係なのだ。

 彼女には誠心誠意謝罪しよう。そう考えに耽っていると……。


「誰に謝るんですか?」


 その声に後ろを向くと、サラが僕の後ろをまだ歩いていた。


「……なんで付いてきてるの?」


「えっと、私この先のヨザクラ亭って場所に宿を取っていて」


 そういうことか。何事かと思った。


「それじゃあ一緒なんだ。僕もヨザクラ亭に宿を取るつもりなんだ」


「そうなんですか! じゃあ一緒に行きましょう!」


 サラは僕の言葉を聞いて嬉しそうに僕の横まで駆けて来て、隣で歩き始める。年相応の無邪気な姿が可愛らしかった。

 


「おっ、着いたな」


 そうこうしている内に、ヨザクラ亭の前まで来てしまった。僕は少し入るのを躊躇するが、そんなことをしていてもどうにもならないので意を決して中に入った。


「いらっしゃーい! ……あっ」


 ナギサさんはいつものように爽やかに出迎えてくれたのだが、……だが、僕に気づくと途端に黙り込んで固まってしまった。


 僕たちのまわりになんともいえない微妙な空気が流れる。正直気まずい。

 

「「あの」」


 流れを断ち切ろうと自分の方から喋ろうとしたのだが、ナギサさんも同様に喋ろうとしたようで、声が重なってしまった。


「……そちらからどうぞ」


 ナギサさんにそう言われ、僕はその言葉に甘えることにした。

 

「その、この間はごめんなさい! ナギサさんは無関係なのに、……完全に僕の八つ当たりです」


 するとナギサさんは何故か慌てて僕のことを止めようとする。


「そんな! 謝るのはこちらの方よ。事情を知りもしないで分かったようなこと言って、無神経だった」


「いえ、親切心で言ってくれていたのはわかっています。そんな気にしないでください。悪いのは僕ですから」


「でも……」


「いえいえ」


 そうこうして謝りあっている内に、なんだか可笑しくなってしまった僕たちはどちらからともなく笑い出す。先ほどの微妙な雰囲気はすっかりほぐれていた。


「ところで、宿を取りたいんですが部屋はありますか?」


 一通りわだかまりを解消したところで本題を切り出す。すると、ナギサさんは申し訳なさそうにその整った眉を下げて答えた。


「あいにく昨日から混んでて、もう空いてないの。ごめんね?」


 何ということだ。この宿は街でもかなり大きい。そうそう満員になるはずがないと思っていたのだが、見通しが甘かったようだ。


「昨日まではいっぱい空き部屋あったんだけどね。本当にごめんなさい!」


 ぱんっ、と両手を合わせて謝ってくるナギサさん。前かがみになったことで彼女の大きな胸が強調され、思わずそちらに視線が行く。

 数秒間見とれてから、慌てて視線をそらして彼女にその姿勢をやめさせる。僕は気にしてない旨を伝えると、ようやく彼女も元々の姿勢へ戻った。

 僕は仕方なく別の宿を探すことにした。


「そうですか、残念です。今日は別の宿を取ることに「あの、私の部屋()()二人部屋です」え?」


 サラの言葉に振り向くと、彼女はもじもじしながら申し出てきた。


「その、一緒の部屋でもいいなら……相部屋にしませんか?」







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