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第四話 支援魔導士、新人少女と出会う


「てめぇこのォ……なめやがって」


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 アニキと呼ばれたオークの一匹が少女の首根っこを捕まえ、自分の顔の辺りまで持ち上げる。

 少女はオークにものすごい形相で睨みつけられ、半泣きになりながら必死に謝っていた。

 迷宮のオークは知能が高い。人間と同じ言葉を話し、戦闘においては仲間との連携を得意とするためかなり厄介な魔物だ。

 

「アニキぃ! 許す必要なんかねぇよ! さっさとやっちまいましょう!」


 もう一匹のほうが興奮した様子で、アニキオークを急かし立てる。

 早く助けなければ。そう思うものの、なかなか飛び出すタイミングが掴めない。

 無策に飛び出しても、彼女を人質にされてしまえばどうしようもない。僕がそう思案しながら覗き込んでいると……。


「あっ! お兄さん助けて下さい!」


 ぱっと顔をあげた少女が僕の事を見つけて声を上げた。

 その声と同時に二匹のオークもこちらを向く。


「……」


「「……」」


 暫しの沈黙。双方共に無言で見つめ合う。


「お兄さん! あの、お兄さーん? 助けてくださーい」


 そんな中少女だけが元気に声を上げ続けていた。

 まぁ、いつまでも固まっていては仕方がないので、とりあえず彼らの前まで進み出る。そして、殺気立ったオークさん達に僕は話しかけた。


「あのー、女の子をよって集ってイジメるのはどうかなー、なんて」


「ああ? なんだぁてめぇ」


 オークの口からドスの効いた声が発せられる。やっぱり結構怖い。このままフェードアウトしたい。

 今まで支援魔導士として後ろから味方に支援魔法を掛けていただけだったのだ。今の僕ならオークぐらいに遅れを取るはずもないのだが、迫力に気圧され思わず足がすくんだ。


「あっ、どーもヨータって言います」


 思わず普通に名乗ってしまった。一応特級探索者、なのだが今の僕は客観的に見てとてもそうだとは言えない状態だった。

 実に情けない。


「……今なら見逃してやる。失せろ」


 少し間をおいてからオークがそう言う。正直従わせていただきたいが、そう言うわけにも行かない。

 なので、僕は平和的解決を試みることにした。


「あのー、あなた方はどうしてそんなに怒っていらっしゃるんでしょうか……」


 聞くと子分? の方のオークがいきり立つ。


「ああ!? お前には関係ねぇよ! どっかいけ!」


「おい、お前はちょっと黙ってろ」


 それをアニキなオークが手で制する。少女は首根っこを掴み上げられたままである。


「お前はこいつが俺たちに何を言ってきたか分かるか?」


 あっ、なんか嫌な予感。僕が悪い想像を膨らませていると、オークはその先を言った。


「……あろうことか、あの森林オークどもと俺たちを同じ扱いにしやがったんだ! あんな頭の中性欲で満たされた低能共と一緒にしやがって、許せねぇ!」


 嫌な予感は当たった。どうやら彼女は迷宮のタブーを犯してしまったらしい。

 実は迷宮オーク、特に敵対関係にあるわけではないのだ。人間と敵対している森林オークとは根本から異なる。

 森林オークは基本的に知能が低く、言葉も話せない。しかも性欲が強く、人間の女をよく襲うために害獣として定期的に駆除されているのだ。

 反して迷宮オークは理性が存在する。特に自らが人間を襲うこともない。

 森林オークなどと一緒にされてはそりゃあ腹も立つだろう。

 迷宮オークと敵対するような時はだいたい人間側に問題があることがほとんどだ。

 今回も例に漏れず少女がやらかしてしまったようである。

 迷宮初心者がやりがちなことだ。迷宮オークを森林オークと同じ物だと間違った理解をし、敵対行動を取ってしまうことは。

 無知ゆえの過ちである。

 証拠に、彼女の足元には剣が落ちていた。

 

 まぁ、これは仕方ないな、うん。


「ああ、そういうことでしたか。僕が首を突っ込むようなことではありませんでしたn「待ってください!」」


 僕がそうして静かにその場を離脱しようとすると、悲壮な顔をしたおそらく新人であろう少女が必死に引き止めてきた。


「待ってください! このままじゃ、私……私」


 彼女は僕に震える声で必死に訴えかけてくる。


「オークさんに〇〇して×××されて(自主規制)されちゃいますぅ! だから、お願い!」

 

「おいゴルァ!」


「ひぃっ!」


 なんとこの少女、火に油を注いでしまった。

 このままでは彼女の身が本当に危ない。迷宮オークはああ見えて温厚な性格なので、あのまま放置していても軽い折檻で済んだだろう。

 だが更にヒートアップさせてしまえば本気で危ない。大怪我ではすまないだろう。

 僕は仕方なく離れて行こうとしていた足を止め、引き返す。

 そして彼女を助けるべく、オーク達にお願いをするのだった。

 DOGEZAをしながら。


「彼女を離してやってください! 僕ならいくらでも殴られていいですから!」

 

「あーん? そんな庇うほどの仲なのかお前」


「はい! そうです! 彼女は僕の……恋人です!」


「へっ!?」


 とりあえずハッタリでもなんでもいい。彼女へのヘイトを僕へとそらす。僕の言葉を聞いた少女は驚いている。

 そして肝心のオークはというと……。


「ふん、いいだろう。ならお前、ツラ貸せや」


 信じてくれたようだ。彼は彼女を離して、僕の方へとやってくる。


「立て」


「はい」


 言われたとおりに立ち上がると、オークは拳を思い切り振り上げ――!





