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番外 パーティー崩壊への道 −1−


「おい、準備できたか? これから三日間迷宮に潜る、気を引き締めろ」


 ライオルは迷宮の入り口で、仲間達にそう確認をとった。その言葉にガレとミーナは肯定の意を示す。


「……ああ」


「言われなくったって分かってるってのー。ライオルしつこいよね」


 ガレは相変わらずの無口で、ミーナは面倒くさそうに答える。


「……」


「おい! ミカ、聞こえているのか! おい!」


 だが、ミカからは反応が返って来なかったため、ライオルは彼女を怒鳴りつける。ミカはしぶしぶといった様子で、ポツリ、と返事を返した。


「……分かったわよ」


 彼女はだいぶやつれていて、少し痩せたようにも見える。目元には(くま)ができていた。きれいな紅蓮の髪の毛にも、心なしかツヤがない。

 未だ落ち込むミカをみて、ミーナは文句を言う。

 ミーナは彼女の態度が気に入らなかった。だから彼女はミカを軽く睨め付けながら、少し馬鹿にするように言った。


「いつまでそんな演技続けてんの? そんなにヨータが好きなら一緒に付いていけばよかったのに」


 ミーナがそう言うと、ライオルがそれを否定する。ミーナは彼の反応に不満を感じ、聞き返した。


「それはだめだ」


「はぁ? ライオルなにいってんの」


「だめだと言っている」


 ライオルは整った表情を一切変えぬまま、先ほどの言葉を繰り返した。ミーナはライオルのその態度に怒りを覚え、声を荒げる。

 彼女は猫目を更に吊り上げて、ショートカットにした茶髪を振り乱しながら、ライオルに歩み寄った。


「なんでよ! いつまでもあんな様子見せられるこっちの気持ちにもなって欲しいんですけど……大体、ライオルと役職被ってるし別にいなくても困らないっしょ」


 ライオルは目に少し掛かった青い前髪を手で退けながら簡潔に理由を述べた。


「ミカは大事な火力要員だ。外れることは許さない」


「はぁ!? 意味わかんな……」


 ミーナはそれでも不服なようで、そう吐き捨てるように言った。ライオルは彼女の反応にそのまま離れて行こうとする彼女を引き止め、少し語気を強めて言う。


「ミーナ、リーダーは俺だ」


「分かってるってば」


 もう聞きたくないとばかりに耳を塞ぐミーナ。そんな彼女をライオルは軽く一瞥(いちべつ)すると、そのまま荷物を持ち上げ、ギルド職員が待機している受け付けの方へ向かう。

 探索者証を見せ、戻ってくると言った。


「とにかくそういうことだ。出発するぞ」


 こうして彼等はクエストに出発するのだった。

 




「今回はトリコロール・ドラグーンの討伐だ。もう何度もやってるからわかると思うが、いつも通りそれぞれの首の動きに気をつけろよ」


 迷宮にて、一行は雑談をしながら深層へと向かっていた。現在は第十四階層、中層だ。


「あれねー、なんで首の色がそれぞれ違うんだろ? 気持ち悪いよね」


 トリコロール・ドラグーンは簡潔に言うと三つ首のドラゴンだ。それぞれの首の色が違うのが特徴である。左から青、白、赤の色だと決まっていて、何故首の色が違うのかについてはまだわかっていない。

 ライオルはミーナに聞かれたが、興味なさげに適当に答える。


「さぁな」


「……ライオルってノリ悪いよね」


「……おい、敵だ」


 ミーナが半目になってズンズン前を進んでいくライオルを見つめていると、今まで黙っていたガレが喋った。


「「!」」


 どうやら彼は敵を察知したらしい。ガレは盾槍士スキルのほかに、探知系スキルを持っている。 

 今まで黙っていたミカも含め、全員ですばやく戦闘体勢に入っ

た。

 しばらく、その場で待ち構えていると、暗がりから出てきたのはゴブリンの集団だった。

 しかし、その全ての個体が普通のゴブリンより一回り大きい。

 それだけでなく、筋肉もよく発達しているようだ。

 どうやらこれはゴブリンではなく、ハイゴブリンという、ゴブリンの上位種なようである。


「いつものハイゴブリンか、楽勝だ」


「ちゃちゃっと終わらせて休憩しよ!」


 ライオルは相変わらず顔色一つ変えず、自らの得物を抜き放つ。ミーナも全く緊張はしていない様子で、杖をブンブンふってストレッチを始めた。

 

「グギャッ、ゲギェ!」


 ハイゴブリン達が雄叫びを上げながら襲いかかってくる。


「ハッ! セェッ!!」


 ライオルはその中に突っ込み、激しい剣戟を繰り出す。一振りで複数のゴブリンをなぎ倒しながら、確実に殲滅していった。

 そうしている内に、ミーナの準備が終わったようで杖を天に向けてかかげると、魔法を放った。


「魔法行きまーす! 気をつけてー」


 そういったミーナの杖の先から出たのは、火の攻撃魔法だった。勢いよく射出された火球は、先頭にいた集団をことごとく焼き払う。

 ――爆炎。

 レベル9の彼女の攻撃魔法は、そう形容するほかない程に絶大な威力だった。


「ふっ、ハァっ!」


 ミカも鮮やかな剣捌きで、次々とゴブリン達を斬り伏せていく。

 彼女が剣を振るうたびにゴブリンの血が線となって宙を舞った。

 

「……」


 ガレも、自慢の盾と槍で身を守りながら応戦する。彼が槍を突くたびにゴブリンが一匹、また一匹と倒れていく。

 さすがは特級探索者パーティーである。

 この程度の相手では、苦にもならない。彼らの戦いぶりを見れば誰もがそう思っただろう。

 しかし、ヨータが居なくなったことの影響は確実に現れていた。


「いっ」


 ミカが躓き体勢を崩す。彼女が咄嗟に押さえた左足からは、血が流れ出していた。

 ハイゴブリンの攻撃が当たってしまったのだ。


「おい、ミカ! どうした……っ!?


 ライオルがミカに気を取られ、目の前から視線を外した途端にゴブリンが飛びついて来た。ライオルは咄嗟に避けようと飛び退こうとするが、間に合わない。

 だが、ガレが横から槍を突き入れたことで、ゴブリンの攻撃がライオルに当たることは無かった。

 横腹を貫かれたゴブリンは苦しげなうめき声を上げると、あっさり絶命した。

 ハイゴブリンは今の一匹が最後だったようで、先ほどいた群れのその全てが地に伏せっていた。

 それを確認したライオルが、ミカに駆け寄る。


「おい、大丈夫か」


「少し深く刺された」


 ミカはライオルの問いに傷口を抑え、唇を噛みながらそう答えた。


「ちょっと、何やってんのミカ! 危ないじゃん!」


 ガレとミーナも寄ってくる。ミーナは険悪な表情でミカを糾弾する。


「あんたが怪我したせいでライオルまで危なかったじゃん! 流石にボケっとしすぎでしょ」


「ミーナ、ちょっと黙れ」


「なんで? ミカのせいでライオルが……!」


「いいから黙っていろ」


 ライオルがミーナを制止する。そして、ミカの肩を抱えると、立ち上がった。


「休憩だ。手当てしよう」


 そう言って部屋状になっている通路の方へ向かう。それを見ていたミーナは軽く舌打ちをするのだった。





 ヨータが居なくなって一週間が過ぎた。私はずっと部屋に引きこもっていたのだが、クエスト依頼があってライオル達と一緒に迷宮へとやってきていた。

 今は休憩中。私が怪我をしたからだ。

 ミーナの魔法で焚き火をし、4人でそれを囲んで座っていた。


「で、なんでポーションで傷が治らないの?」


 ミーナがこちらを向いて聞いてくる。私が答えようとする前に、ライオルが答えた。


「毒だ。かなり弱いが」


 先ほど斬りつけてきたゴブリンの刃先には、毒が使われていたようだ。私の足には包帯が巻かれている状態だ。まだ時々ズキリと痛む。


「おそらく傷口が塞がるのを阻害する毒だろう。毒はポーションじゃ解毒出来ない」


「そういや毒になんてなったことないから持って来てなかったね。解毒剤」


「ああ、だから帰ってから解毒は行う。幸い致死毒ではないようだから安心しろ」


 ライオルがそう言うと、ミーナは安心したようにため息をついた。そしてあぐらをかくと、はずんだ声で話し始める。


「はーあ、ミカが失敗なんかするからどうなるかと思ったよ。……そういえばさ、ヨータなんか居なくてもやっていけてるじゃん。やっぱり追い出して正解だったね」


 ミーナがそう同意を求めるようにライオルに話しかける。


「ああ、あれがいかに穀潰しのクズだったか。本当にせいせいする」


 ライオルもヨータのことを口汚く罵る。

 違う。そんなはずはない。ヨータは少なくとも足を引っ張っていたことはなかったのだ。ライオル達は勘違いしている。

 だが、私がそれを口に出すことはない。ヨータが追い出された後、必死に説得しようとしたのだ。

 でも、彼らは聞く耳を持ってはくれなかった。何を言っても無駄なのだ。

 今回の怪我は私の不注意もあるが、避けられなかったのは支援魔法が掛かっていなかったからだ。普段の自分なら避けられたはずなのだ。

 ライオルも、先ほど不覚を取られたとき、本来なら反撃できていた。支援魔法がなかったから、いつもの動きができていないのだ。

 私達毒にかからなかったのも、もしかしたらヨータの支援魔法のおかげだったかもしれない。

 いや、間違いなくそうだ。ヨータは無能なんかじゃない。


「とにかく、今日はもうここで休もう。明日には深層に着くだろうからな」 


「はーい」


 ライオルとミーナはそんな会話をして、寝袋に潜りこんだ。

 私はガレと二人きりになる。ガレとはしばらく無言で向かい合っていたのだが、あちらの方から話しかけてきた。


「……傷は大丈夫か」


「うん」


「……ならいい、しっかり休め」


 何故その言葉がヨータには向けられなかったのか。私の心は、仲間から労いの言葉を掛けられるたびに傷ついていった。

 ヨータは、仲間だったはずなのに。それなのに……。


 私達の関係は、このときからすでに壊れ始めていた。



 


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