「先ほどはありがとうございました!」


 新人探索者の女の子に頭を下げられる。彼女の名前はサラといい、年頃は僕とさほど変わらないように見える。彼女はミカと同じ細剣士のようだ。

 彼女はつい2週間前に迷宮街に来たらしく、探索者ギルドに登録したのもつい昨日の事らしい。

 正真正銘の初心者だった。


「その、お怪我とかはありませんか? 私のせいでほんとに……ごめんなさいっ」


「ああ、うん。大丈夫だから安心して」


 実際の所、傷一つつかなかった。スキルのおかげで異常な防御力になっていたためだ。

 この迷宮の深層域にいる上級の魔物でないと僕にまともなダメージを食らわせる事はできないだろう。


「それで、新人だっていうから知らなかったのかもしれないけど迷宮にいるオークと森にいるオークを一緒にしちゃだめだよ」


「はい、気を付けます」


「彼らは紳士だからね。森のオークとは違う」


「えと、紳士……?」


 紳士なはずだ、多分。ちょっと口調が荒いだけだよ。僕とのオハナシアイに応じてくれたしね。


「うん、紳士だ」


「はぁ……」


 そこで一旦会話が途切れる。僕たちは静かに迷宮の外へと向かっていた。

 暫くするとサラがソワソワしだす。心なしか頬を上気させている気がする。


「……どうしたの?」


 僕が疑問に思って聞いてみると、彼女はこちらをチラチラ見ながら恥ずかしげに話しだした。


「その、さっきの恋人って……」


 あっ。


「いや、あれは嘘だから」


 ただのハッタリだ。オークを騙すためについたただの嘘だ。本気で言っていたわけじゃない。僕はそんなイタイ人じゃない。


「いえ、それは勿論分かっているのですが……その」


「?」


「か、カッコよかったです」


 あれがカッコよかったのか。ちょっとこの子は感性がズレてないかな。

 僕はこの子の頭がちょっと心配になる。でも、ちょっとだけ嬉しいとも思った。支援魔導士はどちらかと言えば馬鹿にされる職業だ。

 僕は少なくとも今まで一度もかっこいいなんて言われたことはなかった。


「……どうも」 


 僕は素直にお礼を述べる。気恥ずかしくて少しぶっきらぼうな返答になってしまった。


「それで、ちょっといいですかっ?」


「?」


 まだ何かあるようだ。僕はそれに耳を傾ける。


「ヨータさんは、誰かとパーティーを組んでたりするんですか?」


「組んでないよ」


 今はね。

 一瞬彼らのことが頭をよぎったが、すぐに振り払う。


「それで?」


 僕が次の言葉を促すと、彼女は一旦息吸うような仕草をする。そして、


「よかったら、私とパーティーを組んでいただけませんか?」


 そんな”お誘い”をかけてきた。

 パーティーか。何処かに入ろうとは思っていたけど、まさか誘われるとは。

 

「あの、断ってくれてもかまいま「いいよ」」


 僕は二つ返事で了承する。僕の返答の早さに、サラは目をぱちくりさせていた。

 こうして、僕とサラはパーティーを組むことになるのだった。





 一方、ライオル達のパーティー拠点にて。


「おい、ミカ。いつまでそうやってるつもりだ」


 ライオルがミカに話しかける。


「……どっか行って」


 ミカは、カーテンで窓を仕切り暗くなっている部屋の、真ん中にあるベットの中で、三角座りをしてうずくまっていた。

 ライオルはその返答に苛立ちを覚えたのか、少し声を荒げる。


「おい! もう一週間もそうしているだろ! んなことしたってアイツは帰ってこない!」


「うるさい!」


「……チッ」


 ミカは聞く耳を持たない。

 ライオルはそんな彼女の様子に舌打ちをしながら、要件をとりあえず伝えることにした。


「明日から深層で討伐クエストだ。俺たちに打診が来てる」


 ミカからの反応はない。だが、ライオルは続けた。


「……お前は勘違いしてるんだ。あいつなんかいなくてもやっていけるって事を証明してやる」


 部屋を出る前に一言。


「あいつの事なんか忘れさせてやる」


 ライオルはそう言って彼女の部屋を出たのだった。


 

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